今年1月29日、東京・昭和女子大学人見記念講堂で「葬式」と銘打ったラストライブを完遂し、正式にその活動を終えたミュージシャン「ぼくのりりっくのぼうよみ」(以下、ぼくりり)。落合陽一(おちあい・よういち)が彼を筑波大学に招いたのは昨年末、ちょうど「ぼくりりをいかに美しく葬るか」をコンセプトにしたラストアルバムの発売直前だった。つまり、これは「ぼくりり×落合陽一」としては"生前最後"のライブトークになる。
故・ぼくりりが「ブルーオーシャン戦略の失敗」を赤裸々に告白した前編記事に続き、後編ではふたりが学生たちからの質問に本音で答えていく。
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落合 ちなみにさ、ぼくりりを辞めたら「ぼくりり」ってもう使えないの?
故・ぼくりり 「ぼくのりりっくのぼうよみ」を名乗る権利をオークションにかけようと思ってるんです。
落合 超いいじゃん!
故・ぼくりり もしかしたらホントにやるかもしれないので、ぜひ入札お願いします。
落合 最初はどうせ落札できないような、めちゃくちゃな値で釣り上げとくといいですよ(笑)。
故・ぼくりり でもこれ、この場で言ったら誰かが勝手に商標とっちゃったりするんですか? マジでやめてください!
落合 そういうことあるよ。僕も研究室関連の商標をとられかけたことがあるんです。相手がお金を払わなかったか何かで棄却されてたから、焦って申請したんだけど。
じゃあ、"音楽業界"じゃなくて、自分の中で音楽に関して気になってることは?
故・ぼくりり 音楽を単なる音楽以上にしたいっていうのがすごくあって。ラストアルバムの『没落』は、「若いアーティストが辞めてしまいます、これが最後のアルバムです」って出して、「感動した!」という流れに回収されるのは絶対にイヤなんですよ。ぼくのりりっくのぼうよみという人間が、どういう感情をもってどう動いていくかっていうところを踏まえて聞いてもらいたいです。
これ、実はけっこう落合さんに言われたことに影響されてるんです。僕が「音楽は音楽として独立して評価されたい。そういうテーブルに載せたい」って話してたら、落合さんが「それは無理じゃない? 作り手の人格にひもづけられるものだから」みたいに言ってて。まあわかってはいたんですけど、あらためて尊敬している人に言われると、「アァー」みたいな感じになり......。
だから、僕はもう逆に、人格と音楽がより結びつく世界のほうにガンガン行こうと。今までは人格と音楽を切り離すほうにけっこう苦心してきたんですけど、むしろ人格を音楽のために利用しよう、その音楽が一番刺さるような人格をつくりあげよう、みたいなことを、今は熱心に頑張ってます。
落合 ふだんはめったに言わないんだけど、僕はぼくりりに対するリスペクトがあるんですよ。
アーティストって、だいたいみんな最初はやりたくてやっててさ。でもその後、社会のニーズにマッチングさせながら作るようになっていったりするでしょ。自分のやりたいことと合わないことがあれば、時には妥協することもあるし、いろいろ言っちゃいけないこととかも増えてくるわけじゃん? 自分にもそういう経験があるから、ぼくりりはまだ20歳なのに立派でござるのお、と僕はいつも思うわけですよ。
ちなみに、ここの学生さんたちは学部の1、2年生が多いので、ぼくりりとほぼ同い年くらいです。質問とりながら話しましょうか。
学生A 僕も音楽活動しているんですが、これからD2Cの時代が来る、事務所に所属すべきではないと言われる中で、問題は、最初にどうやってリスナーに届けるかだと思っていまして。例えば、YouTubeでやったとしても、最初のクリックがされなければ視聴する機会は与えられないじゃないですか。
故・ぼくりり えーとね、例えば、誰かをディスる曲にしたらいいのかなあとは思います。その人の名前なら(多くの人が)クリックするよ、っていう名前を勝手に借りちゃえばいいじゃないですか。
落合 「ぼくのりりっくのかまってちゃん」みたいな。
故・ぼくりり そうそう。例えば、「米津玄師はザコ」みたいな曲をつくって勝手に上げればいい(場内爆笑)。そうしたらみんな食いつくわけですよ。それで勝てるかどうかはまた別の話だけど。
学生A つまり炎上しろってことですか?
落合 まあ、インタレストを集めるだけなら。"みんなが目立てる時代"にどうやって目立ったらいいか、という話ですね。
僕の話をすると、最初にBBCが来てくれたときは『コロイドディスプレイ』を作ってて、CNNが来たときは音響浮揚をやってて、そのあとプラズマやってるときにロイターかなんかが来てくれて、そのくらいから投資家からお金がつくようになって、いろんな人が見てくれるようになって......。
故・ぼくりり 雪だるま感。
落合 うん。やってることを徐々に徐々にスケールさせていく感じです。作品とか仕事が増えれば、正比例じゃなくて指数関数的につながって増えるから。とにかく量をこなすと量が増える、というのを繰り返す生活をしてる。
学生A あと、これは質問じゃないんですけど、僕が本当に欲しいものをぼくりりさんは持っていて、なのに辞めちゃうなんて「なんでやねん」って思うんです。でも、ぼくりりさんの人生はぼくりりさんの人生だから、今後も頑張ってほしいです。僕は僕で、ぼくりりさんが持っていたものを手に入れられるように人生頑張りますので!
故・ぼくりり ありがとうございます、光栄です。
落合 はい、ほかに質問は?
学生B 曲を作る時って、どんな感じで作ってるんですか?
故・ぼくりり カルピスを作る感じで作ってます。カルピスって原液があって、水で薄めるじゃないですか。悲しいことでもイラついたことでも、まず「言いたい一行」をガッと決めて、作って、あとはそれを伝えるための水なんですね。
大事なのは、原液の純度は常に100パーセントにしておかなきゃいけないんですよ。というのも、常に相反する感情が自分の中にあるじゃないですか。何かに怒ったときでも、「あの人にはあの人なりの正義があったんだなあ」とか思っちゃうわけじゃないですか。だけど、その段階ではあえてそういう心を殺すというか、「ホント怒ってます」ということだけを100%にして作ります。
落合 アートといってもジャンルによってだいぶ違うけど、絵とかはそうかもね。原液はあるかもしれない。はい、次の質問。
学生C 落合先生に質問なんですけど、破壊するとしたらどの「落合陽一」を破壊しますか?
落合 なんだろう。「働き落合」を破壊すると、周りが困るだろうな。
学生C 落合先生もぼくりりさんも、好きなこと、やりたいことでポジションをとってるじゃないですか。僕は学生時代が(やりたいことを見つける)最後のチャンスだと思ってるんですが、普通に4年間過ごしても、そのポジションは絶対とれないじゃないですか。何をしたらいいですか?
落合 「やりたいことを見つける」っていうのは、その問題設定自体に無理があるから、「永遠にやっていても苦にならないことを見つける」ほうがいいですよ。
学生C 何もしないのが苦にならなければ、何もしないほうがいいんですか。
落合 それがいいんじゃない?
故・ぼくりり 何かをやらなくちゃいけないって、誰が決めたんだ?みたいなことは思いますよね。"何者かにならなきゃいけない欲求"みたいな。
生きてるだけで、お母さんとかお父さんとか友達とか、うれしいわけじゃないですか。死んだら逆にイヤじゃないですか。生きてるだけで、それでいいんだと思います。
落合 優しいね。あんまり気にせず、涅槃に暮らすといいよ。「世界のことはもう知らなーい」って。
はい、じゃあほかには?
学生D ササノマリイ(ぼくりりと共作のあるアーティスト)を聴いて、ぼくりりさんのことを知ったんですけど......。
故・ぼくりり ありがとうございます!
学生D ぼくりりを壊して、そこからもう一回作りたいキャラクターとか、中田ヤスタカさんみたいに誰かをプロデュースしたいとか、そういうのはあるんですか?
故・ぼくりり どっちもあるかな。ぼくりりはこういう主体だったので次はこうできそうだ、みたいなものはあって、それはやりたいです。
プロデュースのほうも、僕(ぼくりり)の3枚目のアルバム(『Fruits Decaying』)は自分がど真ん中のポップソングを作ったらどうなるのかを意識して、例題を解く感じでいろんなジャンルに突撃していったものなんですね。それはそれで楽しいし、そういう作り方はプロデュースワークでもいけるところなので、やっていきたいと思います。
落合さんのテーマソングとか、いらないですか?
落合 それ、そのうちやろうと思ってて。
故・ぼくりり 一枚噛ませてください。
落合 もちろん。
故・ぼくりり やったー!
■「#コンテンツ応用論2018」とは?
本連載はこの秋に開講されている筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。"現代の魔法使い"こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トークを展開します。
●落合陽一(おちあい・よういち)
1987年生まれ。筑波大学学長補佐、准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピュータが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。最新刊は『日本進化論』(SB新書)
●故・ぼくのりりっくのぼうよみ
1998年生まれ。中学生時代から「ぼくのりりっくのぼうよみ」、「紫外線」の名前で動画サイトなどに投稿を開始。2015年12月、高校3年時にアルバム『hollow world』でメジャーデビュー。映画『3月のライオン』前編主題歌『Be Noble』、資生堂「アネッサ」CMソング『SKY's the limit』など大型タイアップでも注目される。また、『文學界』(文藝春秋)にエッセイを寄稿するなど文筆家としても活動。昨年12月にラストアルバム『没落』とベストアルバム『人間』を同時リリースし、今年1月末のラストライブ「葬式」をもって活動を終了した