さくら住宅の二宮生憲(たかのり)社長。「リフォームといえば“悪徳”との業界イメージを払拭したい」 さくら住宅の二宮生憲(たかのり)社長。「リフォームといえば“悪徳”との業界イメージを払拭したい」

横浜市栄区の桂台地区は約4千世帯が暮らす戸建て住宅地だが、5軒に1軒は「さくら住宅」(1997年創業、社員数50人)が家のリフォームを手掛けたものだ。さらに、顧客には工事が終わると株主になり、さくら住宅を支える人も少なくない(前編記事参照)。

同社が地域で選ばれ続けるのは、他の業者なら応じない些細な依頼にも応えてくれるから。「洗面台の鏡を交換してほしい」「コンロの火がつかない」「電球を交換して」…。小さな依頼にも手間を惜しまず迅速に対応する。これがさくら住宅の基本姿勢だ。

では、どうやって利益を出しているのか?

2016年度、さくら住宅が実施した3万円以下の小規模工事(障子の張り替え、電気の修理等)は全体の47%。現場の職人に賃金を払えば利益が吹っ飛ぶ赤字仕事が半分だ。ところが、売上額で見ると小規模工事の割合はわずか2.2%。残り約98%の売上げは、外壁塗装や耐震補強工事、全面リフォームなどの大規模工事によるものだ。創業第一期こそ赤字だったものの、以後、毎年黒字を継続している。

日ごろから赤字仕事も引き受けてくれたからこそ、顧客は大規模なリフォームをさくら住宅に依頼する。この好循環が利益を生む原動力になっているのだが、二宮生憲(たかのり)社長はこれを経営戦略として狙ってやったわけではない。彼の心底にあるのはただひとつ、「困っている人がいるのに放っておけるか」との純粋な思いだった。

二宮社長が大切にするのは顧客だけではない。社員も取引先も徹底して大切にする。

例えば、さくら住宅では無理やり契約を押し付ける社員の営業トークはない。宣伝もしない。ノルマもない。飛び込み営業もしない。これまでの丁寧な仕事ぶりが口コミで広がることで、黙っていても住民から続々と依頼が舞い込むのだ。

「ノルマなんてとんでもない。それをやれば、社員同士がギスギスして仲が悪くなるだけ。質のいい仕事さえしていれば、自然と仕事の依頼はやってくるものなんです」(二宮社長)

その顧客に対して、さくら住宅では決して値引きをしない。値引きを要求する客に対しては「では、そういう業者さんにお願いしてください」と仕事を受けないという。

「なぜなら、工事はさくら住宅だけでやるのではありません。水道業者、電気業者、内装業者などの職人さんたちが入るのです。値引きはこの人たちへの支払いを減らすことを意味する。質のいいリフォームを実現するため、そして社員と職人さんたちの生活を守るため、こちらの言い値で仕事をさせてもらいます。

よく週刊誌などでは、知ったかぶりの専門家が『リフォームには数社から見積もりを取れ』と書いていますが、あれは間違った指摘です」(二宮社長)

若手社員2名が入社を決断したワケ

そんなさくら住宅では職人への支払いはすべて現金のみ。間違っても手形は切らない。また、通常は工事の翌月末の現金払いだが、出費がかさむ12月については「お正月を快適に過ごしてもらいたい」との配慮から前倒しで年内に支払う。

だからこそ、施工業者の多くは「ウチはさくら住宅としか付き合わない。他の仕事では値切られるから」と質のいい工事を実施するのだ。

この社長のポリシーに惚れて入社した社員もいる。山口貴也さん(営業部主任、28歳、2013年入社)がそのひとり。同社が新卒採用を始めたのは12年だから、新卒2期生になる。

大学時代の専攻は化学。なぜ畑違いのこの業界に飛び込んだのか?

「それはもう社長です。会社説明会で話を聞いたら、この会社が第一志望になりました。また、最寄り駅から本社までは徒歩15分ほどかかりますが、会社説明会の日、すべての通りの辻々(つじつじ)に社員さんが立っていて、『どうぞこちらです』と親切に案内をしてくれた点にも感銘を受けました。そんな会社は他にはなかったです」

山口さんは「人と話すのが苦手」と思っていたため、「細かいことをコツコツとやるのが得意」と自己アピールすることで内勤を望んでいたが、配属されたのは営業部。早速、3ヵ月間で169時間の研修が待っていた。二宮社長いわく「他社の3倍のスピードで成長してもらう」ためだ。

挨拶の仕方、名刺の出し方、お茶の出し方、顧客の家では畳の縁は踏まないなどの社会常識を学ぶとともに、社内で設計や建築の基礎知識の吸収、顧客への説明の仕方を学び、先輩社員に付いて顧客と顔を合わせるようになる。

山口さんは今、自身をこう評価するーー「人とコミュニケーションを取れるようになりました。ここに入社すれば自分が成長できるかなと思った予感は当たったと思います」

近藤幸越(さきお)さん(営業部・リフォームコンサルタント、24歳)も16年入社の新卒社員だ。やはり会社説明会で「この会社に」と決めた。

「地域に密着しようとの姿勢に魅かれました。会社説明会で社長が『ここは人を大切にする会社です、人とは社員であり、さくら住宅に関わるすべての人です』と話していましたが、美辞麗句ではなくそれを実践しているのが入社を希望した決め手でした」

地域から得る抜群の信頼感が社員を成長させる

 さくら住宅の若手社員、山口貴也さん(右)と近藤幸越さん。ふたりとも二宮社長に魅かれて入社した さくら住宅の若手社員、山口貴也さん(右)と近藤幸越さん。ふたりとも二宮社長に魅かれて入社した

改めて近藤さんにも確認してみると、本当に「ノルマはない、飛び込み営業もない」という。また、先輩社員と一緒に顧客宅へ挨拶に行くと、必ず顧客から「いつもよくしてもらってありがとうね」「さくら住宅しか頼るところがないんです。これからもよろしくお願いします」と声を掛けられることから「地域からの抜群の信頼感を感じている」とも話す。

「私たちは最低でも同じお客様のところに年3、4回は伺います。信頼関係が強くなればもっと行きます。リフォーム依頼があれば、とにかく丁寧な仕事に徹します。だからこそ口コミで依頼が増えるのですが、そのためにもお客様の前での身だしなみや立ち振る舞い、玄関に上がる時は靴を揃える、お客様より先に座らないなどのマナーも徹底して叩き込まれます。研修は厳しいですよ。でも同時に愛情も感じます」

山口さんも近藤さんもこれから自分に何ができるのかを楽しみにしているようだ。

16年6月には、ホワイト企業を紹介するテレビ東京の番組『カンブリア宮殿』で紹介されたが、その翌日からリフォーム依頼を求める顧客からの電話が鳴りっぱなしになった。

このため、現場が人手不足になり、山口さんは一時的に工事部工事課に転属して現場の仕事もこなした。今年8月から再び営業職に戻ったが、今はこう考えている――「ふたつの職種を経験できたことは大きい。もっと深い知識を仕入れて、今後は営業も工事も両方してみたいです」

●続編⇒リフォームの顧客がみんな株主に? フランス料理から旅行まで住人たちと寄り添う「さくら住宅」の理想

(取材・文/樫田秀樹)