元お笑いコンビ「カリカ」、ピン芸人・マンボウやしろとして活躍。脚本・演出家の家城啓之さん 元お笑いコンビ「カリカ」、ピン芸人・マンボウやしろとして活躍。脚本・演出家の家城啓之さん

あの国民的バラエティ番組のスピリットを引き継ぎ“友達の輪”を!とスタートした『語っていいとも!』

前回、女優・グラドルの片山萌美さんからご紹介いただいた第47回のゲストは脚本・演出家の家城啓之(やしろ・ひろゆき)さん。

元お笑いコンビ「カリカ」で活躍、その後、ピン芸人・マンボウやしろとして吉本の“ブサイク”芸人ランキングで3年連続1位となるなど異形キャラとしても知られるが、昨年7月に突然、芸人引退を発表。

現在は舞台やコントを中心に脚本・演出の肩書きに専念し、異才を発揮。前回はその経緯やお笑い芸人をめざした動機から20年のキャリアを振り返ってもらったがーー。(聞き手/週プレNEWS編集長・貝山弘一)

―やりたいことを自己表現するのにジャンルにハメ込むのも違いますよね。…でもそこで芸人に踏ん切りをつけたのは、やっぱり年齢もあったんですか? もう40代を迎えるという手前で…。

家城 あったかもしれないです。今年の3月で芸人20年だったんですけど、それ経ってからだと、人生で20年やったなって思いそうだし。19年半ならまだなんもやってないから、頑張ろうって思えるかなとか。

―いい区切りにして、こんだけやったって満足感ですっきりしてもマズいし。

家城 はい。ヤバい、このままだと20年きちゃうと思って。あとは、やっぱ40代で年齢もあったのかもしれないですね。ちゃんとした生活をしたいという。35、6まで借金がずっとあったんで。親に申し訳ないという気持ちもありましたし。

―それでお金のこと考えて、悶々と寝られない時も何か頭で妄想してると楽しく3時間が過ごせると…。

家城 はい。たまに思うんですけどね、ずっと現実逃避してるだけなんじゃないかって。人によるんでしょうけど、何か目標があってそこに向かう速度が速い人と、怖いものが現れた時に逃げる速度の速い人がいて。もしかしたら自分は何かから逃げる速度のほうが速いのを言い訳してるのかもっていう。

―それも暗示的な表現ですが…。逃避してる自分を創作でカモフラージュしている?

家城 僕、20歳で実家がバーンって急にバブルではじけて、家なくなって、お父さん死んでみたいな感じで東京に家族全員で出てきて。お母さんはどんどん様子おかしくなるし、お姉ちゃんもっとおかしくなって酒に走ったりとか、ここにいたらやべぇなっていうのもあって。ずっと逃げてんのかなって気はしますね。

―それを直視したくない、向き合えなかった言い訳にもしてると。

家城 それを見たくなかったとこもあるんですよ。

―そういう意味では、すごく真面目なんですね。芸人に憧れたきっかけが、楽して儲(もう)かってそうな商売だなと思ってという軽さとも全く違って。いろいろ内面に抱えているものが…。

家城 考えるようになっちゃいましたね。そういう歳なのかもしんないですけど。あと、大きいのは(3・11の)地震ですごい価値観変わっちゃったというか。なんか、芸人とか必要ないじゃんって。お笑いで助けられましたとかもあるけど、それはもう2次的、3次的なことであってね。

仕事のために頑張ってきたけど、そこまで人生何が起きるかわからないってのも初めての経験で。家族とか大事にしないと本当に後悔する日が来るんじゃないかみたいな、急激に人らしくなっていった感覚はありますね。それまでは適当に金儲けしてセックスして遊びてーな、売れてーなってやってたんですけど。

「世を捨ててるのに、なんで眉毛剃れない?」

―それまではだいぶ邪(よこしま)な我欲で動いてた?

家城 邪だけで(笑)。本当にそれだけでしたね。面白いもの作ろうとは素直に思ってましたけど、今考えると害しかない生き物というか。

―そういう邪悪な生き物だったと(笑)。では、キャラとか個性作りも目立ちたくてアピールするために? 眉毛剃(そ)ってたのもそうですし。

家城 眉毛はそうですね。芸人5、6人で集まった時に、なんか罰ゲームで負けたやつは眉毛剃ろうみたいなことになって。後輩が負けたんですけど、そいつ剃らずに帰ったんですよ。

そもそも芸人になって、世を捨ててここにきてるはずなのに、なんで罰ゲームで眉毛剃れないんだ?っていうのを帰って寝れないくらい考えちゃって。でも無理矢理、強制的にさせるのもあれだし、答えがなんなのか…いや、でも腹立つなとか。

だんだん考えてたら「待てよ、逆の立場で自分なら剃れたんだろうか」っていう自問自答が夜中襲ってきまして。それは違うだろう、剃れないやつが売れるわけないって、朝、眉毛剃って後輩に会いにいったんです。

―ははは、それこそ『火花』に登場する先輩みたいな感じですよね。

家城 はい(笑)。だから僕、あの小説で最後に先輩が自分におっぱい入れたとか、すごい理に叶ってるなというか。

―ありましたね。これぐらいやらないと俺は芸人じゃない、人を笑わすのか、笑われるのかって常に自分の覚悟を試してるような。

家城 そうです。その追い込むというか、世の中から線切りをするというか。それも全部シャレでやってるっていう。

僕、コンビ末期の時、眉毛いったからにはどんどんいろんなものを取ろうみたいな、よくわかんない方向性になってて。相方に「鼻がなくてもいけんじゃね?」って、穴が空いてるだけで面白いんじゃないかって話したんですけど「TV出れねーよ」って言われて。キャラ作りに意識がいき過ぎてて、ハッとしたというか。

―それも確かにおっぱい作っちゃった先輩に通じますが。世間的に傷つく人がいるとか道徳的にどうとか、麻痺しちゃってる感じですもんね。

家城 なんか、たぶん迷子になってたというか。眉毛剃ってる時でも、僕のことを病気だと思った人からいっぱいTV局に連絡きたりとか「病気の人を殴らないでください」ってクレームが入ったり。そんなこと考えてもなかったし。

髪もカツラっぽく見えるらしいんですけど「あ、同じ病気なのに頑張ってる」って思った人が、後で「うわ、あいつ違うのか」って…1回喜ばせたのに、もし悲しませてたらどうしようって当時はすごい気になったりもして。

―でも、そういうビジュアル的な異端さも売りでオイシイみたいなのはあったんですよね。不細工キャラでずっと芸人ランキングのトップになってるとか。

家城 その眉毛剃った次の日にCMのオーディション入ってるのを忘れてて。会場行ったら吉本の人に無茶苦茶怒られたんですけど。面接で監督に「なんで剃ったの?」って聞かれて「これこれこういう事情で」つったら僕を抜擢してくれたんですよ。「うわー、もう決まったわ、キャラクター」と。

もう「これだ!」としか思えなくて、そっから10年ぐらい。カリカって芸名でやってたのは覚えづらいってよく言われて、何があるんだろう?みたいに相棒と話してたんですけど。意図してないのにそれが手に入った時「あ、これキャラとしていいじゃん」とは思いましたね。

「ブサイクとかブスのほうが得なんじゃ…」

―絶対に覚えられるし忘れられない…失礼ながら、眉毛剃られてた頃、僕はずっとジャミラそっくりだなと思ってました(笑)。

家城 ジャミラ(笑)。ウルトラマンのですよね。

―そう、こんなにジャミラみたいな人がいるんだって(笑)。

家城 でも神保町の定食屋のおばちゃんも言ってました。初めて来た時、「うわ、イヤなお客さん入ってきたなと思った」って(笑)。

―でも、そういう吉本のブサイクランキングでも、あと「抱かれたくない男」ランキングの出川(哲朗)さんなんかも、絶対的にオイシイところがね…。

家城 オイシイですね。不細工で仕事貰えるっていうわかりやすさもあれば、あとボケ方がシンプルに楽な時があって。普通の顔の人が面白いこと言わなきゃいけないのを、僕らはそれ浮かばなくてもブサイク用ワードみたいな保険があるんで試合できてるというか(笑)。

―この奥の手を持っとけばみたいな。伝家の宝刀というか印籠が(笑)。

家城 はい。だから、それはもう本当に楽ですね。

―その一方で、傷ついたり切なくなるような本音の部分はないんですか?

家城 損したことありますか?って芸人の時によく取材で聞かれたんですよ。けど、男前の人は、例えばご飯食べに行って「お兄さん、カッコいいね」ってサービスみたいなのはあるかもしれないですけど、逆にブサイクだねって定食の小鉢を1コ抜いたら大事件じゃないですか(笑)。

慢性的に損し続けているだけで、世の中のスゴいタチが悪いところでもあるんですけど、ブサイクに対する差別をわかりやすくは誰もしてこないんです。まぁそれで、わかりづらい差別をずっと受けてるみたいな、じめーっとした弊害はありますけど(笑)。

―常に引き算されているようなもので、それも善し悪しと。ちょっとでもプラスがあれば、それで幸せになったり?

家城 はい。ブサイクのプラスもいっぱいあると思って。イケメンとかカワイい人は減点法ですけど、ブサイクとかブスは基本的に加点法なんで。

ある意味、本当に自分を好きって人を見つけた時に、それがもうすでに真実の愛というか。カッコいい、カワイい人は付き合ってからもう1回、リトマス試験紙が必要ですけど、付き合った時点でもう全部の答え合わせが終わってる状態というか…。

―ドラマや漫画の悪役キャラにも通じるような(笑)。99%ネガティブなマイナスイメージだったのが、土壇場で1%のやさしさやイイとこを見せるとめっちゃ好感度上がって大逆転という。

家城 (笑)加点法がバーンといきますしね。

―僕もどちらかというと初対面で怖がられたり、威圧感あって難しそうに見られるんですけど。お酒飲むとこんなにバカやってる人なんだって(笑)。

家城 あぁなるほど。そっちのほうが楽でいいですよね。僕、本も1回出したんですけど、ブサイクとかブスのほうが絶対、総合的に見たら得なんじゃないかって。ほんと、ちゃんと心磨くことさえ意識していれば、絶対不幸にはならないと。ただ、やっぱりブサイク、ブスが心よじれた時の合わせ技の酷(ひど)さはないですけどね。

「ハードルなんか低いほうが絶対いいんです」

―(笑)まぁありますよね。でも実際、そう言ってる限りはご自分もモテないワケじゃないんですよね。

家城 いやー…人並みだと思います(笑)。

―人並みだったら十分じゃないですか(笑)。元々、男としてモテたい、ヤリたいって欲もあったところで…。

家城 あー、そうですね。まぁ特に20代は眉毛剃ったり…あと痩(や)せてましたし、洋服とかも興味あったんで。なんかやりたいやりたいと思ってたら、割と若い女のコに…美大とかカルチャー系にはモテたんですよ。

でも30代入って、その地震もあって考え方まるっきり変わって、もう今じゃ体型も気にしないですし、なんか全然変わって。たまにモテたとしてもビッグダディみたいなモテ方ですね。その…安心感みたいな。

―ははは。相手が気を遣わないでイイ、遊んでもらう分には適度なおっさんと。

家城 はい。皆と遊んでる中でしばらく一緒にいたら、こんな楽な人なんだ、みたいな。そういう食いつかれ方に全然テイストが変わりましたね。やっぱ、ハードルなんか低いほうが絶対いいんですよ(笑)。

―昔から思ってるんですけど、クラスでモテるヤツとかカッコいいヤツって、表向きは女子もアイドル的な見てくれだったり、運動できるコとかに票が集まるけど、実際は男より幅が広くて現実的だったりするじゃないですか。

家城 ありますよね。なんですかね、女性のあの感じ(笑)。

―意外とバラけてるんで、目立たないちょっと変わったヤツを好きだったり。逆にモテなさそうな男でもちゃんと需要あるじゃないですか。イメージとしては、六角精児さん的といったら失礼ですけど(苦笑)。

家城 ははははは、ありますね、はい(笑)。六角さんだって、4回ぐらい結婚してますもんね。女性のほうがまだ冷静に男性の内面を見てくれるから…。みんなバラバラだし、内面がいいからってわけでもなく、好みの確率とか相性の話ですかね。男性はどうしてもまず外見観ちゃいますもんねー。

―自分はそこで別に選り好みしたりはない?

家城 いや、カワイいコがいいですね。そこはいつも…なんか「矛盾してる」って言われるんですけど(笑)。

 

★語っていいとも! 第47回ゲスト・家城啓之「タレントとしてはもう全く売れたいとも思わないです」

 

(撮影/塔下智士)

●家城啓之(やしろ・ひろゆき) 1976年生まれ、千葉県出身。97年に林克治とお笑いコンビ「カリカ」を結成。2011年のコンビ解散後は「マンボウやしろ」の芸名でピン芸人となったが、16年7月には引退を発表。脚本家、演出家としてラジオパーソナリティでも活躍。著書に「ブサイク解放宣言-見た目にとらわれない生き方のススメ」がある。12月7日から紀伊國屋ホールにて「THE YASHIRO CONTE SHOW」第2弾『ReLOVE』公演がスタート!