街歩きや交流会、飲み会など着物をテーマにしたイベントが増えている

オシャレのひとつとして、じわじわとだが増えている“着物男子”。

前回記事「男着物が増えている3つの理由」では、その要因を分析したが、男着物といえば、高いだけでなく地味な印象。それが、安価なモノや派手な柄、色合いのモノも市場に出回り、ファッションとして楽しめるようになったのだ。

そこで気になるのは周囲の目だ。女性であればまだしも、男性の着物姿がまだ一般的ではない今、着物を着て街に出るのはハードルが高い。

しかし、変な目で見られるどころか、“逆ナン”体験もできるというのは、日本最大手の中古着物店「たんす屋」の中村健一代表取締役社長だ。

「先日も湯島の居酒屋に着物で行ったら、30代くらいの女性に声をかけられて一緒に飲んでました。以前、浅草では女子高生に『おじさん、何してる人?』と話しかけられて、一緒にイベントを行なったこともあります」

こうした“逆ナン”は中村社長だけかと思いきや、ほとんどの着物男子が経験済み。やはり目を引くだけあって、電車待ちやカフェなどで「今日、何かイベントあるんですか?」「着物、素敵ですね」などと声をかけられ知り合うきっかけができるのだ。

「普段は地味で目立たないタイプなんですけど、やっぱり注目されますよね。浮いているように見られるかもしれませんが、街で『カッコいいですね』と言われることもあって、個性のひとつとして受け入れられてるんだなと感じます」(30代男性・着物歴3年)

「居酒屋で友達と飲んでいたら隣の席の女性ふたり組から声をかけられました。外で女性に話しかけられるなんて今までなかったので、緊張して少ししか話せなかったんですけど…」(20代・着物歴1年)

とはいえ、ただ着るだけでは恥ずかしい。実際、着物を着るために茶道や落語を始めたりと、目的と手段が逆になっている人もいる。そんな中、増えているのが着物イベントだ。

着物姿の200人が渋谷のスクランブル交差点に集結!

2周年を迎えた「きものDE交流 ~着物で街を埋め尽くせ~」では、渋谷のスクランブル交差点に約200人が集結

「周りの着物を着る男性も初めは皆、着物を着る理由を探していました。興味を持っている人でも着る機会がないから着ないという人がほとんどでした」

というのは、「きものDE交流 ~着物で街を埋め尽くせ~」(以下、「きものDE交流~」)を主宰する木口郁瑠(きぐちいくる)氏。

「きものDE交流~」は2014年6月に「着物姿で渋谷のスクランブル交差点を埋め尽くそう」というコンセプトで始まった。それからは毎月一度、最終日曜日に様々な場所を大人数で訪れている。

「最初は突然始めたんですけど80人集まりました。それから一時期は減ったんですけど、この2年くらいは毎回100人くらい集まります。それも半数くらいの人が着物の未経験者や初心者なんですよ」

イベント参加者のメインは30代。着物を着たことがない人もいるが、「きものDE交流~」では無料レンタルを行なっているため、気軽に参加できるようになっている。

この他にもSNSなどで個人がつながりやすくなった今、個人単位でのイベントも増加している。特に着物と相性がいいのはお酒だ。前出の中村社長は、

「歌舞伎などもですが、日本酒のイベントに行くと必ず和装している男性はいますよ。日本酒自体が“和”のイメージが強いので、着物を着て行くのに違和感がなく参加しやすいのでしょう」

と言うが、実際、イベント以外にもお酒を飲みに行くのに着物を着る“呑み着物”も広がっている。

月曜の夜は着物飲み!!

店内は15人も入ればいっぱいの「いま粋バー」。この日は20人以上が来店し、外にも溢れていた

「着物を買ったのはいいけど、お花見やお祭りくらいしか着る機会がないので飲み屋に行く時に着ています」というのは着物を着始めて2年目の30代男性。そんな彼も含めて着物男子が集まるのが、毎週月曜日に開催される日本酒と着物をコンセプトにした「いま粋バー」だ。

同店が始まったのは2013年4月。普段から着物を着られる場所として始まった。

「和装だから格調高くちゃんとしなきゃいけないというのはしんどく感じる。着物自体は正装のイメージだけど、元々は普段着。だから格式高いところではなく、シャツやジャケットと同じようにバーで着られるようにという考えです」(「いま粋バー」主宰・渡部麗氏)

お店を訪れる人の多くはSNSがきっかけ。日本酒が好きで通い始めた人も多い。

「大体、半分は日本酒目的で来るようになった人。よく“着物×日本酒”イベントはあるけど、単発で定期的じゃないし、すでに着られる人が対象だったりします。うちは着物に興味もない人も来るんだけど毎月3,4人は着物を始めているんじゃないかな」(渡部氏)

着物好きと日本酒好きがお互いに興味を持ち、年間50人以上が着物にハマっているのだ。

「要は“ガッチャンコ”なんですよ。何もないのにいきなり着物を着ろと言っても無理でしょ。それを何かイベントや場所などと組み合わせて敷居を低くすることで、興味を持ちやすくなるし入っていけるようになる。飲み屋やバーという庶民的なものなら、着物も着て行きやすくなるんじゃないですか」(渡部氏)

個性として魅力的に映る“男着物”。イベントや飲み屋での“呑み着物”など、着る理由も増えてきた。まだ着たことがない人も一度挑戦してみれば、“逆ナン”されるかも?

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(取材・文/鯨井隆正)