『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、アメリカで相次ぐ銃乱射事件の背景について語る。

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中華圏で重視される旧正月(春節)の時期に、米カリフォルニア州で銃乱射事件が相次ぎました。11人が死亡したロサンゼルス郊外の事件と、7人が死亡、ひとりが重体となったハーフムーンベイの事件の共通項は、70歳前後のアジア系男性の単独犯である点です。

本稿締め切り時点ではそれぞれの動機はまだ未解明の部分が多いですが、思い起こされるのは昨年5月に同州で起きた、台湾系アメリカ人デビッド・チョウ(当時68歳)が台湾独立を支持する教会の集会で銃を乱射しひとりが死亡、5人が負傷した事件です。

チョウの凶行をひと言で要約するなら「台湾独立を願う台湾系住民に対するヘイトクライム」ですが、実際の背景は極めて複雑です。

台湾では戦前から居住する人々が「本省人(ほんしょうじん)」、蒋介石の国民党政権と共に大陸から渡ってきた人々は「外省人」と呼ばれます。外省人は国民党独裁時代には台湾社会の中枢を担うなど優遇されましたが、独裁終結後は「大陸にルーツを持つ少数派」という微妙な立ち位置にあります。

在米台湾人コミュニティでも両者の間には溝があり、特に中国との関係(統一や独立)の考え方を巡っては激しい分断の時代もあったそうです。このように本国での対立構図が引き継がれるのは世界中の多くの移民コミュニティで起きてきたことですが、それでも移民2世、3世と時代を経るにつれ対立は薄れていく。しかし一方で、高齢となった移民1世が意識をアップデートできずに「こじらせる」ケースもあります。

事件後の報道によれば、チョウは外省人の家庭で育てられたものの、渡米後はかなり苦労し、妻にも先立たれ、金銭的な問題と孤独を抱えていました。台湾独立を理想として結束する同胞(おそらくは本省人中心)のコミュニティにもなじめなかったのかもしれません。チョウはやがて筋金入りの中台統一派となり、銃乱射という最悪のヘイトクライムに走り、事件直後には「私は中国人だ!」と叫んだといいます。

米社会、特に西海岸や東海岸の都市部ではさまざまなルーツの人々が暮らしていますが、それでも移民が生きていくのは決して楽なことではありません。

日米を往復しながら教育を受けていた私自身、ハーバード大学時代はアカデミックな要求のハードルの高さ、そして日本と隔絶された環境で孤立感に苛まれました。東大生の合コンなどのように、他大学の女子大生が自分をほめてくれる場面もなく、日本にいれば同質な仲間と共有できる"ものがたり"も、多民族、他宗教、多文化の中で消失。「日本が遠のき、根なし草になってしまう」と絶えず焦っていたようにも思います。

どの答えも「部分的な正解」でしかなく、権威を疑うのが当たり前という大学の日常で、議論に勝つための切り札として「日本人のたぐいまれな民族性」や「武士道の精神」を口にすることもしばしばありましたが、効果はほぼゼロ。論文に書こうものなら、あざけりと共に減点されまくり。

日本文化の特異性や優位性を「立証」できる根拠として自分なりの「禅」を体現する必要があるとの思いから、白魔術などの神秘主義にも傾倒しましたし、今思い返すとかなり恥ずかしい言動もありました。

しかし、それでも米国社会に「平均的な日系人」として溶け込み、「白人のちょっと下」に位置する二流の存在感に甘んじるのだけはイヤでした。そこで不器用ながら、あえて米国社会の辺境に立とうと頑張り続ける過程で徐々に「自分は何者か」という視点も獲得できました。

ただ、残酷な言い方をすると私は日米の高所得・知識人階級の両親の国際結婚で生まれ、やる気さえ出せば生活や進む道も保証される身分でした。海外から単純労働者として渡米し、英語もままならず上昇するための資格も獲得できないまま高齢化する移民が増え続けるアメリカでは、過酷な経済格差、希望格差の中で自分の居場所を完全に喪失する人が大勢いるのです。

社会で孤立したり、コミュニティからはしごを外された(ように感じた)りした人間が、何かにすがっていく過程には普遍性があるように思います。しかも現代のグローバリズムは社会の同質性を破壊し、格差を拡大していく。そこで新たな絆(きずな)を求める人に手を差し伸べるのが、カルトや陰謀論です。

先日、都内で見かけた反ワクチン団体のデモ隊のほとんどが高齢の方々だったのも、個人的には非常に腹落ちする部分がありました。人間は自分自身の中によって立つものを確立しておかないと、簡単に"闇堕(お)ち"する。そのことは誰もが肝に銘じておくべきでしょう。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)ほかメディア出演多数。富山県氷見市「きときと魚大使」を務める

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