国家権力が人々を監視する際、普通は「人権」が歯止めをかける。しかし、その「人権」を無視できる巨大な独裁国家・中国では、AIによる監視システムが恐ろしい勢いで進化を遂げつつある!
『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが中国の「超AI監視社会」について語る!
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昨年12月、中国政府は人工知能(AI)分野における目標と戦略を掲げました。いわく、今後3年以内にトップランナーであるアメリカに追いつき、2030年までに"世界のリーダー"になる――。
これは決して絵に描いた餅ではありません。近年、アリババや百度(バイドゥ)、テンセントといった有力な中国系IT企業はAI研究に巨額の費用を投じていますし、約14億の人口という圧倒的な人的リソースをもとにしたディープラーニング研究もアメリカ以上に進んでいるといいます(事実、ディープラーニングに関する論文の発表数では13年の時点で中国がアメリカを抜いて世界一となっており、その差は広がる一方です)。
見逃してはならないのは、こうした驚異的な進化の背景に、「国民の意向や人権を無視できる」という中国ならではの事情があるという"不都合な真実"です。
例えば、中国国内には昨年秋の時点で監視カメラが1億7000万台設置されており、今後3年間でさらに4億台が追加されると推定されています。こうした監視カメラの多くにはAIが搭載され、顔認証などの識別技術により、群衆の中にいる個人の行動を特定・監視できるレベルに達しています。
また、同じ12月にはイギリスの国営メディアであるBBCが、中国の犯罪者追跡システムの精度がどれほど高いかについて、現地の警察当局の協力を得て中国南西部の都市で実証実験をしたと報じています。その結果、なんと人混みの中に紛れ込んだ指名手配犯役の人間は、たった7分以内で"捕獲"されてしまったというのです。
この監視カメラシステムは、瞬時にして人の顔と歩き方を識別して個人を特定し、データベースと照合して年齢、性別、身長、民族アイデンティティを判定。その上、親族や知人といった人的ネットワークまで割り出すことができるそうです。ここまでくると、犯罪者のみならず中国当局の意に反する行動をとる人権活動家やメディア関係者らは、ひとたびターゲットとなってしまえば逃げ切ることはかなり難しいでしょう。
さらに、中国当局が住民に対して苛烈(かれつ)な人権侵害を行なっている新疆(しんきょう)ウイグル自治区では「体内」にまで監視が及んでいます。当局は同自治区に住む12歳から65歳までの住民を対象に、"無料検診"という名目でDNAや血液のサンプル、指紋、虹彩(こうさい)、血液型などの生体データを収集し、すでに同自治区の総人口の9割に当たる約1900万人分のデータを集めたと報じられています。
まるで戦前の日本の隣組(となりぐみ)制度のように、各住民に密告を促す従来の方法と並行して、超高度なAI技術でも人々を監視する。しかも、その精度は巨大規模のディープラーニングによって日々、向上していく――。これがAI大国・中国の"暗黒面"なのです。
★後編⇒恐ろしい勢いで進化する中国の「超AI監視社会」が世界を覆う日
●Morley Robertson 国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日本テレビ)、『報道ランナー』(関西テレビ)、『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送)、『けやき坂アベニュー』(AbemaTV)などレギュラー・準レギュラー出演多数。2年半におよぶ本連載を大幅に加筆・再編集した新刊『挑発的ニッポン革命論煽動の時代を生き抜け』が大好評発売中!!