「現代の魔法使い」落合陽一(右)と「ヤバイTシャツ屋さん」ギター&ボーカルの小山拓也(左) 「現代の魔法使い」落合陽一(右)と「ヤバイTシャツ屋さん」ギター&ボーカルの小山拓也(左)

小山拓也はバンド「ヤバイTシャツ屋さん」をギター&ボーカルとして率いるミュージシャン(バンドでは“こやまたくや”名義)であり、“寿司くん”の名義で同名のアニメ『寿司くん』を製作したり、さまざまなミュージックビデオ(MV)を手がけたりする映像作家でもある。

2016年に大きな話題となり、昨年9月には文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門新人賞を受賞した岡崎体育の楽曲『MUSIC VIDEO』のMVも彼の作品だ。

ただ、彼の作品群の独特かつ圧倒的な面白さを語ろうとしても隔靴掻痒の感は免れない。まだ未体験の方はぜひチェックしていただきたい、と足早に済ませ、小山の才能の“早期発見者”のひとりである落合陽一に、出会いの衝撃を語ってもらおう。

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落合 3年前にISCA(インターナショナル・スチューデント・クリエイティブ・アワード)という賞の審査員をしていたときに、彼の『あつまれ! わくわくパーク』っていうヤバい映像作品を観て、その瞬間に「こいつ天才だ!」って思って。僕は普段、積極的に人に対して仲良くなろうぜって言わないんですけど、そのときは「天才すぎたんで一緒に写真撮ってください」って言ったくらい。そんな感じで知り合った最高に面白い小山さんが、京都からはるばる来てくれました。はい、拍手~!

小山 よろしくお願いします、小山です。映像作家としては寿司くん名義でやってます。ライブの後なので声が枯れてます。僕は今25歳で、こんなぺーぺーが来てしまってすごく申し訳ないんですけど、頑張ってしゃべりたいと思います。

僕は今、MVの制作と、『寿司くん』のキャラクタービジネスと、16年にメジャーデビューした自分のバンドでの音楽活動、3つのコンテンツに関わる仕事をしています。

この3つは全部学生の時に始めたもので、いまだにそれが続いている状態です。今日は学生のうちからできるセルフプロデュースの方法とか、個人レベルでどれだけバズらせられるかといった話をしたいと思います。

僕は大阪芸術大学という大学の芸術学部映像学科の出身で、アニメーションとかMVとか、あとコントとかドキュメンタリーとか、ジャンルを問わずに作れる人になりたいと思ってました。

 学生時代に発表したアニメ『寿司くん』シリーズはカルト的人気を誇り、グッズも多数発売されている。 学生時代に発表したアニメ『寿司くん』シリーズはカルト的人気を誇り、グッズも多数発売されている。

落合 そういえば俺、大阪芸大の客員教授だ(笑)。大阪芸大盛り上げていきましょう!

小山 盛り上げていきます。ありがとうございます。それで大学2年生くらいから、『寿司くん』っていうあんまり動かないアニメを作り始めました。『寿司くん』はけっこう長い時間をかけて“小バズり”しました。大バズりはしてません、小バズりなんですけど、学生の自主アニメにしては観られてるほうやと思ってます。グッズの売り上げで食べていけるくらいにはなりました。

なんで観られたんかというと、けっこうSNSを活用して個人的に広めてたんですね。2013年当時って、確かにツイッターは流行ってましたけど、今と比べたらそんなにリツイートは伸びてないイメージです。そんななかで僕は、まず寿司くんっていう名前で「面白いふうのこと言うアカウント」を作りました。面白くないんですけど、面白いふうのことをツイートして、寿司くんの名前を広めた上で、『寿司くん』のアニメを投稿して。そうやって、観てもらえる環境を先に作ってました。

そんななかでMVも作るようになり、大阪のインディーズ界隈のMVの制作をずっとやっていました。

インディーズシーンでは、やっぱりいかに低予算でインパクトを与えられるかが重要になってきます。映像を流しながら話します――。

予算6万円で制作したMVが2000万回再生

寿司くん自身の解説つきMV鑑賞会の始まりだ。岡崎体育がメジャーデビューの際に公開され、大きな話題を呼んだ『MUSIC VIDEO』のMV映像はどのように作られたのか。

小山 岡崎体育さんって、それまでほんまにライブハウスでしか活動してない人だったんですが、僕が『家族構成』とか『FRIENDS』のMVを作ってアップして、それでちょっと人目に触れて。そこで、これはやっぱり映像ありきの音楽なんやって岡崎さんも思ったんやと思うんですよ。それを逆手に取って、もうほんまに映像ありきで作った曲が『MUSIC VIDEO』です。

この映像は2000万回再生され、岡崎さんは大ブレイクしました。僕は歌詞をもらってから演出をつけて映像にしたんですが、これはもう学生時代にやってきた低予算でできることの総まとめみたいな感じの作品で。予算6万円で、実際かかったのは3万円くらいです。自分で見直してもすごい熱量感じますね、映像から。これで売れてやるっていう岡崎さんの気持ちとか、これで売ってやるっていう僕の気持ちが出てて面白いビデオだと思います。

(“MVあるある”が満載の作品映像を観ながら、具体的な解説が始まる。例えば、アナログテレビを何台か並べて“砂嵐映像”を流すという場面)

これは僕の実家から電源コードを300mくらい引っ張ってきて撮ってます(笑)。

とにかく移動が多かったんですよ。作品にかかる費用より、移動の際のガソリン代のほうがかかってます。大阪・京都・奈良って。

(そして最後の場面)

これはドローンに見せかけた、手持ちのスタビライザーです。僕が必死に走って撮ってるんですよ(笑)。

予算6万円で制作し、2000万回再生。言ったらトップパフォーマンスですよね。(上映後、自然と起こった拍手を受け)ありがとうございます。てことで、岡崎さんの作品でした。

そのうちに僕は「撮ってるだけ」がイヤになってきて、自分でもバンドをやりたくなったんです。…って、なんかイヤな言い方ですね(笑)。でも、もともと音楽が好きで、そこから映像をやりだしたっていう過去が高校時代にあるんで。

それで、ヤバイTシャツ屋さん(通称ヤバT)っていうバンドを始めました。これも『寿司くん』と同じように、最初からプロモーションに力を入れてました。まず、ツイッターで公式アカウントの皮をかぶったふざけたアカウントを作って、口コミで広がるように仕向け、比較的拡散されやすい状況を作ることができました。それもあって16年、ヤバイTシャツ屋さんもメジャーデビューしました。

という感じで、学生時代に始めた3つのコンテンツが今も続いてるわけですが、プロモーションに力を入れて、ひとりでも多くの人に観られたい、聴かれたいという思いが一貫してあります。

プロモーションにアーティスト自身が力を入れるのって、正しいのかどうかわからないですよね。だけど、いわゆる自分のエゴだけで作品づくりして、自己満足で終わってしまうのってイヤじゃないですか? 僕はイヤなんですよ。やっぱりそれはほんまに恥ずかしいんですよ。作ったものが見られないっていうのが。それが僕のポリシーになってます。

https://www.youtube.com/watch?v=J5oytYDMWHA

客観視して自分をどれだけよく見せられるか

落合 ありがとうございました! では対談パートに移ります。僕が小山さんに対して思ってるのは、ひと言。天才なんです。

小山 あはは。そんなこと言われることないですよ、僕。

落合 なんで天才かというところを言語化できる自信が僕にはあってですね。小山さんは人の心を揺さぶるところをちょっと外すのがすごく得意だな、と思うんです。逆にアーティスティックなほうの天才って、えてしてそこの感覚がないからバズらないんですよ。やればやるほど、外れていくんで。そこんとこのバランスがうまいなと思ってるんですが、なんだろう。人を見るのが好きなんですか?

小山 なんか自分の作ったものを、普通より客観的に見てしまうところがあって。これ以上いくとイヤな感じになってしまうなとか、これ以上いくと批判する人が増えるなとか。常に気にしてる感じはありますね。

落合 『寿司くん』のアニメにしても、ギリギリ藤子プロに怒られないところを狙ってるしね。そういう感覚がいいなって思うんですが、普通はマネできないですよ。

今日はプロモーションの話をしてくれたけど、ヤバTもメジャーデビューして、たぶん制作費も回るようになってますよね。そんな中でもセルフプロデュースやってると、「アーティストは曲だけ書いてればいい」みたいなことを言われるわけだけど。

 ヤバTの最新アーティスト写真。100万円かかっているという噂だが、“それなのに顔が見えないアー写”とSNSで話題に。 ヤバTの最新アーティスト写真。100万円かかっているという噂だが、“それなのに顔が見えないアー写”とSNSで話題に。

小山 そうですね。それってやっぱり売れてる人が言えば説得力あると思うんですが、たいていはまだそこに立ててない人が言ってるわけで。

落合 批判する人はだいたい美大生崩れとか、イケてないバンドマンとかですよね。この地点までいったら批判が出なくなったとか、そういう分岐点はありましたか?

小山 インディーズ時代は「映像作家が遊びで音楽やってるだけやん」とか言う人もいましたが、やっぱり大型フェスに出るようになってからですね。周りにそんなこと言う人全然いいひんし、売れてる人売れてない人で全然考え方が違うんだろうと思います。

落合 それ、すっごく分かる。僕に対しても、以前は「あいつのやってることは研究なのかアートなのかわからない」みたいにぐちぐち言ってた人たちがいたんだけど、みんなそんなに定義論まで踏み込んで業界に対してポジティブな改善アクションを取らない。で、僕が2015年に『魔法の世紀』って本を出して、それがそこそこ認知されてからは、逆に売れてない人のぼやきや愚痴は発言自体がなくなっていって。

小山 自分で作ったものを自分で褒めるのを気恥ずかしいって人が多いと思うんですよね。僕やったら、「自分の曲作ったから聴いて! Youtubeにアップしたから見て!」ってすごい自信満々に言うんですけど、なんかそれが、普通のテンションの人やったらなかなかやりづらいのかなとか思ってて。

落合 なるほどね。僕はセルフプロデュースっていうものの本質をひと言でいうと、「客観視」だと思っていて。自分がどう思われてるか、思われてほしいかをうまく調節してやることです。

小山 企業がやるようなことをアーティスト本人が代わりにやるのがセルフプロデュースだ、ってわけではなくて。今言われたみたいに、客観視して自分をどれだけよく見せられるかってところやと思うんですよね。あと、個人でやることで逆に嫌味なくできると思いますし。

◆後編⇒落合陽一×小山拓也(バンド『ヤバイTシャツ屋さん』ギター&ボーカル、映像作家)「みんな“大人の臭い”に敏感になっている」

■「#コンテンツ応用論2017」とは? 本連載は筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。“現代の魔法使い”こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トーク。学生は「#コンテンツ応用論2017」つきで感想を30回ツイートすれば出席点がもらえるシステムで、授業の日にはツイッター全体のトレンド入りするほどの盛り上がりです。

落合陽一(おちあい・よういち) 1987年生まれ。筑波大学学長補佐、准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピューターが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。1月31日に新刊『日本再興戦略』(NewsPicks Book、幻冬舎刊)が発売予定。

小山拓也(こやま・たくや) 1992年生まれ、京都府出身。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業。在学中から"寿司くん"名義で、シュールなアニメシリーズ『寿司くん』やMVなどの映像作品を発表。監督した岡崎体育の楽曲『MUSIC VIDEO』のMVは文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門新人賞を受賞。並行してバンド「ヤバイTシャツ屋さん」のボーカル&ギターとしても活動し、2016年にユニバーサルミュージックからメジャーデビュー。今年1月10日発売の2ndアルバム『Galaxy of the Tank-top』はiTunes週間アルバムランキングで1位を獲得!

(構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博 協力/小峯隆生)