エチオピアからケニアへ行くのなら、旅人たちはバスで陸路越えするのが定番ルート。
その移動はガタガタの悪路を長時間耐久するという過酷なもので、さらにソマリア国境付近のため山賊に襲われることもあり危険だと聞く。
また、無事に国境を越えたところで辿(たど)り着くのは、アフリカ凶悪3大都市と言われている「ケニアの首都ナイロビ」(ちなみに他はタンザニアのダルエスサラーム、南アフリカのヨハネスブルグ)。
アフリカ最大級のスラムである「キベラスラム」をはじめ複数のスラムが点在し、『地球の歩き方』には街を「歩くな」と書かれているほど! それでもサファリ目的や、今後のルートのためにケニアに行く旅人のほとんどはナイロビを目指すのである。
いつかここを訪れる日が来ると思っていたが、いざケニアを目前に私の頭の中にはずっと旅友の「恐怖体験」が渦巻いていた…。
「日本人に人気の安宿に強盗集団が入って来てね。パンッっていう渇いた音がして、番犬が撃ち殺されたの。レセプションのお金を狙った犯人たちが、ちょうどサファリ帰りのドイツ人夫婦に襲いかかって、旦那は殴られ頭から流血して奥さんは荷物を奪われて…本当に怖かった!
襲撃は1度じゃなく、2度目は中庭でテント泊していた人たちのテントが順番に切り裂かれていって、彼らは襲われ手足を拘束された。宿の中にいた宿泊客も窓ガラスが割られていく音を聞きながら、『次は自分の番だ』と怖れながら息を潜めていたんだって。
誰かが通報して警察が来るまでは、みんな生きた心地がしなかったし、一歩間違えれば殺されてもおかしくないよね…」
まるでホラー映画のような話だけど、こんなことがニュースにもならず、旅人の日常で起きてしまうのがナイロビなのである。
さて、私はそんなナイロビに行きたいかと聞かれれば「否!」。でもケニアに行きたいかと聞かれれば「イエス!」。
そこで、地図を広げた私が注目したのは、海沿いに位置するケニア第2の人口をもつ港湾都市「モンバサ」だった。インド洋の交易の拠点のひとつとして、かつてはアラブ人との交易で栄えた地域でイスラム教徒が多く住んでいる。
ケニアで最も美しいと言われるビーチもあるっていうんだから、ビーチ好きの私はそれ狙いでもう飛行機乗っちゃうでしょう!
スラム街を抜けると、旅人たちの隠れ家が…
しかし、モンバサもまた中心部は「スラム街」「準スラム街」「十分注意」の危険地域ばかり…。ああ、ケニア!
空港に着くと、もちろん「観光客が徒歩で移動するなんて危険だ。我々はオフィシャルタクシーだから乗りなさい」とタクシーのおじさんに説得される。目的のディアニビーチの安宿までは48kmと結構遠く、タクシー代は50米ドルのところ少しオマケしてくれるというので乗ることにした(日本と比べたら激安!)。
「モンバサの地形は島繋がりになってるんだよ。ディアニビーチへ行くには車ごとフェリーに乗って渡るんだ」
タクシーに乗って車窓を見ながら、すぐに私は思った。「モンバサでこの怖さか。歩けるわけがない。ナイロビなんて行ってたらチビってたろうな」と。
タクシーの中にいるというのに、観光客の私を狙うようにジっと見てくる視線が怖い。大きなトラックがグチャグチャのままひっくり返っていたり、街中には銃を持った警官らしき者が歩いていたり、決して雰囲気は明るくない。
港で車内からコソコソ写真を撮っていると、タクシーのおじさんに「パブリックな場所での写真は禁止だ」と止められた。モンバサでは近年、爆弾や銃乱射などのテロ事件が頻発しているとのことで、特に港周辺は警戒が厳しく緊張感たっぷり。
そしてフェリーを渡った側はまたすぐにスラム街と、とにかく治安の悪いところを通らずして美しいビーチには辿り着けないのだ…。ああ、ケニア!
しかしタクシーの窓からの潮の香りを運ぶ風が心地良く、こんな状況でもウトウトとしてきた頃、やっとビーチ沿いにある安宿に到着した。
門番が常駐する扉の中は、外の世界と切り離された旅人たちだけの空間が作られていた。湿気がありムワっとした暑さの中で、何をするわけでもなく本を読んだり、のんびりしている西洋人を見て、映画『ザ・ビーチ』を思い出す。
緑に囲まれたおこもり感たっぷりの宿内は一見、雰囲気が良いが、ロッジの蚊帳(かや)の張られたベッドはジメっとしていてちょっと不安。「蚊、多そうだな。南京虫もいそうだし…」
得体の知れぬ敵、現る!
周辺には気が利いた店もなく、ビーチに行く以外にはみんなも危険な目に遭いたくないのだから、ご飯あり、バーもあり、全てこの中で生活できるようになっているようだ。
ひとまずは命があることにホっとしながら、絶景ビーチを拝むため私は外へ飛び出した。ビーチ周辺の道は中心部と違ってノンビリしていて、昼間であれば危ない様子はない。
「ジャンボ~♪(こんにちは)」とすれ違う人にケニア流の挨拶をしながら木陰の道を抜けると、そこには太陽に照らされてキラキラと光るビーチが広がっていた。
遠浅で水温の温かいビーチでパシャパシャやっていると、物売りがくるが商売にしつこくもなく、ヒマそうでお喋りしたいだけという感じ。
そして「アサンテ~♪(ありがとう)」とか「カリブ~♪(どういたしまして)」とか、なんだかハッピーなサウンドのスワヒリ語を教えてもらう。
この辺の治安は大丈夫だと判断した私は、トゥクトゥクに乗り、近所を探検に出かけた。
降りたところがちょうどリゾートホテルの前だったので、レストランにでも寄ってみるかとお邪魔すると…なんと、ラクダ! これまで見た中でも一番美しく毛がカットされ、ピンクの花飾りをつけたラクダが歩いていた。
「さすがにリゾート内は超安全でリラックスできるな。ケニアにはこんなにキレイな海があるのに治安が悪いなんてもったいないよなー」と私は絶景を眺めながらビールで喉を潤した。
宿に帰ると、門番がなんとマサイ族になっていたので写真をお願いしたら、チップを要求されることもなくノリノリで
「もちろんOK! キミはマサイ族が好きなのかい?」
だって! こんなに感じの良い民族なら大好きです!(と、ムルシ族を思い出しながら…))
結局、居心地が良くなってきたこの宿に危うく“沈没”しそうになりかけてた、その時だった。ギャ~!
私の前に現れたのは得体の知れない虫ーー黒い芋虫型のスタイルにオレンジ色の足が無数に動いているではないか。
治安が悪いことよりはマシだけど、寝ている間にこんな虫がやってきたらと思うとゾゾゾゾ…。やっぱり移動するか。
気づけば、ここケニアで人生98ヵ国目。
バスでマサイ族の隣に座り、99ヵ国目となるタンザニアに向かうマリーシャなのだった。
【This week’s BLUE】 ディアニビーチに座りこむラクダ。ラクダのお尻は見た目が着ぐるみみたいな質感で目が離せなかった。
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第149回「タンザニアで大金を準備! 残高不足でオレオレ詐欺まがいの連絡をするハメに…」
●旅人マリーシャ 平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。バックパックを背負 う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】