『男が痴漢になる理由』の著者、斉藤章佳(あきよし)氏は12年前から大森榎本クリニック(東京・大田区)で痴漢、強姦、小児性犯罪、盗撮・のぞき、露出、下着窃盗など1100人を超える性犯罪加害者と向き合い、国内でも先駆的な再犯防止のための治療プログラムを行なっている。
前回記事で取り上げた痴漢の実像に迫る話は「男なら誰もが潜在的な痴漢予備軍」という驚きの内容で反響を呼んだが、今回は斉藤氏が「性犯罪者の中で最も治療が困難」という小児性犯罪について伺った。
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「大人になったらいずれ経験することだから、僕が教えてあげる」
そうして声を上げられない子どもに迫り、身勝手な自分の欲望のまま、性暴力に走る――。
成人男性による幼い子どもに対する性暴行や拉致・監禁など凄惨な事件は後を絶たないが、「もし自分の子どもが被害にあったら…」と想像すると、崩れ落ちるような絶望感と、加害者への煮えたぎるような怒りでまともな精神状態ではいられないはずだ。
だが、斉藤氏は「女児だけでなく、男児も被害に遭うことがある。小児性犯罪の危険性は決して他人事ではなく、いつどこで起きるかわからないということを忘れてはいけません」と警鐘を鳴らす。そうであるなら、小さな子どもを抱える親にとっては、小児性犯罪の実態を知ることが我が子を守る第一歩となる。
まず、その定義について斉藤氏がこう説明する。
「アメリカ精神医学界が発行している『精神疾患の分類と診断の手引き』では、小児性愛障害として、『A.少なくとも6カ月にわたり、思春期前の子ども、または複数の子ども(通常13歳以下)との性行為に関する性的に興奮する強烈な空想や性的衝動、または行動が反復する。B.これらの性的衝動を実行に移したことがある、またはその性的衝動や空想のために著しい苦痛、または対人関係上の困難を引き起こしている。C.その人は少なくとも16歳で、基準Aに該当する子どもより少なくとも5歳は年長である』と定義されています」
では、国内で小児性犯罪がどれくらい起きているのだろうか。
「小児性犯罪の行為の形態が多岐にわたるため実数は明らかにされていませんが、声を上げられない子どもだからこそ、この種の犯罪は表面化しづらいんです。痴漢の件数は潜在的なものも含めれば年間10万件以上起きていると推測しますが、小児性犯罪は恐らく同等か、それ以上の件数になると見ています」
犯行目的は「子どもへの性教育」
性依存症の治療を受けにクリニックへ来院する性犯罪者は昨年までで延べ1116人になるそうだが、「小児性犯罪の加害者は5%程度」という。驚いたのが、「そのうちの6~7割が保育士や学校教員、医師など、なんらかの形で子どもと関わる職業に就いている」という点だ。
通常は収入面ややりがい、自分の性格にあった職など優先順位を決めて職業を選ぶというのが一般的だが、小児性犯罪者はそうではない。彼らの中で最優先されるのは「とにかくなんらかの形で子どもと関われる仕事」なのだとか。
「性犯罪者の多くには“認知の歪(ゆが)み”があります。痴漢なら『女性専用車両に乗っていない女性は痴漢されたがっている』『触っても声を上げないということは、痴漢をしても良いというOKサインなのでは』と、根拠もないのに自分の考えが正しい、常識だと思い込んでいる人が多い。その性犯罪者の中でも小児性犯罪者の認知の歪みはとりわけ深刻です」
彼らはいかに、子どもに性暴力を奮うという犯罪行為を正当化しているのだろうか。
「まず加害者に面談をすると、彼らの多くは『自分はただ子どもが好きなだけ』と言います。小児への異常な性的関心を“純粋な愛情”と思い込んでいるケースも多い。罪悪感は希薄で『どうせ大人になったら経験することだから、早めに僕が教えてあげただけ』『教育的な指導の一環として接している(教員の加害者によくある認知の歪み)』などと真顔で答える加害者も少なくありません。
彼らの多くは間違ったことをやっているという感覚がほとんどなく、『自分は正しいことをやっている』『指導している立場だ』という前提で性的接触を繰り返す。子どもだってイヤがっていないし、むしろ“望んでいる”と彼らの目には映るわけです。その思考は他の性犯罪とは異なる小児性犯罪者特有の認知の歪みといえます。だからこそ行動変容が困難で再犯率も高く、治療が難しいのです」
罪悪感をさほど感じることもなく、「むしろ、子どもに“性教育”をやっているだけ」という歪んだ考えで犯罪行為を正当化する加害者たち。皮肉なことに、本来なら生徒を教え導く存在であるはずの教師でさえも犯罪に手を染めることがある…。
★続編⇒「純粋に子どもが好きなだけ」という小児性犯罪者の“飼育欲”ーー成人女性への劣等感が原体験?
(取材・文/青山ゆか)