川喜田 研かわきた・けん
ジャーナリスト/ライター。1965年生まれ、神奈川県横浜市出身。自動車レース専門誌の編集者を経て、モータースポーツ・ジャーナリストとして活動の後、2012年からフリーの雑誌記者に転身。雑誌『週刊プレイボーイ』などを中心に国際政治、社会、経済、サイエンスから医療まで、幅広いテーマで取材・執筆活動を続け、新書の企画・構成なども手掛ける。著書に『さらば、ホンダF1 最強軍団はなぜ自壊したのか?』(2009年、集英社)がある。
例年よりも酷暑が長ーく続いた今年の夏。毎年毎年暑さが増している中で、ほとんどずっとつけっぱなしのエアコン。今年の夏はなんとか乗り越えたとしても、来年無事だとは限らない!ってことで、今やインフラと化したエアコンの賢い買い替え術を指南してもらいました!
「観測史上最も暑い夏」となった今年の日本。9月に入っても各地で猛暑日が記録されるなど、依然として厳しい残暑が続いている。灼熱の中、今や生死に関わる必需品ともいえるのがエアコンだ。
一日中フル稼働を強いられ続けたエアコンが猛暑の真っただ中に故障......という悲劇に見舞われるケースも増えているという。
「よく『エアコンって夏になると壊れるよねぇ......』という声を耳にするのですが、それって当然で、快適な気候の春や秋と違い、エアコンをハードに使う夏に故障のリスクは高まります」
そう語るのは、YouTubeでエアコンにまつわるさまざまなお役立ち情報を発信する「アキ兄(に)ィ」こと堤昭人さん。20代の頃、大手エアコンメーカーのサービス担当者として皇居・吹上御所のエアコン管理を担当していたという空調設備のプロだ。
「もちろん、暑さが厳しければ厳しいほど、エアコンにかかる負担も大きくなりますから、昨年や今年のような猛暑ともなれば、必然的に故障のリスクも高くなります。
ちなみに、オフィスや事業所など『家庭用以外』のエアコンに関しては、昨年のほうが故障や入れ替えが多かった。これはコロナ禍の数年間、稼働率がかなり下がったことで"延命"されていたエアコンに、昨年の猛暑で一気に負荷がかかって壊れたというケースが多かったからです。
逆に、リモートワークが普及し自宅で働く人が増えた分、コロナ禍の間も家庭用エアコンへの負荷は増えていましたし、今年もこの記録的な猛暑ですから、ある程度、使用年数がたった機種を中心に『エアコンが急に壊れた』とか『効きが悪くなった』といった話は多いですね。
多くの人たちはエアコンが壊れてから慌てるのですが、夏場のピークシーズンにエアコンが壊れてしまい、仕方なく買い替えるというのは、正直、最も損なパターンだと思います」
それはなぜ?
「まず、お盆はメーカーのサービス部署が休んでいる場合があります。メーカーのサービス部署が休みだと修理業者が部品の有無などを確認できないので、修理が可能かどうかすら休み明けまで判断できないこともある。
そして、買い替えしなきゃとなった場合、この猛暑の中でエアコンのない生活はほぼ不可能ですから、一刻も早く手に入れる必要がある。そうなると、家電量販店で買おうが、ネット通販で買おうが、機種選定でも販売価格でも、すべてが売り手主導になってしまいます。
もうひとつ、見落とされがちなのが、エアコンの取り付け作業に関する部分です。
実は量販店やネット通販から回ってくる取り付け工事の人件費は安く、1台取り付けても数千円から1万円程度しか支払われないのが一般的です。そのため、腕のいい職人さんは量販店やネット通販の仕事はやりたがらないんです。
一方、いろいろと経費もかかる中で、1件6000~7000円の安い取り付け工賃で業者が売り上げを出そうと思うと、1日に5、6台は取り付け工事を請け負わなくちゃいけない。
でも、仮に1台の取り付け作業時間を2時間とすると、単純計算で10~12時間になりますよね。移動なども考えると朝9時から作業を始めて、夜9時まで働き続けても終わりません。
そうなると、最悪、一部の作業をはしょるなど取り付け工事の質に影響が出てしまう可能性もあるわけで、それが後々、エアコンの故障につながるリスクもあるのです」
とはいっても、まだちゃんと動いているエアコンを新品に買い替えるのは、かなり思い切った決断だ。買い替えを考えるべきタイミングはいつがいいのだろうか?
「基本的には使用年数で判断していただくといいと思います。家庭用のエアコンはたいてい『基本耐用年数10年』と書いてあって、まずこれがひとつの目安です。10年とはいわなくても、12、13年過ぎると故障のリスクが高まるイエローゾーンですから、買い替えを検討したほうがいいでしょう。
その先、15年を超えると、修理をしようにも部品がない可能性が高いレッドゾーンに入るので、そうなる前に買い替えることをオススメします」
でも、15年以上前に買ったエアコンがまだ元気にガンガン冷やしているお宅なんて山ほどあるのでは!?
「もちろんこれはあくまでも目安であって、世の中には20年たっても壊れずに動いているエアコンもあります。12年、あるいは15年たったら必ず壊れるというワケではありません。
でも、真夏に故障するという最悪の事態を避けて、快適なエアコン生活を送ろうと思うなら、12年ごとに新しい機種に更新するほうが、結果的におトクだと思います」
では、エアコンを買い替えるとして、最もおトクな買い替え時はいつなのか? そして、どんな機種を選ぶべきなのか?
「買い替えでオススメなのは10月と3月です。ただし10月と3月ではちょっと意味合いが違います。
まず10月ですが、例年、各メーカーが翌年モデルの上位機種を発表するのが12月頃なので、メーカーや量販店はそれより前にその年のモデルの上位機種の在庫を売っておきたいんですね。
そのため、夏のピークシーズンが終わった10月に入ると各メーカーの高機能な上位機種が大幅に値下げされて販売されるケースが多く、販売員さんもあの手この手で『高額な上位モデルがおトクな価格で手に入るチャンス』とアピールしてきます。
でも、そこで気をつけたいのが『高機能な上位機種を選ばない』のが賢いエアコン選びの基本だということ。
最近の上位機種には加湿や換気、フィルター自動清掃などさまざまな機能がついていますが、それによって便利なこともあれば、逆に不便なこともある。例えば、複雑な機能がついている分、部品点数も多いので、修理費が高額になることも。そのため、本来の冷房機能のみに着目するほうが、シンプルで良いと思います。
特にフィルターの自動清掃機能は一見、便利に見えますが、結局、別のボックスにたまったゴミを捨てなきゃいけないものが多い上に、業者にエアコンのクリーニングを頼むときに割高になりますからオススメできません。
ですから10月にエアコンを買い替えるなら、販売員が薦めるおトク感満載の高級な上位機種ではなく、そのシーズンの在庫の中から、シンプルなベースグレードのモデルを選ぶのが正解です。
一方、毎年3月は、各メーカーがベースグレードの新製品を発売する時期なので、前年モデルの在庫と発売されたばかりの新型がベースグレードでせめぎ合うので安く手に入ります。それ以外だと量販店の決算時期も狙い目です」
では、同じベースグレードなら、どのメーカーを選べばいいのか? 電気代が高騰する今、省エネ性能の違いとかも気になるけど......。
「まず、消費電力(省エネ性能)ですが、エアコン全体の省エネ性能はここ数年で大きく向上しているので、10年以上前のエアコンを使っている人なら新しいエアコンに買い替えるだけで確実に電気代は安くなるはずです。
その上で、最新モデルに関してはカタログ値を見る限り、メーカー間で大きな違いはありませんし、ベースグレードと上位機種で少しぐらい差があったとしても、本体価格の差額を考えれば無視していいレベルでしょう。
それよりもエアコンの室外機や本体の設置環境に気を配ったり、エアコンをこまめに清掃することのほうが、性能や電気代への影響が大きいと思います」
そうはいっても、ベースグレードならどのメーカーも同じってワケではないでしょ?
「メーカーに関しては、ダイキンと三菱がオススメです。三菱は全モデルが国内生産、ダイキンも最も下位のグレード以外は国内生産で基本的な信頼性が高いですし、特に三菱はセンサー機能が高い評価を受けています。
もうひとつ、この2メーカーで注目したいのが、いずれも販売後のサービス体制が充実していること。最近はお盆休みでコールセンターまで閉めちゃうメーカーもある中で、ダイキンのサービス部門は24時間365日対応ですし、三菱もサービス部門がしっかりしています。
もちろん、機械は故障しないのが一番ですが、万が一故障したときにしっかりとしたサービスを受けられるという点で見てもダイキンと三菱は安心感が高いと思います」
地球温暖化はきっと止まらないし、来年の夏もどうせ暑くなる。酷暑が襲った昨年と今年を今のエアコンで乗り越えられたという人も、真夏に壊れて後悔しないように、今から備えておいたほうがいいかも!
ジャーナリスト/ライター。1965年生まれ、神奈川県横浜市出身。自動車レース専門誌の編集者を経て、モータースポーツ・ジャーナリストとして活動の後、2012年からフリーの雑誌記者に転身。雑誌『週刊プレイボーイ』などを中心に国際政治、社会、経済、サイエンスから医療まで、幅広いテーマで取材・執筆活動を続け、新書の企画・構成なども手掛ける。著書に『さらば、ホンダF1 最強軍団はなぜ自壊したのか?』(2009年、集英社)がある。