モーリー・ロバートソン「挑発的ニッポン革命計画」 『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、アメリカの大学入学選考において人種間の人数バランスを考慮するアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)の是非をめぐる論争の背景を解説する。

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アメリカ連邦最高裁が、ハーバード大学などの入学選考におけるアファーマティブ・アクションが憲法違反であるとの判断を示しました。

〝バランス調整〟の結果として黒人やヒスパニックの合格率が上がり、逆にアジア系の合格率が下がっているのは大学側による「差別」であるという原告(アジア系アメリカ人の学生団体)の主張が認められた形です。

ただし、その背景にはアジア系の不満をテコにアファーマティブ・アクション撤廃論を盛り上げたい白人右派の思惑や、保守派が多数となった最高裁判事の政治的バランスの問題など、複雑な要素が絡み合っています。

アファーマティブ・アクションは、(実際はどうあれ)単一民族意識、総中流意識が強い日本社会の「平等観」とはまったく出発点が違います。

差別に長年苦しんできた黒人やヒスパニックなどマイノリティが機会(チャンス)を得られるよう1960年代に導入された制度で、1978年の最高裁判決では合憲とされ、バラク・オバマ元大統領やカマラ・ハリス副大統領に象徴されるように、黒人の社会進出は確かに進みました。

今や黒人も立身出世が可能だ、「下駄を履かせる」必要はない――アファーマティブ・アクション反対派はそう主張します。本当に公平な社会が実現すれば制度が不要になるのはそのとおりですが、問題は「果たして、それが〝今〟なのか?」という点でしょう。

黒人女性初のハーバード大学長クローディン・ゲイ氏は判決を受け、「決定には従うが、それが私たちの価値観を変えるわけではない」と、大学における多様性の重要さを強調しています。

原告団のような「なぜ黒人だけを特別視するのか」「アジア人もマイノリティだ」という意見にも触れておきましょう。

多くのアジア系移民1世は、英語も上手に話せないまま下働きをしながら子や孫に猛烈な教育を施し、数世代にわたる努力で成功を勝ち取ってきた。だから黒人も頑張ればいい――社会で一定の差別を受けながらも成功を収めた当事者の心境としてはよくわかります。

......ただ、アジア人と白人のハーフとして米社会の現実を体感した身として、あえて言わせてもらうなら、やはり黒人差別とアジア人差別とでは〝初期設定〟が違いすぎます。

アフリカ系アメリカ人の祖先は、奴隷として本人の意思に関係なく連れてこられ、文化もアイデンティティも奪われた。そこから長く続いた奴隷制はアメリカ最大の業(カルマ)で、半世紀程度の優遇措置でその負の影響が完全に清算できるはずもなく、今も人種差別とそれに伴う格差が明らかに存在します。

同じ「白人から差別を受けている」側であっても、アジア系が努力の直線上に描ける成功のイメージを、多くの黒人たちはなぞることすらできないのが現状でしょう。一部の成功者の例を挙げて、そのことを見過ごすのはフェアではありません。

「努力が報われるかどうか、努力の入り口にたどり着く道が見つかるかどうか」のハードルの高さが生まれながらに違う環境で、「どうしてあなたは頑張れないのか」と弱者を問い詰めることは、一種の暴力にもなります(日本では女性に対してその目線が注がれがちです)。

それでも10代後半時点のテストの点数だけで人の将来の可能性を判定することが、本当に公平なのか。アファーマティブ・アクションの議論は、それを突きつけているのだと思います。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。ニュース解説、コメンテーターなどでのメディア出演多数

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