昨年12月、和歌山市が2年後に完成する駅前の市立図書館の運営者にレンタル大手『TSUTAYA』を展開するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)を選定した。
新刊書店とカフェ併設のお洒落空間が人気の、いわゆる「ツタヤ図書館」がついに人口36万人の県庁所在地にも誕生--地元メディアはこぞってポジティブに報じたが、実はその裏では反対運動を封じ込める議会運営が行なわれ、一部の市議が議会で暗躍するなど、あからさまなCCC誘致活動が繰り広げられていた実態を前回記事「議会にCCCの営業マン? 各地で炎上する“ツタヤ図書館”」などで連続して報じてきた。
今回は、この「ツタヤありき」の“出来レース”疑惑のさらなる核心に迫っていく。
和歌山市が昨年10月に実施した市民図書館の運営者を決める指定管理者公募(受託期間は2019年10月から5年間)には、CCCの他に図書館流通センター(TRC、東京・文京区)が参加していた。TRCといえば、全国約3300の公共図書館のうち500館超の運営を自治体から受託している業界の“ガリバー”。片や、話題のツタヤ図書館を運営するレンタル・書店チェーンの“雄”。
まずは、和歌山市民図書館の運営権をかけたコンペに両陣営が提示した入札価格とその内訳について、和歌山市に情報開示請求を行なった。これが本当に出来レースだったのなら、開示資料になんらかの証拠があるはずとの思惑もあった。
昨年12月、和歌山市に開示を求めたのは市民図書館指定管理者選定に際して、両社の入札価格がわかる資料。同市の対応は思いのほか早く、12月11日の開示請求から11日後の22日に「一部開示」が決定。その1週間後には資料が送付されてきたが、その封筒の中身を見ると愕然とした。
TRCとCCCそれぞれにおいて、初年度である平成31年度のみ半期、翌年度以降、平成35年度までは年間の収支とその内訳が試算されている。
図書館は利用者から対価を徴収できないため「収入」は「指定管理料」と「コピー料金」のみ。一方、市があらかじめ決めた「施設管理費」と「図書購入費等」の固定費のみ、金額が明記されているものの、その他の「人件費」「旅費」「消耗品費」「燃料費」「印刷製本費」など積算根拠となる支出項目別の詳細は、両社ともすべてが“黒塗り”だった。
そして「収入合計」欄に記載されている指定管理料がそれぞれの「入札価格」だが、その額を見るとさらに驚いた。
『TRC vs CCC』の一騎打ちとあって、さぞやガチンコでしのぎを削りあったのか?と思いきや、両社ともに入札価格が驚くほど“無気力”なのだった…。
TRCの入札額は3億3699万6千円で、落札率(入札額/自治体設定の上限額・3億3700万円)に直すと99.998%! 一方のCCCは3億3375万円で、こちらも落札率はほぼ上限額に近い99.035%だった。
公共工事の入札実態について定期的に調査している全国市民オンブズマン連絡会議の基準では、落札率90%~95%なら「談合の疑いがある」、落札率95%以上になると「談合の疑いが極めて強い」とされている。
そんな中、2社ともに99%を超える数字。TRCに至っては、上限額よりも4千円低いだけの価格を提示。まるでお互いに安くしないことを申し合わせて、どちらかが落札することを事前に相談して決めていたかのような対応である。
複数の自治体関係者に話を聞くと、皆一様に「落札率99%なんてありえない」と驚く。実際、普通にコンペをすれば必ず起きるはずの民間事業者同士の競争は全く起きなかった。
TRCなら数千万円のコスト削減が可能だった?
今回のコンペは総合的に提案内容を競うプロポーザル提案方式なので、入札額だけで決められたわけではないが、和歌山市が募集要項に明記した5項目における配点を見ると、提案価格の配点は280満点中100点と、他のどの項目よりも高く、「ここで負けたら落選は決定的」であることは明らか。
事実、選定結果は5項目中4項目を制したCCCの圧勝だった。TRCは、まるで「私は降りますから、どうぞとってください」と言っているかのような入札価格をつけているのだ。
CCCのほうが価格競争力があっただけのことではないかと思うかもしれない。ところが、同じようなケースで真逆の出来事があったとしたらどうだろうか。2年ほど前、TRCは別の地方でCCCと密かに競合したことがあり、その時にはCCCよりもかなり安い“本気価格”を提案していたのだ。
2017年2月にツタヤ図書館がオープンした岡山県高梁(たかはし)市で2016年の3月に開催された市議会における答弁の一部がある。そこでは、市立図書館の運営者にCCCを正式に承認する議案に対して、ひとりの保守系議員が一般質問の中でかなり力の入った反対討論を展開した。
武雄市など先行例となった自治体ではCCCのずさんな運営で住民訴訟にまで発展したことなどを取り上げ、同社の指定管理者としての資質に疑義を呈した上で、今一度、ゼロから指定管理者の選定をやり直すべきと主張。その最後にこんな決めゼリフを放っている。
「それを(CCCと)同じだけのサービスをする場合には、TRCは5年間で1億2500万円安くできるという提案をもらっています」
その発言の経緯はこうだ。
岡山県出身であるTRCの谷一文子(たにいち・あやこ)会長は常々、郷里の図書館文化の育成に貢献したいという思いを抱いており、高梁市にも何度か訪れて地元関係者とも親交を温めていた。
そんな折、同市図書館の指定管理がCCCで話が進んでいる中、親交のあった市議会関係者に自社が指定管理を担った場合の指定管理料を参考試算して資料として提出。その見積データを市議が自らの一般質問の中で掲示し「TRCからCCCよりも安い見積りをもらっている」と答弁したわけだ。
高梁市の場合は、図書館の運営事業者を広く公募して選定する和歌山市方式とは違い、CCC一社との特命随意契約の方式を採っていた。従って、公募を受けての正式な提案価格ではないものの、市当局が議会直前に提出したCCCの指定管理料の詳細な内訳データを元に、それらすべての項目についてTRCが価格を試算して出したものであることが判明した。
また、スタッフの人員数については、日本図書館協会が定めた基準を満たしているものであることなどから、TRCが「CCCよりも5年間で1億2500万円安い価格で運営可能であることは、かなり信憑性が高い情報といえる」「ダンピングや答弁した市議に対する提灯価格のような印象は全く受けなかった」と複数の市議会関係者も証言している。
和歌山市の入札で完敗したはずのTRCが、2年前にはCCCよりも安い価格を提示していた。5年間で1億2500万円安くできるということは、年間2500万円の差だ。高梁市の場合、指定管理料は和歌山市の半額以下の1億6千万円であることを考慮すれば、TRCは数千万円単位でCCCよりも安くできる余力があることになる。
にも関わらず、何ゆえにTRCは和歌山市でやる気のない提案価格を出し、あっさりと敗北してしまったのか?
CCCを優遇した疑惑の採点結果!
ある図書館関係者がこう囁(ささや)く。
「和歌山市は当初、TRCを指定管理者にするつもりでいたのですが、CCCが入ってきて、和歌山市、CCC、TRCの三者の談合でCCCに落ちるように決着させたものと思えます」
和歌山市の市民図書館の指定管理者を採点した選定委員は5名。そのうち2名が市職員であるため、役所が主導して落札者を決める、いわゆる「官製談合が行われたのではないか?」というのだ。その証拠に、不審なのは落札価格だけではなかった。両社のその他の評価についても、おかしな点が次々と出てきたのだ。
今回、TRCとCCCが競合した市民図書館の指定管理者選考委員の採点結果を見ると、5人の選考委員のうち3人が10点差以下の僅差なのに対して、D氏が76点、E氏が20点と、CCCに高い点数をつけていたことが判明した(和歌山市の『市民図書館について学ぶ会』が昨年12月に情報公開請求、2月1日に開示された指定管理者選考に関する資料による)。
この結果を、図書民営化事情に詳しい図書館関係者はこう分析する。
「この採点表の評価者欄は、市が選定結果を発表しているページで紹介されている委員の順番通りだと思います。それからすると、D氏は、産業まちづくり局長で、E氏が市民図書館長でしょう。この2人で合計96点差を稼いでますから、もしその点数がなければCCCは負けていました。こんな点数差は、ふつうありえないですよ。 このままでは、計画通りにいかず自分の責任が問われると、焦ってこんなあからさまな点数を入れたのではないかと思われます」
しかも、談合の疑いが持たれる両社の競争していない無気力な入札価格について、委員全員がほぼ満点をつけているのは、誰がどうみてもヘンである。
この疑問を和歌山市の担当者にぶつけたところ、こう回答した。
「2社がお互いに競争してくれた結果、そのような価格になったととらえている」(図書館設置準備班・宮地功班長)
TRCにもコメントを求めたところ…、
「弊社としましては、長年のお客様である和歌山市民図書館様の運営をお任せいただくことを目指して精一杯の提案をさせていただきました。複数の地元の企業・団体にもご協力をいただいておりましたので、今回の結果は非常に残念に思っております。ご指摘いただきましたような噂は全く事実ではありません」
と完全否定したが、図書館業界の“ガリバー”TRCがレンタル業界から参入してきたばかりのCCCに屈服したかのようにもみえる。その深層には、一体どんな裏事情があったのだろうか――。
★第2回⇒著名教授も「だまされた!」――和歌山市・ツタヤ図書館“談合疑惑”の裏で、競合“ガリバー企業”の不可解な影
(取材・文/日向咲嗣)