「なんでだろう~♪」「残念!」かつて日本中を沸かせた、テツandトモと波田陽区の鉄板フレーズである。彼らのほかにも、これまでにキャッチーなフレーズや斬新な格好などで大衆の心をわしづかみにし、大ブレイクを果たした者は少なくない。
だが、彼らは人気のあまり、ありえないほど刹那に消費され、数年もたたぬうちに、世間から“一発屋”の烙印(らくいん)を押されて忘れ去られるきらいがある……。
『一発屋芸人列伝』は、冒頭のふた組を含む一発屋芸人10組の激動の人生に迫ったルポルタージュだ。聞き手は、「ルネッサーンス!」で“一発”を打ち上げた「髭男爵」の山田ルイ53世さん。そこには、今をしっかりと踏み締めながらお笑いと真摯(しんし)に向き合う、一発屋たちのたくましい生きざまが描かれている。
* * *
―今日はよろしくお願いします。それにしても感激です。よくテレビで見ていましたから!
山田 「見ていました」じゃないでしょうに!(笑) 一発屋はそのあたりの言葉にもデリケートなんですよ(笑)。
―失礼しました(笑)。それにしても文体やテンポが軽快で、とても読みやすかったです。もともと執筆には興味が?
山田 今から3年ほど前に、『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)という本を出さしてもらいまして、文章を本格的に書くようになったのはその頃からです。
ただ、執筆活動をする前のバックボーンについては、実は皆さんが期待されるほどのエピソードは何もないんですよ(笑)。何か書きためていたとか、小さい頃から本ばかり読んでいたとか、そういうのもない。大体、シルクハットをかぶって「ルネッサーンス!」とかやってるヤツが文章をまともに書けるようには見えないでしょ?(笑) そうやって見た目とのギャップがあったのは、ある意味よかったのかもしれないですけどね。
―取材をする一発屋芸人の人選はどのように?
山田 もちろん、僕から話を聞きたくてお願いした人もいますし、担当編集さんが勧めてくれた人もいます。レイザーラモンHG(以下、HG)さんやハローケイスケさんは僕がお願いしました。皆さんに共通することは、「自ら一発屋を名乗っている」ということですね。意外と覚悟がいることなんですよ。やっぱりある種の“負け”をのみ込んだ人しか名乗れないですし、そうでないと周りもイジれませんから。
―その“負け”をのみ込み、自虐トークに走った元祖がムーディ勝山さんだったとか…。
山田 ほんまビックリですけどね(笑)。「嫁に『仕事に行ってくる』と言って公園でハトにエサやってた」みたいな話が彼の自虐の始まりなんですけど、これはものすごい「発明」やなって。今までやったら「おまえ最近テレビ出えへんな」「いやいや~、ちゃんと頑張ってますよ~」みたいなノリがあったわけですから。
それで、彼は今も地方でレギュラーを7本も持ってるみたいです(笑)。一発屋芸人が集まる「一発会」にもほとんど現れませんし、とにかく大忙しなんですよ(笑)。
―ムーディさんをキッカケに、肯定的なノリで「一発屋」と名乗る人が増えたと言っても過言ではなさそうですね。
山田 それはあると思います。あとはHGさんの影響も計り知れませんね。大体、一発ドカーンと当てた芸人というのは、人気に陰りが見えてくるとネタも弱くなってしまいがちなんですが、そこをHGさんは、「120%、いや200%の勢いでやらなあかん。胸張って伝統芸にしていけばええねん!」と活を入れてくださったんです。
まぁ、そう言うてる本人はスーツ着て漫才やっとりますけどね(笑)。そこは「ズルいわ!」という感じもありますけど。でも正直な話、コスプレ芸人からするとあの芸風の転換は一番憧れますよ。今もずっと尊敬する方のひとりです。
最高月収は書いてません!
―おふたりの功労があってこそ、このような趣旨の本も実現した感じがしてきました。
山田 そう。とにかく、このふたりの影響というのは、一発屋界隈(かいわい)ではとても大きい。それに僕らも、テレビの「あの人は、今」みたいな企画で、最高月収と最低月収を言わなあかんみたいなノリは、「もういいかげんよろしいわ!」ってなってました。
―確かに、収入のエピソードは聞き飽きた感じがします。
山田 そうでしょ? だから、この本には「最高月収は書いてません!」と明確に言っておきたい(笑)。もうそれを言う時代は過ぎたんやなっていう気がしますね。
―芸人が芸人を取材するという形式だからこそ、聞き出せた内容も多いと思います。
山田 そこはやっぱり得しましたね。適度な緊張感はあるとはいえ、テレビで言わないようなエピソードを彼らも話してくれますから。
例えばキンタロー。ちゃんは、腹をくくって思いっきり心境をぶつけてくれたりして(笑)。なので、書くときにはおのおのの息遣いや面白さが損なわれないようにしなきゃというプレッシャーはありましたね。色とりどりの上質な、苦みのある10組の人生が詰まってると思いますよ。みんな家族のため、自分のために責任をもって今も一生懸命やってるんです。
―最終章では「髭男爵」についても書かれていますが、全盛期に「いつか売れなくなるかも」という怖さはあった?
山田 僕はありましたね。毎日、手帳にその日の仕事内容と本数、出来を書いていたんですが、その推移を半年くらいたどると、「これはもう長いこといかへんな」と思ったこともありました。そんなときに、生放送でひぐち君が「ひぐちカッター」を初めてやって大ウケして。またちょっと盛り返したんです。
―イイ話じゃないですか!
山田 でもそれ以降、彼は「ひぐちカッター依存症」になってしまって、何言われても「なんとかカッター!」って言うようになってしまいましたけどハハハハ!
まぁ、彼は結構、不器用なところがあるので、僕が彼のネタを一言一句書いて「あとはこれを覚えて無機的にやれ!」と指導していたこともありました。今思うと、文章のテンポ感がつかめてるのは、ひぐち君のネタを作っていたことで鍛えられたというのが大きいかもしれないですね(笑)。
(撮影/鈴木大喜)
●山田ルイ53世 本名・山田順三。1975年生まれ、兵庫県出身。お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。六甲学院中学に進学するも、引きこもりになり中途退学。その後、愛媛大学法文学部に入学するも中退し上京、芸人の道へ。現在はラジオパーソナリティを務めるほか、ナレーション、コメンテーター、イベント、ウェブコラム執筆など幅広く活動中。これまでの著書に『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)。本書は、第24回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞した
■『一発屋芸人列伝』新潮社 1300円+税 レイザーラモンHG、コウメ太夫、テツandトモ、ジョイマン、ムーディ勝山など、かつてお笑い番組に出演するやいなや、瞬く間にお茶の間の人気者となり、いつしか忘れ去られた“一発屋”芸人たち10組のその後を、自らも一発屋を自称する「髭男爵」・山田ルイ53世が直撃! ユーモアあふれるリズミカルな筆致が、芸事に生きる彼らの“現在地”をリアルに描く。第24回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の作品賞を受賞