かつてはアニメや映画の世界の空想科学でしかなかった“搭乗型スーパーロボット”が現実に!
5月5日、栃木「ツインリンクもてぎ」にて一般公開された「J-deite RIDE」(ジェイダイト・ライド、以下、ジェイダイト)は、二足歩行ができる巨大ロボット(約4m)で、ふたりまで搭乗可能。
しかも、人型(ロボットモード)←→車(ビークルモード)に変形する、まさにリアルな「トランスフォーマー」(*1)!
ということで、このロボットの開発で指揮を執った石田賢司氏(ハード担当)と吉崎航氏(ソフト担当)に直撃! スーパーロボットの近未来を語ってもらった。
■巨大ロボットの“カッコいい歩き方”
―なぜ巨大ロボットを造ろうと?
石田 ただ私がロボットに乗りたいと思っただけです。でも、誰も造ってくれないから、だったら自分で造ってやろうと(笑)。
吉崎 私の場合は、中学時代に「物理的に8m級のロボットは造れる」という内容の自由研究を発表しまして。その頃から『機動戦士ガンダム』や「トランスフォーマー」が好きだったこともあり、そのまま大人になったという感じです。
―ジェイダイトのデザインは、ガンダムを手がけたメカニックデザイナー・大河原邦男氏(*2)が協力されたそうですね。
吉崎 大河原さんには「勇者ロボ」(*3)を意識していることを最初に伝えました。
石田 サイズ感や車から変形するところなど『勇者警察ジェイデッカー』(*4)が一番近いですね。ただ、立ったまま車輪で動く点は『装甲騎兵ボトムズ』(*5)。ちなみに、どちらも大河原さんがデザインしたロボットです。
―機体の話になりますが、「クラタス」(*6)のロボット制御システム「V-Sido(ブシドー)」が今回のジェイダイトにも実装されているということですが、何か変更点は?
吉崎 基本的には同じです。ただ、クラタスとはまったく違う石田さんが造ったロボットに、V-Sidoをどう対応させるかという点では新しい試みでした。特にクラタスは重機と同じで油圧で稼働しますが、ジェイダイトは産業用のモーターで動くので。
―どんな産業用モーターを使ったんですか?
石田 自動車工場の生産ラインにある、車体を丸ごと持ち上げたりする機械に使われる種類のモーターを、手足の主要な関節に使っています。全高が3.7mという巨大ロボに使えるモーターは、あまりなくて、これが一番適切だと判断しました。
―開発で苦労したことは?
石田 安全面の確保は困難でしたね。ジェイダイトの先行機は全高1.3mの非搭乗型だったので、転んでフレームが潰れても、修理するのが大変なくらいで済みますが、人が乗るからにはそうはいかない。
吉崎 コックピットだけでいろんな衝撃テストを行ないました。ダミーを乗せて、相応の高さから機体を倒しても問題ないかとか、そもそも倒れにくい“安全な歩き方”を追求したりとか。
―と言いますと?
吉崎 コックピットの振動を抑えたり、歩行中に電源が切れても途中で倒れたりしないよう、常に重心を足裏にかけた状態にするんです。ただ…あまりカッコよくない(笑)。理想としては、足を開き気味にしたままガシャンガシャンと前に進む感じですね。
―ガンダムやトランスフォーマーみたいな?
吉崎 そう。でも、そんな動き方をすれば、激しい振動がコックピットに発生して、搭乗者は操縦どころじゃない(笑)。
とはいえ、これはジェイダイトの開発でわかったことなんですが、ガンダムとかマジンガーZといった20m近いロボとは違い、4mほどであれば、振動は比較的おとなしい。このサイズであれば、安全性を担保しつつ、“カッコいい歩き方”を実現できるかもしれません。
飛行中に合体する夢のロボット
■スーパーロボットが社会に浸透する日
―他にジェイダイトの開発でわかったことは?
石田 地味なんですけど、巨大ロボットは“バッテリーのみで動かせる”という点。たぶん稼働時間は3時間くらいある。これはすごく長いと思います。
―確かに長い。エヴァなんて、ケーブルが外れると5分で停止(*7)してしまいますから。
石田 エヴァといえば内部電源に切り替わったときの“残り5分”の表示。0分0秒になるとピタッて止まりますよね。あれ、実はリチウム系のバッテリーを使うと起きない現象なんですよ。
5分で電力を全部使い切っちゃうと、バッテリーが死んで二度と使えなくなっちゃうから。だから5分で止まるようにタイマーがセットされているだけで、まだ動けるはずなんです。
吉崎 あれは(エヴァの)庵野秀明監督のウルトラマン好きが高じただけの設定だと思いますよ(ウルトラマンの地球上での活動時間は約3分が限界)。
―こちらで振っといてなんですが、話がそれてしまいましたね(笑)。さて、ジェイダイトはかなりのインパクトがありましたが、今後、こういったスーパーロボットを開発しようという機運は高まっていくと思いますか?
石田 そうなるといいですね。いま私は“ロボット建造師”を自称していますが、そう名乗る人が増えてくれるとうれしい。
吉崎 車やバイクは本来危険な乗り物ですが、道路やガソリンスタンドなどのインフラ、運転ルール、人間の技術的な練度でシステムとして成立していますよね。ロボットも同じなんです。
そのへんがちゃんと整えば、工事現場や街中などで作業をしているロボットを見かけるのも珍しくなくなるはず。そうなれば、ジェイダイトのような人が乗れて、変形する巨大ロボットだって、たくさん造られるようになるかもしれません。
石田 ロボット市場が盛り上がって、弊社から部品なりを提供して、商売になればいいなと、少し思っていたり(笑)。
吉崎 とりあえず、遊園地に設置することを想定したジェイダイトがベースの量産機の開発をこれから始めます。
―では、最後に聞きたいのですが、ガンダムのように、搭乗できて、変形して、なおかつ空を飛べるスーパーロボットは実現可能でしょうか!?
石田 今、世界中で「有人ドローン」の開発が進んでいますが、バッテリーやモーターがさらに良くなれば、ロボットも人を乗せて飛ばせる重量が増えるはず。
吉崎 初代ガンダムみたいに、飛行中に合体(*8)するのは、ロマンがありますよね。
石田 カッコいい。でも、現状の技術では難しいですよね。宇宙ステーションが宇宙空間でドッキングしてますけど、ロボット工学的にいうと、あれは事故になる(笑)。
―最終的な目標はやっぱり飛行中に合体するロボットを造ることですか?
石田 造りたいんじゃなくて、乗りたいんです。
―誰も造ってくれなかったら?
石田 じゃあ、未来の私が造ろうかな(笑)。
(取材・文/武松佑季 撮影/下城英悟)
(*1)タラカトミー(旧タカラ)より発売されている変形ロボット玩具の総称。世界的な人気を誇り、米・ハリウッドでたびたび映画化されている
(*2)日本を代表するメカニックデザイナー。『機動戦士ガンダム』シリーズや『装甲機兵ボトムズ』などを手がけた。現在放送中のアニメ『ガンダムビルドダイバーズ』でも、メカニックデザインを担当している
(*3)83年~84年に放送されたロボットアニメ。『機動戦士ガンダム』以降続いた“リアルロボット”路線のなかでも特にハードボイルド色が強く、大人に人気。登場ロボット「アーマードトルーパー」は全高4mほどで、「ジェイダイト」に一番近いサイズ
(*4)94年~95年まで放送されたロボットアニメ。『勇者シリーズ』の5作目。車(パトカー)が変形するところや、全高約5m弱のサイズ感など「ジェイダイト」のコンセプトに近いロボットが登場する
(*5)90年~98年まで制作・放送された子供向けロボットアニメ『勇者シリーズ』に登場するロボットのこと。飛行機や新幹線、車など実在の乗り物が変形するモノが多い
(*6)ロボット製作チーム「水道橋重工」が12年に完成させた全高4mの巨大ロボット。油圧駆動の関節が約30ヵ所あり、自走し、モノを持つこともできる。成人ひとりが搭乗可能。吉崎氏は同チームのメインメンバーとして、ロボットの動作制御を行なうソフト「V-Sido」を開発した
(*7)『新世紀エヴァンゲリオン』に登場するロボット「汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン」は、背部に接続された「アンビリカルケーブル」から電力を得て稼働するが、ケーブルが外れた際は内部電源を使用し、最長でも5分で活動限界に至る
(*8)小型戦闘機「コア・ファイター」からコックピット(兼脱出用カプセル)に変形、飛行しながら、上半身、下半身の機体と合体(ドッキング)することで、ガンダムのあの形になる
●石田賢司(いしだ・けんじ) 1982年生まれ、新潟県出身。株式会社BRAVE ROBOTICS代表取締役。ロボット建造師。「トランスフォーマー」や『勇者シリーズ』に影響され、14歳より変形・合体する巨大ロボットの建造を志す。2012年にジェイダイトの原型となる小型変形ロボットを完成させる
●吉崎 航(よしざき・わたる) 1985年生まれ、山口県出身。アスラテック株式会社チーフロボットクリエイター。水道橋重工ソフトウェア開発担当。2009年にロボット制御システム「V-Sido」を発表。独立行政法人「情報処理推進機構」が“スーパークリエータ”として認定した若きロボット技術者
■J-deite RIDE(ジェイダイト・ライド) 「アスラテック」「三精テクノロジーズ」「BRAVE ROBOTICS」の3社が共同開発した世界初の搭乗型変形巨大ロボット。重量1695㎏、全高(人型)3.7m。コックピットからの有人操作のほか、無線・有線による遠隔操作も可能。実はこのロボットの動力源は電力ではなく、ボンネットの奥に埋め込まれた鉱石の原石(という設定)