パギー!(インドネシア語の挨拶)。
バリ島初日にして南京虫に刺されてしまった私ですが、気を取り直してバリ島中部にあるウブドへ日帰りで行ってみることにした。
ウブドはテガララン村のライステラス(棚田)、王宮での民族舞踏、古代遺跡ゴアガジャ、モンキーフォレストなどの見所がある人気エリア。
クタの安宿からだと30~40kmの距離があり、交通手段としてはシャトルバスやタクシーなどがあったが、数ヵ所巡るとなるとまあまあハードか。
そこで、物価の安いバリ島ならではの「カーチャーター」を検討。でも観光客が利用するような旅行会社に頼むと8時間8千円程度が相場で、私のような旅人には高い。
そんな時、以前インドネシアのジャカルタで働いていた日本人の友人から「僕がバリでいつも使っている現地のドライバーを紹介しようか?」とLINEが来たのでお願いすることにした。
あいにくそのドライバーは埋まっていたが友人を紹介してくれることとなり、お値段は8時間50万ルピ(約4000円)と半額程度。旅人にとってはそれでも贅沢であるが、日本でタクシー乗ることを考えたら激安に違いない。
実は私が車をチャーターしてまでウブドに行く目的は、有名観光名所ではなく、"世界最高級のコーヒー"「コピ・ルアック」を飲みたかったから。
コピ・ルアックとは、映画『最高の人生の見つけ方』や『かもめ食堂』などにも取り上げられた幻のコーヒーで、なんと"ネコのうんち"からできたもの!
「コピ」は「コーヒー」、「ルアック」は「ジャコウネコ」の意味。ジャコウネコに赤く熟したコーヒーの実(コーヒーチェリー)を食べさせ、糞として出てきた物を焙煎するという、なんとも珍しい製法で作られたネコの"うんちコーヒー"のことなのです。
「うんち飲むの!?」
と驚かれるかと思いますが、安心してください。ジャコウネコの食べたコーヒー豆は実だけが消化され、消化されずに排泄された豆だけを糞の中から取り出し、"きれいに洗浄"して乾燥させた後、焙煎したものを飲むのです。
さて、コーヒー農園に到着するとそこは観光用の施設になっていて、プトゥという名の農家さんによって園内を案内された。
コーヒー豆の木々の間を抜け、豆を焙煎する様子を手短に説明されると、まるで見世物用のような一匹だけのジャコウネコが居眠りをしている。
「コピ・ルアックは1kg作るのに42日かかるからね。貴重なので1杯50000ルピ(約400円)だよ。ローカルの私たちでさえ飲むのにその金額を払わなければいけないんだ。他のコーヒーは全て無料試飲だよ」
コピ・ルアックを注文すると、一緒に試飲用のフレーバーコーヒーが14種類置かれた。
400円といえば日本で普通のコーヒー1杯程度の値段だが、では日本でコピ・ルアックを飲もうとしたらいくらだろうか。調べてみると扱っている所はいくつかあるようだが、例えば東京の某高級ホテルでは5000円程度で飲めるとか。
そんな超高級コーヒーの特徴は、ジャコウネコの腸内に存在する消化酵素や腸内細菌による発酵の働きで加わる独特の香り。ジャコウネコの分泌物はシャネルの香水に使われている麝香(じゃこう/ムスク)に似た香りとも言われているけど......(きゃーん、シャネル!)。
クンクンと嗅いでみるものの私の鼻はシャネルを嗅ぎ当てられず、強いて言うならほんのり甘さを匂わすお香的な香り? 口に含んでみると爽やかな酸味を感じた(ちなみにもちろんですが、特に猫の糞をイメージするような匂いや味は感じませんでした)。
特別美味しいかと聞かれたら、それよりも試飲用のバニラ、チョコ、ココナッツなどのフレーバーコーヒーが、普段甘いものを我慢している私にとっては美味しく感じてしまった(ああ、高級な味や香りがわからない私のジャンクな味覚&嗅覚......)。
それにしても1杯+14杯を飲みきるには時間がかかり、その間、プトゥと私は会話を始めた。
「君は世界を旅しているのか。私たちの稼ぎは1日70000ルピア、つまり5米ドル程度だよ。子供が4人いて日々の暮らしをするのがいっぱいいっぱいで旅行になんて行けないよ」
バリの平均月収は3万円程度と聞くが、そうすると彼らの収入はそれよりも少ない。
「若い世代は英語の教育がされているからね、オーストラリアやシンガポールなど近隣諸国へ行ったりして、いろいろな仕事がある。でも私たちの時代の教育は良くなかったから、ここでこうして働いているよ」
プトゥは英語教育の大事さと経済的な悩みを語った。
コーヒーをほとんど飲みきりお腹をタプタプにした私は、最後にお土産コーナーに連れていかれた。
1日の給料を聞いてしまった手前、何か買わないとと思ったのだが、それらに値札はなく、仕方がないのでひとつひとつ値段を尋ねるハメに。
するとコピ・ルアックは350000ルピ(約2800円)、フレーバーコーヒーでも130000(約1040円)と、この国の物価にしてはなかなかではないか。
旅の始めに荷物を増やすわけにもいかず(そしてその味の価値も私の舌では判断しかねたので)、結局私はここで飲んだコピ・ルアックの分だけの支払いを済ませ、その場を後にした。ちょっと申し訳ない気もしたが、できれば小さくてお土産にしやすいパックを作ってくれたら買ったのにと思った。
ドライバーの元に戻ると彼らは何やらインドネシア語で会話していたが「売れた?」「いいや、ダメだったよ」というような内容だったことは容易に想像できた。
私はその後、ライステラスとドライバーお勧めの「スウィング」という、絶景の中で大きなブランコに乗りインスタ映え写真を撮れるという所に連れて行ってもらったが、映える写真を撮るのに300000ルピア(約3千円)だというので、撮らずに帰った。
後日、バリ在住の友人(日本人)にこの日のことを話した。
私「コーヒー農園の稼ぎに比べるとドライバーってよっぽど給料良さそうだよね! あとインスタ映えのブランコって流行ってるの? 10スウィングと絶景写真で3千円って(笑)」
友人「うーん。ドライバーは大体グループに所属してるから、本人の取り分はそんなに多くないみたいだよ。英語ができない人が多いから、個人だと集客が大変なんだよね。でも語学堪能でめっちゃ稼いでる人もいるよ。
最近だとね、インスタ映えする所ばっかりに連れて行く有名ドライバーがいてね。ちょっと高いんだけど、カメラマンもやってくれるし、お客さんも勝手にタグ付けしてくれるから大人気。本人のインスタのフォロワーもいっぱいで完全に"ひとり勝ち"だよ」
語学が堪能であるのはもちろん、インスタ映えの需要はまだまだ健在で、SNSでのカーチャーター・ビジネスも当たり前になってきているのだそう。
友人「ところで、まぁ、マリーシャくらいの旅人ならカーチャーターじゃなく、原付借りて行っても良かったけどね(笑)」
あ、そのパターンもあったね......。
日本を再出発したばかりで、今回は「カーチャーターして世界最高級のコーヒーを飲む旅」なんて、ちょっぴり贅沢をした旅人であった。
【This week's BLUE】
ウブドの街中に現れたジャコウネコのオブジェ。コーヒー農園は私が行ったところ以外にも複数あるよう。
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第225回「家賃は敷礼なしで1万円? インドネシアの楽園バリ島の気になる生活事情」
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】