モーリー・ロバートソン「挑発的ニッポン革命計画」 『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、リスクを負って国を「脱出」する人々の存在が示唆する中国の危うさを考察する。

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1月13日に行なわれた台湾総統選挙で親米・反中を基本路線とする民進党の頼清徳氏が勝利したことは、中国にとっては望まぬ結果でした。

共産党一党独裁の正統性の維持、および地政学的な重要性から「統一」を実現したい習近平政権が今後、軍事的な圧力を高める可能性も指摘されていますが、その背景には脆弱性を抱えたまま肥大化した経済構造や、社会不安につながりかねない若者の失業率の高さなど、中国の深刻な国内問題があります。

あまりにも強硬なゼロコロナ政策がトリガーとなり、中国の富裕層や知識層が国外へ資産を移したり、移住したりする動きが強まったことはよく知られています。

その流れは今も続いており、民間企業への規制や言論統制に対する不満・不安、不動産バブル崩壊に伴う経済の悪化など原因は複数あるといわれますが、要は中国で(少なくともある程度)成功した経験がありながらも「未来がない」と感じる人が増えているわけです。いびつな経済構造の勝ち組は、民主化を求める若者たちの蜂起など政治的な変動が起きたとき、その地位を奪われかねないと恐れたケースもあるかもしれません。

米国境警備当局の統計によると、2023年にメキシコからアメリカへ入国する際に拘束された中国人は2万4000人以上で、過去10年間の合計を超えたといいます。まずはビザを必要としない南米のエクアドルに入り、中南米の国々を陸路や海路で北上しながらアメリカへ亡命するルートの情報が、SNSを通じて中国人の間で急速に広まっているとの報道もありました。

このような人々は、正規のルートでアメリカのビザを取得できる見込みがなく、それでも大きなリスクを負って亡命しようとしている。国家レベルで対立を深めているアメリカに救いを求めて"脱出"する自国民の増加は、習近平政権からすると相当に由々しき問題のはずです。

中国の繁栄モデルがサステナブルではないことが明らかになり、経済成長=豊かさとのトレードオフで抑えられていた不満が噴出して体制が危機に瀕することを、習近平政権が何よりも恐れていることは間違いないでしょう。それを防ぐことに躍起になり、「もうやるしかない」ところまで追い込まれて台湾侵攻がファーストオプションになってしまう――こうした見立てには一定の説得力があると私は考えています。

一方で、中国の"内からの変革"を望むなら、日本の自由で淫靡で、(中国共産党的価値観で言えば)無意味だけれど享楽的で、人々の心をつかむソフトパワーが今こそ大きな力になるという仮説も成り立ちます。

当局がいくら情報を統制しても、中国の若者にはインターネットを通じてさまざまな情報や価値観が流入しています。言い換えれば、北京の天安門広場に大学生が集結した時代とは違い、今は都市部を中心にうっすらと自由を重視する価値観(いわば"天安門的価値観")が広がっている。この状況で、インバウンドやSNSを介して「外の視点」がプラセンタ注射のように注入されれば、効果は以前よりはるかに大きいはずです。

ニクソン米大統領の電撃訪中から半世紀以上がたっても、諸外国の希望的観測とは裏腹に中国の民主化は進みません。しかし日本のソフトパワーは、もしかするとその重要な一助となるかもしれません。

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