2013年にオープンした佐賀県・武雄市の“ツタヤ図書館”。19年秋には和歌山市での開館も決定したが… 2013年にオープンした佐賀県・武雄市の“ツタヤ図書館”。19年秋には和歌山市での開館も決定したが…

「まるでゴミ処理場の建設みたい」

ある自治体関係者が漏らしたひと言に、この問題のおかしさが集約されている。

和歌山県の県都・和歌山市が、2019年秋に開館が予定されている新しい市民図書館の指定管理者にレンタル大手CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)を選定し、12月15日の市議会で正式に承認された。

全国にTSUTAYAを展開する同社が運営する通称・ツタヤ図書館は、2013年に佐賀県武雄市にオープンしたのを皮切りに、今年2月に開館した岡山県高梁(たかはし)市までに全国で4館が開館。来年には、山口県周南市と宮崎県延岡市(本の貸出はしないブックカフェ)でも開館が予定されている。

開放感ある吹き抜けの空間に、カフェや書店を併設した施設として話題を呼び、街の活性化にも繋がると、当初は“地方創生のお手本”だと称賛されたツタヤ図書館。

ところが、2015年8月、武雄市で『Windows98/95に強くなる』や浦和レッズ関連本、『埼玉ラーメンマップ』など、武雄市民にとっては極端に価値の低い古本を大量に購入していたことが発覚(過去記事参照)。同年に開館した海老名市(神奈川県)のツタヤ図書館でも、単なるメガネ拭きでしかないメガネクロスや、ゴーゴーバー(連れ出しパブ)、ファッションマッサージ店を掲載した『大人のバンコク極楽ガイド』などを購入していたことが問題視された(前回記事参照)。

以来、称賛の嵐から一転、CCCのお粗末な図書館運営に批判が集中。誘致自治体では、指定取消や前市長への賠償請求を求める住民訴訟も相次いだ。

そんなツタヤ図書館が、ついに人口36万人を擁する県庁所在地に進出したとあって、さぞや侃々諤々(けんけんがくがく)の議論が巻き起こったに違いないと思いきや、地元では話題にすらなっていない。それもそのはず、市議会ではまともな議論がほとんどなされていないのだ。

同市のこれまでの市民図書館建設までの動きをまとめると、15年5月に南海電鉄・和歌山市駅への移転の方針が示された後、翌年5月に基本計画を発表。この時、直営のほか民間企業へ全面的に運営を任せる指定管理者制度の導入も視野に入れた新図書館の検討がスタート。17年6月には、指定管理者制度導入の議案が議会でアッサリ可決。あっという間に図書館の民営化が決まってしまった。

そして、指定管理者の公募が始まったのが10月18日。申込み受付期限の11月16日には、応募したのがCCCとTRC(図書館流通センター)の2社であることが判明。前々から噂にはなっていたものの、この時、初めて正式にCCCの名前が出た。

大学教授など有識者で構成された選定委員会が公開プレゼンテーションを実施し、CCCを選定したと発表したのは、その2週間後の11月30日のこと。つまり、同社を選定するまでたったの2週間しかなかったということだ。

市民に反対する暇を与えない議会戦術

プレゼンから選定結果発表までの期間は1週間しかない。同市の他部門における指定管理者募集スケジュールを見ると、これほどの短期間でスピード決定した事例は見当たらず、受託金額1500万円規模の駐車場指定管理者募集でさえ、プレゼンから発表まで1ヵ月程度をとっている。年間運営費3億円超の図書館業務をこれほどまでに“超特急”で進めるのは、あまりにも異例だ。

市議会での議決も不思議な点が多い。選定結果発表は11月30日なのに、12月1日から始まる議会の一般質問通告は前日の11月29日に締め切っている。そのためか、委員会で審査や質疑はあったものの、議会本会議での質問や討議はほとんどなし。

議会が始まって5日後の12月6日になって、ようやくCCCを新図書館の指定管理者とすることを承認する議案が追加提出され、最終日の12月15日に採決された。このスケジュールでは、地元図書館がツタヤ図書館になることに反対する市民がいたとしても、なんの抵抗もできなかっただろう。ある自治体関係者がこう驚く。

「和歌山市って、人口36万人の県庁所在地ですよね…ちょっと信じられません。先行例の多賀城市(宮城県)では、最初にCCCの名前が出てから議会で正式に議決されるまで、ひと通り議論や手続きを踏むために1年近くかかっています。それが1ヵ月未満で決めたなんて…」

こんな騙(だま)し討ちのような議会運営が許されるのか。ある市議会関係者はこう内情を明かす。

「議会の議決に関しては、別にそんな小細工する必要なんか一切ないんですよ。和歌山市議会の各会派は、共産党を除けば、反対する議員はおらず、ほとんど市長の言いなりなんですから」

市長がやりたいように決められる環境にあるというわけだが、反対する市民に騒がれないよう、こうしたスケジュールを組んだのでは?と指摘する市民もいる。

「新図書館の市民アンケートや説明会などは前々から定期的に開催はされていましたが、どこが指定管理者になるのかついては、いつも『未定なのでわからない』としか市は言ってきませんでした。民間企業に任せると『開館時間が長くなり、街の賑わい創出にも繋がる』とも言ってましたが…。そんな中で、CCCの名前が出たあとは、反対する人が騒ぐ暇も与えず、一気に決めてしまった印象です」

図書館民営化に反対する市内在住の女性は憤まんやる方ない気持ちをぶちまける。

「まさかCCCに決まるとは思ってませんでした。あれは図書館ではないですよ。ツタヤの独自分類はとんでもなく不便なもの。それを和歌山では駅ビルの2階で採用するらしいんですが、絶対に容認できないですね。

指定管理者制度の条例改正のときも、図書館をイチ民間企業が運営できるようにすると聞いたので、図書館だけはやめてほしいって議員さんや教育委員会に要望したのに、あれよあれよという間に決まってしまって。私らの意見なんか全く聞き入れられませんでした」

早すぎる決定の裏に“ツタヤ図書館反対運動”

 2017年5月に発表された和歌山市駅前ビルに建設される新図書館の基本設計には、壁面の高い位置まである書架が描かれていた。設計者は代官山蔦屋書店を手がけた「アール・アイ・エー」であったため「もしかして、ツタヤ図書館になるのでは?」と囁かれていた。基本設計図は『和歌山市駅前地区第一種市街地再開発事業施設建築物基本設計報告書』より 2017年5月に発表された和歌山市駅前ビルに建設される新図書館の基本設計には、壁面の高い位置まである書架が描かれていた。設計者は代官山蔦屋書店を手がけた「アール・アイ・エー」であったため「もしかして、ツタヤ図書館になるのでは?」と囁かれていた。基本設計図は『和歌山市駅前地区第一種市街地再開発事業施設建築物基本設計報告書』より

この女性が所属する図書館サークルでは、指定管理者選定結果発表後、ツタヤの独自分類を採用しないこと、実務経験のある司書を配置すること、適正な選書を行うことの三点について議員へ申し入れを行ったほか、有志のメンバーが委員会や議会を傍聴し、情報開示請求まで行っている。しかし、市議会も含めた周りの反応は、あまりにも「鈍い」という。

和歌山市“ツタヤ図書館”のオープンは、2019年秋の予定。2年近くも先のことなんだから、そんなに急がなくても年明け2月から始まる議会でじっくり議論してから承認しても十分に間に合ったはず…。なのに、なぜ急いだのか。

別の自治体関係者が指摘するのは、過去に起きた“ツタヤ図書館反対運動”の影響である。

「2015年10月、愛知県小牧市では市長が推進していたツタヤ図書館の建設計画を巡って住民投票が実施されました。結果は大差で『No!』。これによりCCC運営による新図書館計画は白紙となりましたが、和歌山市は同じテツを踏まないようにしたのでしょう」

もうひとり、別の自治体関係者も「その手法は、まるでゴミ処理場の建設計画が持ち上がった時のような住民対応です」と驚く。

来年2月開館が予定されている山口県周南市でも昨年、新図書館に関して住民投票を求める請願が出され、議会で否決はされたものの、市議会議長が市民団体のアンケートを「ゴミ箱に落とす」とブログに書いて炎上。

さらに、CCCの言葉を借りれば『本に囲まれた圧倒的な空間を演出』するためだけに、ボール紙でできた中身が空洞の“ダミー本”3万5千冊を152万円で購入したり、2千万円もの税金を投入して1万冊以上の中古の洋書を購入し、“誰も取り出せない”高さ8メートル超の高層書架に配置しようとしたり…。「重たい洋書を高層部分に並べるなんて落下したら死人が出る恐れがある。危険極まりない」とは都内の老舗洋書店の店主。周南市ではこうしたCCC主導の計画が激しく批判された。

他にも武雄市で住民訴訟が2件、海老名市でも住民訴訟が1件起きていて、CCCの図書館運営は、全国で“火だるま”といってもいいような状態が続いている。

それを教訓に、和歌山市は『CCC』という社名が出る期間をできるだけ短くして一気呵成(かせい)に決めようとしたのではないか――? そんな見方が出ても、決しておかしくない。この件について、ツタヤ図書館の誘致計画を推進した和歌山市民図書館・図書館設置準備班の宮地功班長を直撃したところ…。

CCC誘致計画を推進した担当者を直撃!

―今回、CCC社が市民図書館の指定管理者に選定され、12月15日の議会でも承認されましたが、そのスケジュールが異様にタイトなのは何か特別な事情が?

「5月の教育委員会で決まっていたことで、その予定通りにさせてもらったというのが実情でございます」

だが、例えば東京都足立区が2014年に実施した「図書館・指定管理者募集スケジュール」と比較すると、応募者によるプレゼンテーションの審査から指定管理者選定までの期間は、足立区が40日程度あるのに対し、和歌山市はたったの6日。そこから議会議決までの期間も足立区が2カ月以上とっているのに対し、和歌山市はわずか2週間程度と異様な早さが浮き彫りになる。

―他市の指定管理募集を調べてみたら、こんな大急ぎでやっている事例は見つけられなかったんですが…?

「すみません。他のところは、僕のところでは…ちょっとわからないです…」

―一般質問の締切日(11月29日)の翌日に選定発表というのも、“質問封じ”ととられかねないのでは?

「意図的にということではないんです。たまたまそうなったんですね。選定結果がこのようなタイトなスケジュールになったので(指定管理者承認に関する議会提出も)事務処理上の都合でそれしかできなかった」

と、あくまでも「事務処理上の都合でやむをえなかった」との回答に終始したが、ツタヤ図書館の先行例となった別の自治体の関係者は、こうした議会運営も含めた住民対策を「裏で事細かにCCCが指南しているのではないか」と言及する。

というのも、同社にはその“前歴”があるからだ。その点について、次回の続編では詳しく解説したい。

★続編⇒内部文書を徹底検証ーー疑惑の“ツタヤ図書館“が新たに選定された和歌山でも裏で画策…?

(取材・文/日向咲嗣)