今年創刊40周年!「フランス書院文庫」編集長が語る官能小説の現在「凌辱モノは時勢的に肩身が狭いけど、好きな方がいる限りは応えていきたい」

取材・文/安田理央

とかくベールに包まれたフランス書院編集部だが、その様子は『令和に官能小説作ってます フランス書院編集部物語』(さとうユーキ作)に描かれている。作家とのやりとりから、表紙、タイトルなどの制作秘話まで。官能小説ファンは必読だとかくベールに包まれたフランス書院編集部だが、その様子は『令和に官能小説作ってます フランス書院編集部物語』(さとうユーキ作)に描かれている。作家とのやりとりから、表紙、タイトルなどの制作秘話まで。官能小説ファンは必読だ
1985年の創刊以来、官能小説界をリードし続けるフランス書院文庫が、今年40周年を迎える。6月30日に発売された『週刊プレイボーイ』28号では「禁断と背徳の官能小説20選」と題して、3,500点を超えるその作品群の中から20点を厳選し紹介。男たちを虜(とりこ)にしてやまない、その魅力に迫った。

本記事では、誌面に掲載された玉川編集長のインタビューを拡大版にして再掲載。普段、明言されることのない編集指針や人気作品の時代による変化、そして今後の方向性などを語ってもらった。

*  *  *

――フランス書院文庫は40年の歴史があるわけですが、作家も高齢の方が多いんですか?

玉川 もちろんベテランの方も多いですけど、若い先生もいますよ。現在はフランス書院官能大賞の受賞者から入ってくる方が多いんですが、応募者は20代から80代まで、かなり幅広いです。

――年齢によって作品の傾向は違うんですか?

玉川 若い書き手さんですと、ハーレムとかチートな能力で俺はモテモテ、みたいな作品が多いですね。

――ああ、今どきのネット小説的な。

玉川 若い人には凌辱という発想がないみたいですね。現実にそういうことが絶対に許されないのは当然です。凌辱小説はあくまでフィクションとして楽しんでほしいです。

――いずれにしても、若い人は、そこに興奮するということ自体がわからないという......。

玉川 年配の方になると、凌辱的な作品を好む人が増えますね。結城彩雨(ゆうき・さいう)先生に影響を受けたような。

――結城彩雨先生! フランス書院文庫では看板作家ですよね。

玉川 結城先生は、フランス書院文庫で作品が出て新書のハードXノベルズで出て、結城彩雨文庫という専用の文庫でも出て、さらに電子書籍でも出て、全部売れるんですよ。何度出しても売れる。すごいです。

『新妻肛虐生活』結城彩雨(1991.3) 本誌に掲載された中から3作品紹介。幸せ絶頂の新婚生活を送る美人妻を襲う悲劇。夫にさえ見せたことのない秘孔が衆人環視の中、今貫かれる......。"肛虐モノ"の大家による初期代表作『新妻肛虐生活』結城彩雨(1991.3) 本誌に掲載された中から3作品紹介。幸せ絶頂の新婚生活を送る美人妻を襲う悲劇。夫にさえ見せたことのない秘孔が衆人環視の中、今貫かれる......。"肛虐モノ"の大家による初期代表作
――〝官能小説界のビートルズ〟ですね(笑)。しかも一般的にはそれほど有名な作家さんではないのに。

玉川 内容はかなりハードですからね。その分、熱狂的なファンがいますから、出ると全部買うという方が多いんじゃないかと。

――中古本市場でも、フランス書院文庫の古い版が数千円のプレミア価格がついています。ネットにもファンサイトがありますし、人気はずっと衰えていないですね。

玉川 作家さんでも、結城彩雨チルドレンと言うべき、強い影響を受けている方がたくさんいます。一番有名なのが北野剛雲(きたの・ごううん)先生。ほかにも愛原疼(あいばら・うずき)先生や紫艶(しえん)先生......。結城先生に限らず、凌辱モノの方が他のジャンルに比べてロングセラーになりやすい傾向があるんですよ。読者の熱が高い印象がありますね。

――凌辱ファンはマニアックなんですね。

玉川 フランス書院文庫は空港の売店でよく売れるんです。出張に行くサラリーマンが空港で買って、飛行機の中で読んで、家には持って帰れないから到着先の空港で捨てるらしいんです。そういう読まれ方をするのは誘惑系が比較的多いです。凌辱系の読者はコレクションしたいから、家に持って帰る方が多いようです。

――フランス書院文庫というと凌辱系の印象が強いんですが、最近は誘惑系の作品の割合も増えてきているようですね。

御堂 乱『人妻捜査官・玲子【囮】』 (2014.6) 手足を拘束され、繰り広げられる拷問。誇り高き女捜査官が淫女に改造される。ベストセラー作家の人気作品御堂 乱『人妻捜査官・玲子【囮】』 (2014.6) 手足を拘束され、繰り広げられる拷問。誇り高き女捜査官が淫女に改造される。ベストセラー作家の人気作品
玉川 それは景気が影響している気がします。日本経済が元気なときは、読者である男性が自信を持っていたため、凌辱系が売れていたんです。しかし、経済が長い低迷期にある現在は、仕事に疲れた男性が多いため、癒やしを求めて誘惑系に惹かれるようになってきたんじゃないでしょうか。それともうひとつの理由として、時代的に凌辱というものを流通させづらくなっているということもありますね。

――規制が厳しくなっているということですか?

玉川 やはり通販サイトや流通などで、問題になることは多いです。タイトルでも〝凌辱〟みたいな直接的表現はNGだけど〝肛虐〟ならOKとか(笑)。そういう理由で造語に頼ることはありますね。

――あの独特の造語にはそんな背景があったとは!

玉川 今は表紙のイラストも厳しくなっていますね。ショーツの上から股間に手を当てているようなポーズもダメで、通販サイトで表紙が表示されなくなったりします。なので、着衣のイラストが増えてきてますね。あとイラストレーターさんには、とにかく胸とお尻は大きく描いてくれと伝えてますね。

――モデル体型よりも肉感的な方がいいと。

玉川 おっぱいとお尻はどんなに大きくても、太ももはどんなに太くても文句は来ないって言います(笑)。スリムな女性の絵だとクレームが来たりするんですよ。痩せすぎだって。

――読者の嗜好がはっきりしてますね(笑)。

玉川 あと、昔からうちは熟女が人気ですね。少女とか女子大生はあまり売れないです。やっぱり人妻とか未亡人。妻の母とかも人気ですね。祖母なんかも意外に反応がいいです。共通しているのは、禁忌を犯す関係だということです。

――普通の男女の関係ではない、ということですね。

玉川 独身の男性と独身の女性がセックスしたとしても、それは別に自由恋愛ですよね。でも隣人の奥さんとしてしまったら、それはめちゃめちゃ禁忌ですよね。バレたら、そこに住んでいくわけにはいかない。引っ越さなくちゃいけない。妻の母との関係もバレたら大変なことになる。結局、ただの熟女とのセックスだと魅力はないわけです。これは凌辱でも同じことですが。我々は常に禁忌を犯す設定を考えていくようにしています。これはフィクションの世界だからこそ楽しめる魅力なんです。

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――読者の年齢層は、かなり高い?

玉川 紙の本の読者は年齢層が高いですからね。

――フランス書院さんはKindle以前からいち早く電子書籍にも対応していましたよね。

玉川 紙の本に比べて家族にバレにくい電子書籍とエロの相性はとてもいいと思います。ポルノ系作品は電子書籍市場を引っ張るジャンルになっていると思います。電子書籍だと読者層が若いからか、NTR(寝取られ)系の作品も人気がありますね。逆に凌辱系が好きな団塊世代の方はNTRは苦手みたいです。

――女性が意外に凌辱系が好きという話も聞くんですが、フランス書院文庫でも女性読者は多かったりしませんか?

玉川 正確な数字は把握していないんですが1~2割くらいだと思います。女性は誘惑系が苦手というのは聞きますね。ウチは母との近親相姦モノも人気なのですが、ママがどうとか気持ち悪いと。

――マザコンは気持ち悪い、と(笑)。やっぱりフランス書院としては、あくまでも凌辱モノがメインだと考えているのでしょうか?

玉川 今は凌辱モノは時勢的に厳しいじゃないですか。書き手の方も凌辱モノが書きたくても書ける場もない。でもお好きな方がいる限りは、それに応えていきたいという気持ちはありますね。会社としては電子書籍もいろいろやっていますが、我々としては今いる読者をまず大事にしたいという気持ちは大きいです。

これだけアダルトな映像が気軽に見られる時代になっているのに、あえてポルノ小説を選んでくださっている人たちに支えられて続いてきたわけですから、その人たちのために出していきたいですね。


●玉川編集長 
フランス書院に新卒で入社。30年にわたり1,000冊以上の書籍を手がけている。イラストは『令和に官能小説作ってます フランス書院編集部物語』(作/さとうユーキ)における玉川編集長

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