落語家や呉服屋でもなければ、男性が着物を着ることは少ないはず。しかし、男性の間でも徐々にファッションのひとつとして認知され始めている“着物”。
安価で多様な着物が出回り始めるなど、前々回の記事では「男着物が増えている3つの理由」を検証。さらに、浮いているようにも思える“着物男子”が周囲から意外と高評価を受けていることを前回記事「男が着物を着るイベント増加中」で紹介した。
とはいえ、いざ着物を着てみようと思っても未経験者がまずイメージするのは「難しそう」「大変そう」というものだ。確かに成人式などで振袖を着る女性からは「着付けが無理」「着ていて苦しい」などの声をよく耳にする。「着付け教室」があるほどだから簡単なものではない。
しかし、それは女性の話。男性の着付けは意外と簡単なのだ。
「女性は簡単には無理でしょうけど、男性の着付けはすぐ自分でできるようになりますよ」
というのは、都内と埼玉に4店舗を構える中古着物店「福服」の福田香氏。
着物を着るのに必要なのは「着物(長着)」、その下に着る「襦袢(じゅばん)」、襦袢を腰下で結ぶ「腰紐」「帯」「足袋(たび)」だ。襦袢や長着はしっかりピンと伸ばして左右を合わせるが、この時に右側が下になるように! 左側の上に右側を重ねてしまうと「死に装束」になってしまうので、そこだけは気を付けよう。
そして、最もハードルが高いと思われているのが、帯の結び方だ。しかし福田氏いわく「サラリーマンがネクタイを付けるように何も意識せず帯を締めている男性スタッフもいる」そうで、そこまで難しくはないという。
「帯の結び方はいくつかありますが、『貝の口』や『片ばさみ』がメジャーです。大抵の人は何度か練習すればできるようになります。それが面倒であれば兵児(へこ)帯を蝶々結びするだけで大丈夫ですよ」
まさかの蝶々結び…。しかし、せっかくならちゃんとした帯でカッコつけたい人のために「片ばさみ」の結び方を紹介しておこう。ちなみにモデルとなった未経験者は5回ほど練習したところ、自分で結べるようになった。
一見、複雑そうだが手間のかからない「片ばさみ」
【男帯の締め方(片ばさみ)】 (1)帯の上下30cmほどを半分に折り帯を巻く
(2)そのまま2周巻いたら上下半分に折った部分を20cmほど上に出して締め直す
(3)先ほど上に出した部分から20cmほどを残し余った帯は内側に隠す
(4)半分に折った端ともう一方の端を結ぶ。この時、両端が8時の角度になるように。
(5)上になった端を1枚目と2枚目の帯の間に挟み、結び目を直す
(6)帯を下側から両手で持ち、腰に結び目が来るよう左方向に半周回せば完成
そして次はコーディネート。生地の素材や織り方など多種多様にあるが、それが着物を“難しく”している。
「正装として着るのであれば、それは覚えたほうがいいですが、普段着や外出着として着るのであれば、なんでもいいんですよ。袖や丈の長さなども、よっぽど短かすぎなければ、あとは好みです」(福田氏)
正装の場合は袴をはかなければならなかったり、帯の種類が決まっていたりとルールがある。しかし、普段の生活で着る分にはそういった縛りはなく、自由に着ていいのだ。
「元々、男着物は地味な色合いばかり。うちでは女性の着物を使ったリメイク着物もあります。派手に見えますが、赤や黄色でもビビットな色ではなく和の色が多いので意外と着てみると目立たないんですよ」
リメイク着物を使えばカジュアルに!
さらに帯と着物の色の組み合わせなども自由だ。
「着物のいい所は大抵、なんでも合うところですね。色や柄に関しても、何が合わないということはないので、どんな雰囲気に見せたいか決めるのがいいと思います。明るい着物に派手な色柄の帯でも合いますし、少し抑えたければ無地の渋い帯を締めてもいいと思います」
Tシャツにジーンズという組み合わせはおかしくなるわけがない。それと同じように着物と帯も変になるわけがないのだ。強いて言えば、安いポリエステルの着物に博多帯などの高価な帯を合わせるのは避けたほうが無難かも。
女性の着物に比べれば縛りもなく、簡単に着付けられる“男着物”。まずは一着、着てみてはどうだろうか。
【総額2万円以下で一式揃う着物コーディネート例】
(取材・文/鯨井隆正 撮影/五十嵐和博)
【衣装・コーディネート協力】福服 新宿、浅草、神楽坂、川越に店舗を構える中古着物店「福服」。格安店として知られ、ほとんどの着物が1万円以下で購入できる他、セミオーダーのリメイク着物も1万円程度で扱うhttp://www.rakuten.co.jp/fukukimono/