現在、クラウドファンディングでイラスト&エッセイ集出版プロジェクトを立ち上げている鈴木杏さん 現在、クラウドファンディングでイラスト&エッセイ集出版プロジェクトを立ち上げている鈴木杏さん
あの国民的バラエティ番組のスピリットを引き継ぎ"友達の輪"を!とスタートした『語っていいとも!』

前回、歌手・俳優の中村中(あたる)さんからご紹介いただいた第59回のゲストは女優の鈴木杏さん。

子役時代から活躍、96年にドラマ『金田一少年の事件簿』、翌年には『青い鳥』と話題作に出演。順調にキャリアを積み、03年の映画『花とアリス』では蒼井優とのW主演でも高い評価を得るなど、その後も舞台などで多くの実績を重ね、今や実力派の仲間入り。

愛らしいイメージだった"杏ちゃん"が大人の女優として幅を広げているが、30代を迎え、それまで背伸びしもがいていた20代から楽になれている今だというーー。(聞き手/週プレNEWS編集長・貝山弘一)

―時間ができて考えることばっかりしてると、ネガティブなスパイラルに陥っちゃいますしね。それこそ絵を描き始めたのも何かに投影して没頭できるのがよかったのでは。

 あと、絵はこう...すごく漠然としてるから、思いを限定されなくて済むっていう良さがありますね。今の時代、言葉を発信するのもすごく扱い方が難しくなってきてるじゃないですか? インターネットですぐ炎上したり、そういうつもりじゃないのに変な方向に取られてしまったり...。

気にしないようにしていてもそういうことにエネルギーは取られちゃうから。変に深読みされることが良いほうにも悪いほうにもしんどいので。それってすごいイヤだなと思って。

絵だとその写真をブログに上げたり、今回、クラウドファンディングのこともあってインスタグラムを始めたんですけど、私にとってはすごくいい塩梅(あんばい)なんです。外の世界と自分とを繋ぐ橋っていうところで。

お芝居もどこか似ていて、そこには脚本家の方が描いた世界観や演出家の方が導いてくださる道があって、役っていうフィルターだったり入れ物で自分ではない誰かとして社会と繋がっているっていう。どこか遠からず近からずなのかもしれないです。

―そっちと行き来して、自浄作用のようにバランスをとってるような?

 大っきいと思います。

―今の歳になって至った心境もやはりいろいろあるんですね。それこそ『花とアリス』の時の話に戻ると、実は蒼井優ちゃんのクシャミの話をしながら、杏ちゃんからするとライバル心だったり脅威でもあるのかなと思ってたりしたんですけど。

 優ちゃんはもう脅威っていう感じとは全然違って、尊敬でしかないです。頭も私より全然いいし、見ようとしてる世界の広さとか背負うものの大きさとか、よっぽどしっかりしてる。お互いにできることとできないことがチグハグで凸凹が合うから仲良くできてるんだと思いますけど。それはいまだに変わらないかもしれないですね。

―作品にもその凸凹で違うタイプが上手く出ていた感じですよね。自分にないものを持ってるからこそリスペクトできると。

杏 うん。面白いなぁって思います。

―ほんと、すごい役者さんたちを身近に見続けて刺激的すぎるでしょうけど...。そういう中で、背伸びしようと頑張りすぎた時代もあってね。最初から諦めてるのとは違う、今の時代、どうせ...みたいな若い世代も少なくないですが(笑)。

 でも時代の違いとかもあるだろうから、背伸びの仕方がまたちょっとわからないだけかもしれないですし。今の私らオバサン世代と繋がり方も変わってきて...。

―いやいや、まだオバサンって(笑)。ただ、男のほうは特に草食化みたいに言われてますが、やっぱり若いうちはガツガツ突っぱるのも必要ではと。

 人との適度な距離感っていうか、その世代なりのマナーもたぶんあるでしょうけど。なんか、ロマン的なものも減ってきてるように見えるかもしれないけど、きっと彼らなりのロマンみたいなものはあるんだろうなぁとか。...まぁ眺めてるしかないよなっていう気持ちです(笑)。

―まぁ内面的に持ってるものはね、パッションだったりを何かに発揮したいのは変わらないんでしょうけど。そういう意味では、役者とか芸人の世界は昔ながらというか、体育会系的な部分や上下関係もですし、熱さが羨ましくもあり、厳しいけれども魅力に思えます。

杏 お客さまに見せるものは華やかですけど、それまでの過程ってものすごく地味なんですけどね(笑)。例えば、舞台の稽古行く時も、朝何時の電車に乗って、定期にするかしないか迷って、チャージしなきゃとか考えながら。で、どこのコンビニでご飯買おうとか、通ってるとこだとオーナーのおばちゃんがいるとオマケ付けてくれるから、それを買って埼玉まで行って、夕方になったら帰ってみたいな。ほんとそんな繰り返しで(笑)。

―意外とちゃんと生活感ありますよと(笑)。

 そうそうそう(笑)。もちろん稽古着は洗わなきゃいけないし。『ボクらの時代』で、嵐の松本潤くんがライブ終わった後にその汗だくのTシャツを家で洗ってて、なんだろうって思う瞬間があるって言ってて。さっきまでドームとかですごい歓声を浴びてたのに洗濯をしてる自分とのギャップを感じる時があるって(笑)。ほんとにそういうもんなんですよね。

―いい話です(笑)。華やかなのは氷山の一角で、普段は至って地味っていう(笑)。それで思い出すのが、ロバート・デ・ニーロにインタビューした時があって...。

 えーー!

―『ヒート』(98年)って映画で来日して、新宿のパークハイアットがインタビュールームだったんですが、そこに現れた彼がどう見てもただの冴えないオッサンなんですよ(笑)。くたびれたジャケットを着て、無精髭生やしてね。普通に歩いてたら気づかいないような...で、思ったままを本人に伝えたら「いや、俺は普段はただのニューヨーカーさ」って。

 へー、そうなんですねぇ。

―ハリウッドの超大物で華やかな世界にいても、やっぱりそうじゃないとホームドラマ演じたり、市井の生活感は出せないよなとすごく印象的で。それこそハリソン・フォードもそうだったんです。「俺は普段は自分の牧場で馬に乗って暮らしてるカウボーイなんだよ」みたいな話をされて。そういう日常があるから人間臭さを失わないんだなと。

 そうなんですね。まぁスターでいてもらわなきゃいけない人たちっていうのも、やっぱり世の中には必要だと思うから。そういう全部背負ってくださってる方たちがいて、私らとかが生活者でいれるっていうのもありますけどね、きっと。

あと、やっぱりどうしても人の目に触れることが多い職業だし、人の目線とか感情に影響を受けやすいとも言えるじゃないですか。逆に影響を与えやすくもあるし...なんだろう、やっぱりしっかり自分の生活は自分で握っておかないとブレちゃいますよね。

―そういうのも含めて、杏ちゃんは今、頑張り過ぎず楽になってる30代を実感してる?

杏 そうですね。外歩いてても、あんまり気づかれないですし(笑)。

―いやいや...まぁ役者の人たちって存在消すの上手いなぁと思いますけど(笑)。

 あ~、それはどっかで身についてるのかもしれない。たまにこう...ハッ!って幽霊でも見たかのような目線を受ける時はあります。

―あと、意外に東京だと放っといてくれるのもね。有名人慣れしてるというか。

 大っきいと思います。それと単純な話で、しっかりメイクをした日とそうでもない日の差は激しいですね。見つかるか見つからないかは(笑)。

―ははは。それは以前、登場してもらった渡辺直美さんも言ってました。ただ、最近久しぶりに原宿の竹下通りをスッピンで歩いたら大変なことになったそうですけど(笑)。

 あはははは。いやぁ大変だろうな~。...でも、居心地がいい環境は自分で作るっていうのも大事ですよね。行きつけのお店を作るとか

―そうなっちゃいますよね。一緒にいる相手もそうだし、自分がちゃんと素でいられる場所とか空間を持たないとね。

 じゃないと、外に出て行かなくなっちゃいますよね、しんどいから。

―このSNS時代にますますね...素人だってパパラッチになりえますから。

 だから今の若いコたちは大変ですよね。私の世代はまだ大丈夫だったけど。

―そういうちょっとしたことで道を踏み外すことだってね。ちなみに、杏ちゃんは反抗期とかグレてたな~みたいなのはないですか?

 常にありましたけどね。ちょいちょいグレてたと思います。

―常にって意外な(笑)。ちょいちょい小出しにしてたのがよかったとか?

 そうです(笑)。最近は絵を描いたり犬を飼ってることもそうですけど、運動とかして発散場所が変わってきた感じがあるから、大してグレなくなりましたけど(笑)。

―その絵については、さっきちらっと出たクラウドファウンディングの話(6月29日まで)もね。初のイラスト&エッセイ集を刊行するということで。松尾スズキさんの応援メッセージには「杏ちゃんの絵には、山下清や、たけしさんのような、プリミティブな魅力があります」と。

 そう、なんか恐ろしい...すごい言葉をいただいちゃってびっくりしました。

―いや、なるほどなと思いましたよ。確かに原初的というか、無意識に自分の何か根源的なものが鏡として絵に映し出されてるような印象がして。

 自分ではあんまりよくわかってなくて...ほんと写経的な感じで、描いたら終わりなんです。こうしようと考えると面白くなくなっちゃう感じもあって、大して何も考えてない時に描いたものが自分的には一番面白くて。考えてるような考えてないような...無の部分というか。

―描いてみて、それが自分の潜在的な心象風景を表してるとか?

 なんか「あ、こんなのが描けたんだ」っていうので終わりなんです。それとあんまり感情は一致してない気がするんですけど。自分ではわからないです。

―心療内科とかでも、絵を描いたり箱庭療法のようなものもありますが。

 そういうことは分析できる人にお任せしようかなって感じで。でも大してどきっとするようなことって自分はないんですよ。大体、わかってるっていうか。

―見させてもらって、上手い下手とかそういう以前に子供が描く絵みたいにこちらはどきっとするというか...頭で描いてない素なものを突きつけられて。

 頭で描けないんですよね。それは絵が上手くないから...こういう線を描きたいと思っても、技術がないからどんどん脱線してくるんです。そうすると別の風景が見えてきて、そっちに任せていくと「あ、こういう絵になった」っていう。だから終わって眺めて「こんなのになったんだ、へえ...」「変なの」って、にやにや笑う感じ。

―それも含めて楽しみというか。

杏 どうなるかな、と思いながら。だから、今度のファウンディングでも肖像画プレゼントもあるんですけど、どうなるんですかね(笑)。下書きもせずに描けるのは今のところ蜷川(幸雄)さんしかいないので...。下書きから描くと、やっぱり似るまでに時間がかかるので面白いですけど。

―(笑)お仕事的にもいろいろな広がりがあって、いい感じに充実した30代。楽しみも増えてる感じ?

 そうですね。大体、いつも楽しみなんですけど、憂う部分が少なくなってきましたね。生活的なこととか不安にはなるんですけど...でも結局、なるようにしかならないっていう。

―それこそ、さっき仰ったようにケセラセラな。

 うん。そうですね。そういうのが強いから...あんまり自分でぐじぐじ固まっちゃってるよりは流れに身を任せて。波がいつ来ても大丈夫なように準備しておくっていうのを常日頃やってるのがいいなって。そうするとやっぱり流れってくるものだし。私のブログのタイトルじゃないけど「たゆたう」ってるほうがいいなって。

―僕も「たゆたう」って言葉は好きです。実際に周りを見てもね、素敵な人ってそういう人が多いですよね。

杏 で、たゆたってると、絵を描いて作品集にしようみたいな渦がいつの間にかできて、あれよあれよと進んでっていう...感じになってるのかも。

―だから一喜一憂するのも疲れるし、周りに振り回されるのもしんどいから、仰ったように準備だけして...自分をフラットな感じにしておいてね。

 フラットにしておいて、フットワークだけよくしておいて...っていう感じです。

―流れに身を任せて、たゆたってると、本当にいろいろな形で巡り合わせがね。『ドキュメント72時間』とか『世界ふれあい街歩き』のナレーションで杏ちゃんが出てくる回も嬉しいですし(笑)。

 あ、嬉しいです(笑)。やっぱり人と知り合ったり巡り合ったりするためにお仕事してるって部分は大きかったりするんですよね。自分をどう極めるかってことより、私的にもそっちに重きがあるかもしれないです。役に立てればっていう。

―自分が自分がというより、必要とされてみたいなところはありますよね。

 そう。やっぱり、呼んでもらってなんぼなので...。

―結局、観に行く作品でも、この監督であり演出家と役者さんのコラボとか好きな組み合わせのケミストリーだったり新鮮さで惹かれるというか。僕はちなみに舞台の『sisters』(2008年)を2回観に行ってるんですけど...。

 中さんは、3回観に来てくれたらしくて(笑)。21歳の時だから...10年前ですね。學さんも絵を描く時に流してるってよく言ってます。

―あれを流しながら! 僕もDVDで持ってますよ(笑)。長塚圭史さんの舞台も結構好きで観に行くんですが、松(たかこ)さんもそそるケミストリーが多いです。

 あの時の松さんの年齢に近づいてきちゃったな...。カッコいいですよね。

―松さんもですし、大竹しのぶさんとか素敵な人がいっぱいいるから、やっぱり長く続けたい仕事になるのでは...。

杏 追いつけるとは到底思ってないですけど、一緒にお仕事できるくらいには...並ばせてもらえるようにはいたいなって思います。

―芸歴は杏ちゃんも長いですけど、まだまだ楽しみにさせていただきます(笑)。...というわけで、次のお友達をご紹介いただければ。

 幅広くってことで、挙げてみたらいくらでも幅広くなっちゃって。役者の方でもよかったんですけど...なんか、出会わない感じの人のほうが面白いのかなって勝手に思って。

―そこまで考えていただいてありがたいです!(笑) 駿河太郎さんにも、このシリーズはもっと世に知ってほしい、こんなすごい人がおるんやって人でいいですかと(笑)。熱く紹介してもらった流れが學さんにも繋がっているので(笑)。

 じゃあ、手塚マキ兄で。ご面識あります...?

―いや、直接はないですけど。歌舞伎町の元カリスマホストで今はグループの会長として、メデイアにもいろんな話題で登場されてますよね。

 私は、マキ兄は奥さん(アーティスト集団・Chim↑Pomのメンバー、エリイ)のほうと元々、仲が良くて。すごい面白い方で、最近は歌舞伎町に本屋さんを作ったりして。

―それも注目されてますよね。ホストが街の清掃活動したりとか。

 はい。幅が広いっていうか、視野が広くて面白いなって。せっかくの機会なので、駿河さんが仰ってるようにコアな人ほど面白いんじゃないですか...。

―了解です。ではその流れを汲んで、手塚さんにオファーさせていただきますね。本日は長々とありがとうございました!

第60回は7月1日(日)配信予定! ゲストは元カリスマホストでSmappa!Group会長の手塚マキさんです。

■鈴木杏(すずき・あん)
1987年4月27日、東京都生まれ。1996年にデビュー、子役として注目を浴び、その後もテレビ、映画、舞台などで幅広く活躍。2016年には舞台「イニシュマン島のビリー」「母と惑星について、および自転する女たちの記録」で第24回読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞。近年の舞台出演作として、「欲望という名の電車」、蜷川幸雄三回忌追悼公演「ムサシ」など。31歳の誕生日を機に、クラウドファンディングで、イラスト&エッセイ集出版プロジェクトを立ち上げた。https://www.booster-parco.com/project/381