『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが考える、若い世代が前向きに生きるための方法とは――?

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昨年末、不要になった大量の服やバッグを売ろうと、都内某所の古着屋さんに査定を依頼しました。約200点の査定総額は――わずか4000円。値がついたのはファストファッションブランドの品など6点のみで、残りはすべて廃棄扱いでした。

実際にはいくつかのハイブランド品を含め、それなりに高価なモノも含まれていたので、査定の妥当性に疑いを持ち、特に気になるモノを数点だけ、数百円で買い戻させてもらいました。

そのうちエミリオ・プッチのバッグを別の店に持ち込んだところ、提示された買い取り金額は2万円。まったく同じモノの評価額が、買い手の知識ひとつでこうも変わるのです。

そこで、はたと考えました。もしかして人の価値も、似たようにあやふやに決められているのでは? 社会が査定する「あなたの現在の価値」にはどんな正当性がある?

多くの企業は学歴や経歴で個人の価値を型にはめ、人材獲得競争を行なっています。個々の本質的なスキルセットを採用前に判断することが難しいと考えれば、この方法は一見合理性がありそうですが、その結果、不当に低い査定を受けている人も多いはず。そんなものにあなたの生活や人生は規定されているのです。

風呂敷を広げてもう少し続けます。あなたがこの社会に生きづらさを感じているなら、それはあなただけの責任ではない。誰かが決めたあなたの価値にも、あるいは貧困や困難にも、必然性はありません。でも、それを甘んじて受け入れ続けたら、いずれそれがあなたの"社会的位置"になっていくでしょう。

では、社会はどうすれば変えられるのか? これは相当な難題です。あらゆるものが複雑に絡み合った環境設定のどこかをいじっても、簡単には変わってくれない。

そんな中、意外にもリーズナブルなのが投票行動です。例えば10代・20代の投票率が7、8割まで上がれば、政治は必ず若者の声を聞こうとするでしょう(ドイツの例を見ても明らかです)。

状況を変えるもうひとつの選択肢は、あなたの半径1mを変えることです。たとえ社会が巨大で複雑なパズルでも、周囲のピースだけはあなたが入れ替えることができる。なんだかんだ言って今の環境を変えたくないという人も、それが本当に守るに値するものか、もう一度考えてみてもいいのではないでしょうか。

また、必ずしもダイナミックなチェンジをしなくても、できることはあります。例えば、今年3月に初めて確定申告に行ってみるとか。あながち冗談でもありません。

今は組織に守られている人も、自分がひとりになったときに一枚一枚の領収書が自分を守る"防弾チョッキ"になることが実感でき、「パズルを組み替えた後の人生」が想像しやすくなるかもしれません。

経済的・社会的な下落圧力を受けたコミュニティでは、一部が極端な思想や陰謀論に走ってしまうことがあります。カニエ・ウエストの一件で表出した、米黒人社会に巣食う反ユダヤ主義もその一例でしょう。

日本では高齢化の影響もあり、若い世代が割を食う構図になってしまっていますが、半径1mからの自己エンパワーメント、緩慢ながら確実に実現する投票での社会変革を希望として、皆さんには自分を守りながら前向きに生きてほしいと思います。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)ほかメディア出演多数。富山県氷見市「きときと魚大使」を務める

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