和歌山市の市民図書館の運営者選定は“出来レース”疑惑が持ち上がっている。その選定方法に関する資料の公開を求めた市民グループに、市が開示したのがこの“黒塗り”資料だった… 和歌山市の市民図書館の運営者選定は“出来レース”疑惑が持ち上がっている。その選定方法に関する資料の公開を求めた市民グループに、市が開示したのがこの“黒塗り”資料だった…

2019年秋に開館することが決まった、和歌山市の“ツタヤ図書館”--。

業界最大手・TRC(図書館流通センター)と、TSUAYAを展開するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が競合の末、後者が市民図書館の運営者に選定されたが、その裏には“出来レース?”とも思える不可解な入札があったと指摘する向きもあることを前回記事では伝えた。

公共工事の入札では、自治体が設定する上限額に対する事業者側の入札額が95%超なら「談合の疑いが極めて強い」とされる中(全国市民オンブズマン連絡協議会の基準)、TRCは99.998%、CCCは99.035%と、両社とも上限額ギリギリの入札。これには複数の自治体関係者が「落札率99%なんて通常ではありえない」と驚いた。

さらに、両社の提案内容を審査した選定委員会(有識者3人、市職員2人で構成)の採点結果を見ると、4人が僅差の点数だったのに対し、残るひとりが76点も高い点をCCCに付けていたことが判明。その人物は市職員であると見られ、役所が主導して落札者を決める「官製談合が行なわれたのでは?」との疑惑が持ち上がった。

そして、この件を追及すべく和歌山市に情報公開請求したところ、開示された資料はほぼ“黒塗り”! これでは疑われて当然である。

その謎を追っていくと、和歌山市が一時期、“ダッチロール”のような動きをしていたことがわかった。全国の図書館民営化事情に詳しいある図書館関係者がこう明かす。

「和歌山市は当初、TRCを指定管理者にするつもりでいたのですが、CCCが参入し、“三者の談合”でCCCに落ちるように決着させたのではとも思えます」

ある時期までは「CCCありき」どころか「TRCありき」で事が進んでいたというのだが、取材を進めると、確かにそのような動きがあったことが一部確認された。今回の和歌山市の動きを時系列順に整理したのが以下だ。

《前半・指定管理者制度導入》 2015年 5月 市民図書館を南海和歌山市駅への移転計画発表 7月 和歌山市民図書館基本計画策定業務を担当する事業者を募集 9月 TRC系列の図書館総研と地元企業との共同企業体が受託 11月~ 地元企業2社が図書館関連の各種イベント開催 2016年 2月 有志が市民団体「みんなでつくろう未来の図書館」を発足 5月 基本計画発表 直営と民間委託、指定管理の選択肢を提示 2017年 5月 基本設計発表 設計者はCCCと関係の深いアール・アイ・エー 6月 市議会定例会に指定管理者制度導入の条例改正案を提出して成立

《後半・指定管理者選定》 2017年 8月 現図書館で市民向け説明会開催 10月18日 指定管理者公募開始 11月24日 公開プレゼン CCCとTRCが競合 11月30日 指定管理者にCCCが選定 12月15日 本会議でCCC指定管理者承認案議決 2019年秋 南海市駅直結のビル内に新図書館オープン予定

そして、地元メディアに次の見出しが踊ったのは、駅ビルへの新図書館の移転計画が発表された翌年の2016年2月のことだった。

“未来の市民図書館を考えよう 建築士ら有志が「準備室」”

和歌山市内の建築士らが市民団体「みんなでつくろう未来の図書館」(以下、みん図書)を発足させ、2019年度に完成が予定されている駅ビルへ移転・開館する市民図書館を応援する取り組みを始めたという内容だ。

図書館民営化へ“市民の声”を誘導した?

具体的には、参加者みんなで新しい図書館にどんなカフェができれば利用したくなるかなどを話し合ったり、アイデアを出し合う、まさに市民による草の根運動である。

ところが調べてみると、この「みん図書」の発足メンバーである地元の建築関係事業者は2名とも、前年11月から12月にかけて、市が新図書館建設へ向けて市民の関心を高めるために開催したイベントの主催者側だった。つまり、市から委託された基本計画策定の業務を請け負った事業者としてイベントを開催していたわけだ。

彼らは仕事として図書館計画に取り組んでいるうちに個人的にも図書館づくりへの意欲が大いに高まって、ボランティア的な運動にも取り組むようになったのだろうと解釈することもできるが…「最初から市民団体(みん図書)設立も業務の一貫」だったのでは?との疑念も湧く。実際、地元の図書館サークルで活動している人に聞いても、この団体の活動を「知らない」と言う。一体、どういうわけなのか? 『みん図書』主催のワークショップに参加した人物がこう話す。

「私が聞いていたのは、もうTRCが(図書館運営者として)入るというのは決まっている話で、どのようにTRCが図書館運営に関わるかを“市民の声”として提案するのが『みん図書』という団体。市民の声を吸い上げて図書館の運営に反映するために、意見を出す人たちを集めるような形で立ち上げられました」

まだ図書館の民営化すら本格的に議題にも上っていない段階で、新しい図書館の運営者にTRCが内定しているという話がスンナリと出てくること自体が驚きだ。

「TRCの社員もワークショップでは議事進行などを担当するファシリテーターとして入られ、図書館の専門家と一緒に市民の皆さんの意見をまとめていました」

つまり、「どんな図書館にしたいか、みんなでアイデアを出そう」と呼びかけるリーダー自らが、実は受託(予定)企業の社員だったわけで、それが事実なら、自社に都合のいい方向に結論を導くだけの“茶番劇”が繰り広げられていた可能性もある。

TRCは「議事の進行・議論の整理を行ないましたが、意見の方向性を誘導したことはありません」と釈明したが、市民主導の図書館イベントに今後、受託する可能性のある企業の社員が参加していること自体が不適切のようにも思える。

さらに、一連のワークショップのキックオフイベントで講演した大学教授が周辺に不満をぶちまけているのだという。

「先生は元々、図書館は自治体直営でやるべきとのお考えの方なので、最初、市の職員から講演を頼まれた時、『民営化の方向に導くのに利用されるのではないか』と断ったらしいんです。ところが、市の職員が『体を張ってでも図書館を守ります!』と言っていたので引き受けざるをえなかったと言っていました」(和歌山市内の図書館サークルメンバー)

市民参加型の図書館づくりを提唱していることでも著名なこの大学教授は、自らの講演が結果的には“市民が望む図書館づくりには民の力を借りるべし”と指定管理者制度導入(民営化路線)へと繋がってしまったため「騙(だま)された!」と憤慨。実際、委員を務める和歌山市の図書館協議会の場で最後まで反対意見を述べたものの全く聞き入れられなかったという。

そして、この民営化への流れを主導したのがTRCだった可能性が高い。

そもそも一連の図書館づくりのイベントが開催される直前の15年9月に、和歌山市が公募した市民図書館の基本計画策定事業者に選定されたのは、株式会社・図書館総合研究所なるシンクタンクだった。図書館に関する様々な調査・研究を行なう、図書館専門のコンサルティング会社で、知る人ぞ知るTRCの関連会社である。

それも地元・建築士事務所とのJV(共同事業体)だった。つまり、TRC系シンクタンクは裏方に回り、表に立って市民を巻き込むワークショップやイベントを主催したのが、『みん図書』の発足メンバーでもある、その建築士事務所の代表者と、まちづくりイベントを企画・開催する地元建築系企業の代表者のふたりだった。

図書館の基本計画を作ったのはTRCの子会社!

『みん図書』は計4回のワークショップを開催し、地元メディアの報道もあって新しい図書館への市民の期待が一気に膨らんでいったかのようにみえた16年4月には民営化への方向性を示す基本計画が発表された。

『新図書館においては、開館日の拡大、開館時間の延長はじめ、新しい利用者の開拓や新たなサービス開発などの課題に取り組むため、民間等外部の専門知識・技術を活用することを検討する』(和歌山市民図書館・基本計画より抜粋)

ここまでの事実関係をTRCに確認すると…、

「図書館総研がJVとなった地元企業と協働して、ワークショップを開催し、後に和歌山市が発表した基本計画の原案を作成したのは事実です」

TRCが和歌山市民図書館の民営化の方向性をクッキリと打ち出す役割を担っていたことが伺える。

ある意味、原発立地地域の住民対策や、政権政党が自らの政策を訴えるために全国各地で開催するタウンミーティングにも似ていると言えるが、入札予定業者がそこまで手間暇かけて準備するのは、確実に自分たちが将来「果実」を得られることがわかっているからだ。もし、種まきして畑を耕しても、もう一度ゼロからライバルとのコンペとなるのだったら、誰もそこまで熱心に準備はしないだろう。

どこの自治体でも“指定管理制度導入=施設の運営を丸ごと民間に任せる”となれば、当然、現場からの激しい抵抗もあれば、市民の反対運動が起きることもある。水面下ではそうした動きを抑えつつ、民間企業に運営させることで市民サービス向上に繋がるとの広報活動を市当局と受託企業が連携して行なうとされている。

和歌山市では、前半部分である民営化推進の役割を担ったのが図書館界のガリバー・TRCだったのである。

人材派遣会社の役員を務める大学教授が、国の審議会の委員に就任して労働市場の規制緩和を提言するのにも似ていて、公務受託企業の利害関係者が行政運営に食い込んでくるのは、自ら利益をはかっているようにしかみえない。

なお、系列の図書館総研とそのJVとなった地元事業者が市民団体『みん図書』設立にも関与していた(やらせ行為があった)のではないかとの質問に対しては、TRCがこう回答している。

「図書館総研とのJV企業の代表者が『みんなでつくろう未来の図書館』の発足メンバーであることは把握しておりますが、本団体の設立・活動に弊社は一切かかわっておらず、これらが基本計画策定業務の一貫であることは一切ございません」

では、そこまで手間暇かけて内定を獲得した和歌山市民図書館・運営者の座をなぜあっさりとCCCに譲ることになったのかーー。地元で図書館民営化の動きをウォッチしているある人物からこんな証言が得られた。

「和歌山市では、実はもう2年くらい前からTRCが出入り禁止のような状態になっていて、それ以降、指定管理者になるという話はなくなっていたと思ってました。何があったかまでは知りませんが、市を怒らせたか、嫌われることをしたのではないかと思います」

あくまで「噂」の域を出ない話だが、取材を進めていくと、その背景にはある“利権”がからんでいることがわかった。

★第3回⇒炎上しまくりの“ツタヤ図書館”で利権を巡る仁義なき「談合レース」が…!?

(取材・文/日向咲嗣)