少々長居してしまったフローレス島のラブアンバジョから、私は島横断の旅に出ることにした。
陸路で西から東へ進もうと思っていたが、思いがけず安い飛行機を見つけたのでバジャワという町まで飛んだ。バジャワはフローレス島中央の山の中にあり標高が1000mくらいある。
小さな空港に着くと、これまでのインドネシアでの毎日が嘘のように湿気がなく、少し肌寒いくらいの涼しさに包まれた。
空港から町の中心地までは遠いので、私は機内から目を付けていたバックパッカーらしき欧米人の男女をそっと追い、タイミングを見計らって声をかけた。
「あの~、中心地に行きますか? けっこう距離があるので良かったらタクシーシェアしません?」
「NO!」
女性のほうの返事にダメかと一瞬心が折れたが、「なんちゃって! 冗談よ! あなた日本人? 私はオランダ人のルイーザ。彼はイギリス人のマーク。それぞれ一人旅だけど前の町で会って一緒に来たのよ! さ、タクシー乗ろ!」
完全にからかわれたが一緒にタクシーに乗ることになり、我々は客引きと交渉。シェアを試みたわりには、タクシーは結局ひとりで乗っても3人で乗ってもひとり4万ルピア(約320円)と言われた。まあ安いからいいかと思ったが、マークがその理屈に納得いかなかったらしく、交渉を粘って少しだけ安くしてもらい乗り込んだ。
スコールのような大雨の中、運転手のヨハンは空港のパーキングにポイっと駐車料金らしき丸めた札を投げ、車を発進させた。
「バジャワへようこそ! ここはラブアンバジョみたくシティじゃないけど楽しんでってくれよ! フローレス島のフローレスはポルトガル語で花って意味なんだよ。
ところで君たちは何かい? オランダと日本だって? オランダには350年、日本には3年半ほど支配されてた歴史があるけど、なんだってその両国の君らが揃ってやって来たんだい(笑)? 日本には結局、教育を与えてもらったと思ってるよ」
ヨハンはつたない英語でいろいろ話してくれる、人の良い村人という感じであった。
「インドネシアのことを教えよう。お酒は飲んだ? アラックっていう強いやつとモケっていうのはそこまで強くない。それからバジャワの見所といえばもちろん少数民族の村と天然の温泉だけど、村はいくつかある。とりあえず、僕の家族んとこも村だから行っとく?」
勧誘なのかわからないけれど、こういう時3人だと心強い。宿の近くということもあって、イレギュラー的にヨハンの村へ寄ることにした。
そこには茅葺屋根の家や東屋のようなものが並んでおり、村の女性と子供が集まって座っているところに近づくと、おばちゃんたちがスーパーフレンドリー!
「スラマッシアン(インドネシア語のお昼の挨拶)! インドネシア語しゃべれる~? ジャパン! アニョハセヨ~」
クチャクチャやってる口の中は真っ赤で、どうやらミャンマーで見たキンマのような嗜好品を噛んでいるのだろう。
「ねえジャパン、写真撮る? あんたインスタやってる? あ、こっちの彼女とはフェイスブック交換してね。名前はオチンで検索して。それじゃモロモロ~(バイバイ~)」
なんとまあ、Wi-Fiすらろくに飛んでないのに、まさかインドネシアの伝統的な小さな村人たちがSNSを使いこなし、世界の観光客とつながるのを楽しんでいるとは予想外。
そしてこういった村では大体ドネーションと称した入場料がかかるとの事前調べであったが、ここでは一銭も要求されなかった。
小さなバジャワの町に到着し、マークとルイーザの宿前でさよならを告げ、私も自分の宿に到着すると一軒家のドアは開けっぱなしでそこには誰もいない。
仕方がないのでバックパックは勝手に家の中に置き、貴重品だけ持って町を歩くことにした。宿の周りのメインストリートには、店がざっと20軒程度といったところか。小さな飲食店を覗くと、すぐにマークとルイーザを見つけた。
「すぐ再会したね(笑)。狭い町だからまあそうなるよね。町には何もないし、ヨハンを呼んで今日中に観光終わらせちゃおうか?」
私たちがヨハンを呼び戻すと、「一番有名なのはベナ村なんだけど、時間微妙だからルバ村行っとく?」
「じゃあ、それで~」
私たち3人は偶然にもわりとみんな我が強くなく、柔軟なチームで一緒に旅がしやすそう。空港で勇気出してナンパしといて本当良かった。
山道を走りルバ村に着くと、子供たちの歌声が聞こえてきた。
「スラマッソレ~(インドネシアの夕方の挨拶)」
ルバ村はインドネシアの伝統的な風習が残る少数民族の村。ここもまた茅葺屋根の家がいくつか並び、縁側のようなところには鶏などのシンボルの彫刻が掘られ、バッファローの角が飾られている。
若い男たちは外へ仕事に出ているのだろうか、女性たちは機織りをしていて、他には子供と母親、そしてかなり高齢とおぼしき雰囲気ありまくりの老女が目を引く。
また真ん中の広場には複数のカトリックのお墓と墓標が置かれ、亡くなった人を囲むように人々は暮らしていた。
東屋と思っていたのは生贄を捧げる場所だったようで、各家にはバッファローの角が飾られていた。
帰り際に村人たちに赤いバナナをもらったが、私にだけ特別2個くれた。気をよくした私は、もっと仲良くなろうと村人たちが噛んでいる口が真っ赤になる嗜好品にもトライ。
白い粉がすごくヤバそうに見えて、口に入れて良いのか戸惑ったが、勇気を出してグっと噛みしだくと......、苦くて渋くてマズイ。バケツにペッペと吐き捨てる姿をみんなが笑っていた。
その雄姿を認めてくれたのか(?)、こう言ってくれた。
「この家はね、奥に三層になっていて一番奥はプライバシーエリアで入ったらダメだけど、写真だけOKだよ!」
奥は家族だけのプライバシーエリアで、真ん中がラウンジ、手前の縁側のようなところはゲスト用。電気は通っているそうだ。
ドネーションと署名をしてこの村を去ろうとすると、そのタイミングで一気に霧がかかり、まるでその村が幻であったかのように白い霧に包まれ消えて行った......。まるで自分が今いるのが、現実か夢の世界かわからなくなるようだ。
すると消えた村から人影がボンヤリと浮かんできた......。老婆が霧の中から現れ、我々の手首をグっとつかんだ。
「ヒッ......!」
「おかね......、もうちょっとちょうだい......」
あ、現実世界だ。
【This week's BLUE】
ヨハンの村で青いビニールシートの上で作業する人たち。女性と子供ばっかり。
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第233回「秘境バジャワに湧き出る天然温泉でインターナショナル混浴!」
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】