大腰筋とは背骨を支える筋肉だという野呂田氏

高齢化が進むと同時に「要介護(要支援)認定」される65歳以上の割合も増加している日本。そんな中、すでに“寝たきり予備軍”になっている30代、40代が多いと危惧するのは『一生歩ける! 寝たきりにならないための「足腰力」』の著者で、10万人以上にリハビリ指導してきた野呂田秀夫(のろだひでお)氏だ。

30代、40代といえば、まだ親の介護も始まっていないような世代。運動不足やメタボを気にする中年サラリーマンは多いかもしれないが、数十年後の“寝たきり”を心配するような年齢ではないはず。

しかし、野呂田氏によれば「軽快に、そしてパワフルに歩き回れる足腰の力」=『足腰力』が弱いと、高齢者になった時、思う以上に体が動かせなくなり、“寝たきり”になってしまうという。

前回記事では『足腰力』を低下させない“正しい歩き方”を教えてもらった。しかし、気になるのは、もうすでに低下してしまっていないかどうか。

「それなら、目を開けたまま片足立ちしてみてください。体を支える大腰筋(だいようきん)と中臀筋(ちゅうでんきん)がしっかりしていれば、フラついてもすぐに修正できます。また筋力低下している場合は、関節の可動域が狭まって、バランスを崩した時に修正できなくなってしまうのです」

男性なら目安は、20代が90秒以上、30代で70~80秒、40代は60~70秒、50代は50~60秒だ。足はしっかり上げよう。

目を開けたままなら余裕だと思うだろうが、実際にやってみると意外とキツイ。今年30歳になった記者もやってみたが、1分を過ぎたあたりからフラつき始め、90秒を超えた頃には腹筋に疲れを感じた。これができない人は運動不足で筋力低下がすでに起きていると思っていいだろう。

また、“正しい歩き方”がわかったところで、それを保つことが大事。そこで大きな問題になるのが、“姿勢”だ。

自分の猫背度をチェック!

姿勢の悪さも若者の「足腰力」が低下している理由だと指摘する野呂田氏

「今は電車に乗る時に、若い人でも座ってスマホを触っていますよね。そうするとだいたい頭が下がって姿勢も悪くなってます。仕事でPCを使う時もキーボードを打つ際に腕が前に出て背中が丸まったり、姿勢が悪くなる要素も多いですよね」

果たして、姿勢に自信のある人はどれほどいるだろうか。猫背を気にする人は少なくないが、正しい姿勢をチェックしてみてほしい。方法は簡単。カカトを壁にくっつけて立つだけだ。

この時、後頭部、肩甲骨、ひじ、お尻が壁につけば問題ないが、お尻以外つかない場合は猫背。ひじがつかない場合は猫背気味、お尻がつかないのは猫背ではないが、反腰(そりごし)になってしまっているのでアウト。

「普段から姿勢の悪い人が“正しい歩き方”をすると、いつもより疲れてきます。これは大腰筋が衰えている可能性が高い。大腰筋は背骨を支え、骨盤を正しい位置に保つ筋肉ですが、姿勢が悪い人はこの大腰筋が衰えているから、“正しい歩き方”で背すじを伸ばしているとしんどくなってくるのです」

つまり、大腰筋を鍛えなければ、“悪い歩き方”に戻ってしまいやすいというわけだ。ちなみに大腰筋は足を引き上げ、前に出す役割を持っているため、低下していると歩幅が狭くなったり、躓(つまづ)きやすくなってしまうという。

正しい姿勢をキープするためには大腰筋以外にも、野呂田氏は体幹を鍛えることを勧める。

「体幹とは首から下の胴体にある筋肉全てです。腹筋や背筋など外側の筋肉は鍛えやすいんですが、内側のインナーマッスルはなかなか鍛えづらい。ただ、そこで体を支えているわけですから、弱ると姿勢も崩れてしまいます」

■続編⇒『寝る前やオフィスでもオススメ。たった3分でできる“正しい姿勢”トレーニング』

●取材協力/野呂田秀夫先生メディカルクロッシングオフィス主宰。東京警察病院リハビリテーション科室長、顧問を経て現職。またNPO法人格闘メディカル協会会長、財団法人日本スポーツ・芸術サポート財団特別顧問。長年、総合リハビリテーション分野、スポーツリハビリでの治療ケアに携わる。近著は「一生歩ける! 寝たきりにならないための『足腰力』」

(取材・文/鯨井隆正 撮影/五十嵐和博)