モーリー・ロバートソン「挑発的ニッポン革命計画」 『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、大接戦が続く米大統領選挙でトランプがさらなる支持拡大を狙っている「南部アメリカ」について解説する。

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大統領選の接戦ぶりが伝えられる際に、民主党、共和党それぞれが優勢な州が塗り分けられた地図を見た人も多いのではないでしょうか。極めてざっくり言うと、東西の海岸地域は民主党、中部は共和党。あるいは北部が民主党、南部が共和党寄りという傾向があります。

その中で今回取り上げたいのが、キリスト教福音派の存在感が強く、トランプの牙城となってきた南部地域を巡る状況です。19世紀に起きたアメリカ最大の内戦である南北戦争で、黒人奴隷の存在を社会の基盤とする南部は、工業化で急速に発展した北部に敗れ、奴隷制禁止の波が全米へ広がりました。

連邦政府は、いずれ南部が豊かになれば、「地位が低下した」白人たちの屈辱感や怒りは解消され、融和的になっていくと信じていたでしょう。しかし実際には、その後も南部の白人層は、移民や女性など新しいプレイヤーの社会進出とそれに伴う変化を「居場所が奪われる危機」ととらえ、キリスト教の宗教観を背景に「誇りを保ちたい」と保守性を強めていきました。

そこに初めて本格的に目をつけ、支持をつかんだのが1970年代の共和党・ニクソン政権であり、その「南部戦略」を引き継いだ80年代のレーガン政権です。

全体として見れば、米社会は漸次的にリベラル化・多様化し続けています。総人口における白人の割合も年々低下し、保守的な価値観は「現実の中心」から離れていくばかりです。

だからこそ南部の白人保守層は、自分たちの思い(例えば人工妊娠中絶の禁止)を部分的にでも実現してくれた人物、あるいはそれを期待させてくれる人物なら、たとえ差別的なデマゴーグであっても支持するのだと思います。そうでないと、社会の現実が自分たちの理想からますますかけ離れていってしまうという危機感もあるでしょう。

欧州各国における極右政党の台頭にも、それぞれの国で「自分たちの価値観」が相対的に弱くなったことに屈辱や不安を感じる人々と、その感情をたきつけるポピュリストの共鳴という構造があるように思います。しかも近年ではSNS、特にTikTokが超国家的な戦略・支持共有ツールとして各国の極右勢力を連結させ、そこに数字を稼ぎたいだけのインフルエンサーもなだれ込み、陰謀論やデマも含めた扇動がより危険な方向に向かっています。

アテンションを集めること自体が目的化された巨大プラットフォームに、エディトリアル(編集・検証)のなされていない情報が氾濫し、本来バランスを取るべきマスメディアも「ネットでの文脈やウケを意識する」ことでその波にのみ込まれ、情報空間全体が「ネット本位体制」となりつつある。どんどん巨大化する"欲望の渦"に、皆が突入していっているようなイメージです。

「アルゴリズムやインフルエンサーの存在は悪である」などと単純に断じたいわけではありません。なぜわれわれの社会がそういうものにひどく影響されてしまうのか、それを真剣に問い続けるべきだと思うのです。

一部の人々に屈辱感が鬱積しているから? 心の奥底に何かしらの負い目を抱えているから? 

――いきなり原因を突き止める前に、まずは冷静に検証する態度を広げていく必要があるかもしれません。

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