研究集会の会場の施設の中にあった、「ナナ(Nana)」とかいう、ニキ・ド・サンファル (Niki de Saint Phalle)というフランス人芸術家の作品。参加者はみんなテンション上がって鑑賞していたが、私は芸術はちょっとよくわからない 研究集会の会場の施設の中にあった、「ナナ(Nana)」とかいう、ニキ・ド・サンファル (Niki de Saint Phalle)というフランス人芸術家の作品。参加者はみんなテンション上がって鑑賞していたが、私は芸術はちょっとよくわからない

連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第109話

今回の出張はドイツだったこともあって、いろいろなビールを飲んだ。ただ、想定外だったのは研究集会の場で提供された食事だった......。

* * *

■講演を終えて

研究集会初日の夕方に講演を終える。自分の手応えよりもオーディエンスの反応は上々で、講演の後にはいろいろな人たちが私に話しかけてくれた。

ビールを飲みながらの夕食。立食のまま、話しかけに来てくれる人たちといろいろな話をした。

――こうなればしめたものだ。コールドスプリングハーバー(52話)で培ってきたノウハウが活きるシーンである。アレックスやオヤと3人で昔話をしたり。そこにラヴィやウェンディ、オリヴィエが混ざってきたり。さらにそこに、初対面の面々が混ざってきて、だんだんとその輪が広がっていく。

ウィーンのドイツウイルス学会(99話)ともまた違う、どこか懐かしい「同窓会」な、久しぶりな感じ。「めっちゃ楽しい!」という懐かしい感覚の余韻を噛みしめながら、ホテルに戻った。

■ウイルス業界が、新型コロナパンデミックから学んだこと

この研究集会では、自分の研究につながることだけではなく、いろいろな話を聞く機会があった。

たとえば、あるドイツ人の医師は、「20年前のSARSウイルスのアウトブレイクのときとは違って、新型コロナパンデミックは、SNSやオンラインを介して、世界中の研究者たちがひとつになっている感じがあった。そのダイナミックさが、20年前のそれとは圧倒的に違った」と言った。

この感覚は、この連載コラムでも述べたことがある(31話)、私が2020年にひしひしと感じていたものと同じ質感のものだと思う。

また、2022年の南アフリカのワークショップ(15話)にも参加していたあるイギリス人の研究者は、「パンデミックで分断されて、オンラインでつながる時間は終わった。これからはインパーソン(対面)にそれぞれの話を紡いで、これまでの経験をみんなで共有していくフェーズだ」と言った。この感覚は、現在の私が感じているものと同じものだった。

だからこそ私は、「外向きのチャレンジ(27話)」のために、海外出張を意図的に増やしている。別の言い方をすれば、パンデミックの中でG2P-Japanが培った「レピュテーション」を、きちんとした形で業界に、世界に根づかせたい、という意図もある。そのような活動こそが、日本のウイルス学の底上げにつながるチャレンジとなるはずだと私は思っている。

■「肉食おーぜ!」

さて、ここはやはりドイツであるので、今回もいろいろなビールを飲んだ。

ハノーファーで飲んだビールの一部。今回は気持ち的になぜか、「うまい!」と感じることがあまりなかった。ビールのチョイスのせいなのか、はたまた、そろそろビール卒業な年齢にさしかかっている、ということなのか...... ハノーファーで飲んだビールの一部。今回は気持ち的になぜか、「うまい!」と感じることがあまりなかった。ビールのチョイスのせいなのか、はたまた、そろそろビール卒業な年齢にさしかかっている、ということなのか......

しかし、いつも通りのビールはさておき、今回の研究集会では、初めての想定外の事態に直面した。

この研究集会では、昼食も夕食も会場からサーブされ、食堂で参加者たちがそれを食べながら交流する、というスタイルだった。

このようなスタイル自体は、海外の研究集会ではよくある。しかし想定外だったのは、この研究集会のスポンサーの意向で、すべての食事がベジタリアン仕様だったのである。

動物や魚に由来するタンパク質が、私のからだにとってどれほど希求されているものであるのか。40余年生きていて、それを初めて実感する瞬間だった。これがとにかく辛かった。私は1日で音を上げた。

それはラヴィも同じだったのか、翌日には、「なあケイ、ここはドイツだぜ! 肉食いにいこーぜ!」と、イギリスから参加していた面々と一緒に、ハノーファーの市街地に繰り出すことになった。

肉を食べること自体は私にとって渡りに船であり、心から望んでいたことであった。そこではいろいろなビールも飲んだし、参加していたいろいろ面々から、いろいろな話を聞くことができた。

――しかし。連れられて入った2軒目の店がなんと、店内でタバコが吸える店だったのである。ヨーロッパの人たちは、今の日本(特に東京)ではちょっと考えられないくらいにタバコをガンガンに吸う。

屋外ではどこでも吸うし、別にそれで白い目で見られるということもない。見るつもりもないし、それは文化のひとつとして普通に認知されている感じがある。しかしそれはあくまで「屋外」の話であって、まさかまだ「室内喫煙可」の店がヨーロッパにあるとは思っておらず、これには少なからず面食らった。

結構な量のビールや白ワインを飲んでヘロヘロになってホテルに戻ると、着ていた服が全部めちゃくちゃにタバコ臭い。この話には特にオチはないのだが、タバコの残り香とともに、モヤっとした気持ちで床に就いたのであった。

※5月22日配信の後編に続く

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佐藤 佳

佐藤 佳さとう・けい

東京大学医科学研究所 システムウイルス学分野 教授。1982年生まれ、山形県出身。京都大学大学院医学研究科修了(短期)、医学博士。京都大学ウイルス研究所助教などを経て、2018年に東京大学医科学研究所准教授、2022年に同教授。もともとの専門は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の研究。新型コロナの感染拡大後、大学の垣根を越えた研究コンソーシアム「G2P-Japan」を立ち上げ、変異株の特性に関する論文を次々と爆速で出し続け、世界からも注目を集める。『G2P-Japanの挑戦 コロナ禍を疾走した研究者たち』(日経サイエンス)が発売中。
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