『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、世界規模の経済格差を加速させるアメリカの税制について語る。
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世界の超富裕層とその他の人々の経済格差は、想像を絶する規模だ――国際NGOのオックスファムが、そんな報告書を発表しました。
10億ドル以上の資産家は過去10年間で倍増し、世界の最富裕層2153人が持つ財産は、最貧困層46億人(世界人口の60%超)の全財産よりも多い。また、最も裕福な1%の人たちは、その他の69億人が持つ富の2倍以上を保有しているそうです。
この極めていびつな格差の大きな要因は、「税率の引き下げ」と、「超富裕層や巨大企業の税逃れによる徴税の破綻」であると報告書は指摘しています。
富裕層や大企業が儲かれば、その富が中産階級以下の人々にも滴り落ちてくる――そんな「トリクルダウン効果」に期待し、各国政府は富裕層・大企業への税負担を軽くしてきました。その代表格が、1980年代からグローバリズムを牽引(けんいん)してきたアメリカです。
2018年にアメリカで最も裕福な400世帯に課せられた税率の平均は、総収入のたった23%。いわゆるスーパーリッチであっても、4分の1未満しか取られていません。もちろん金額は多いですが、負担率ベースでいえば、ほかのあらゆる層(最貧困層を含む)よりスーパーリッチは税負担が少ないことになります。
第2次世界大戦後の米政治の歴史は、すなわち減税の歴史です。1950年には最も裕福な400世帯は税率70%を負担しており、60年代までは富裕層や中産階級が貧困層よりはるかに高い税率を負担していました。
しかし、独立独歩をよしとするアメリカ人の基本的思想、さらには社会主義(旧ソ連陣営)との戦いで資本主義をより加速させたという時代背景もあり、富裕層を中心に租税回避の傾向は年々強まっていきます。
以来、多くの政権が富裕層減税をしてきましたが、その極めつきがトランプ政権です。2017年の大減税で、前述したようにトップ400世帯の負担税率は、ついにほかのすべての層を下回った。
トランプの"金持ち減税"の発想はレーガノミクスを受け継いでいて、株価だけを見れば米経済は好調そのものですが、その富はスーパーリッチが独占し、中産階級以下にほとんど降りてきていないのが現状です。
世界規模で起きている経済格差をどの国よりも如実に体現し、かつ加速させているのが、グローバリズムの生みの親でもあるアメリカであるともいえるでしょう。
シンプルな解決策は、アメリカのいびつな税制を改善して累進課税を強化することですが、それは日本人が考えるよりはるかに難しい。どんな中身であろうと、「増税」を口にした大統領候補はまず選挙に勝てません。
それよりも、とにかく「減税」。自分たちにもほんの少しの分け前さえあれば(パンくずのような恩恵であっても)、多くの有権者は大金持ちへの優遇を気にしないのです。
世界一の経済大国なのに、道路はボコボコ。公立校の教科書もボロボロの使い回しで、給食もひどい。そんな状況でも、税金をたくさん払うよりはマシというのが多くのアメリカ人のメンタリティです。
これが国内だけの問題ならまだしも、実際はグローバリズムで世界中に波及し、多くの人々を不幸にしてしまっている。なぜ、アメリカ人はそこまで税金を嫌悪するのか? 次回はその点を掘り下げたいと思います。
●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!