モーリー・ロバートソンMorley Robertson
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。ニュース解説、コメンテーターなどでのメディア出演多数。最新刊は『日本、ヤバい。「いいね」と「コスパ」を捨てる新しい生き方のススメ』(文藝春秋)
『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、長年しみついた日本社会の"現実逃避体質"の問題点を指摘する。
* * *
NIMBY(=Not In My Backyard:うちの裏庭には置かないでくれ)という言葉は、放射性廃棄物処分場の立地を巡る問題などで日本でも使われるようになりました。狭義では物理的な施設などを指すことが多い言葉ですが、もう少し広げて考えてみると、日本という国は戦後、相当広い分野の問題をNIMBY的な思考で遠ざけてきた、あるいは直視することを避けてきたように思います。
そして、そういったメンタリティの形成に影響したことのひとつは、おそらく日本国憲法の成り立ちだったのではないでしょうか。
今の日米関係からはなかなか想像しづらいことですが、当時のGHQが草案を作成した日本国憲法は、アメリカ側の視点から言えば「日本が再び暴発する、あるいは赤化することを防ぐ」目的があったはずです。また、これほど長く、一字一句変わらずに残り続けるものだという認識もおそらくなかったでしょう。
今やアメリカにとっても日米同盟が極めて重要であることは間違いありませんが、本質的にこの同盟は、アメリカが兵隊の命を含む軍事力を提供し、その代わり日本は中国などとの戦争が起きた際に「自国が戦場になる」という負担を提供するものです。これは「だから破棄すべきだ」とも「いや、未来永劫不変であるべきだ」とも簡単にはいえない、複雑な要素を含んだもののはずです。
しかしながら、日本のマジョリティはそのことを深く考えないまま受け入れ、その代わり経済成長にフルコミットすることで、現在の豊かさを手に入れました。視点を変えていうなら、日本は自らの意思で「唯一の戦争放棄国」となったわけでもなければ、「超大国アメリカの重要なパートナー」となったわけでもない。
あえて言えば「よく考えずに現状維持を選び続けてきた」のではないでしょうか。そこには極端な右派や左派の非現実的な主張はあっても、リアルな議論はありませんでした。
自ら打ち立てたナショナル・アイデンティティなき国、しかし戦後40年、50年あたりまではほぼすべてがうまくいっているように見えた稀有な国。その日本は今、安定が消え去りつつある現代に適応できずにいるように見えます。
多くの課題があり、解決する必要があることにも気づいていながら(あるいはそれを"お上"には求めながら)、自身は犠牲を払ってそれにコミットしたくはないし、誰かの犠牲を伴う解決方法を踏み込んで議論したくもない――そんなNIMBY的なセンチメントが広く共有されてしまっているようです。
このコラムでも何度も繰り返してきましたが、すでに現実逃避のツケは若い世代に回され始めています。にもかかわらず、若い世代がおとなしいのも気になります。既定のメニューにまともな料理がないのなら、自分でやるしかないはずなのですが。
個人的な見解としては、人口比では勝てない若い世代が大人たちと戦うためには、多くの人が英語を徹底的に学び、世界に出て異文化を直接経験する必要があるのではないかと考えます。グローバルレベルの肌感覚と理論武装を備え、世界情勢や時代にキャッチアップできない、もしくはしようとしない大人たちを脇に追いやる、退場させる―そんな気合いの入った人たちが出てきたら、私は全力で応援します。その新しい時代には私自身も退場させられるかもしれませんが。
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。ニュース解説、コメンテーターなどでのメディア出演多数。最新刊は『日本、ヤバい。「いいね」と「コスパ」を捨てる新しい生き方のススメ』(文藝春秋)