『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、日本社会の変化を阻害する「無意味な手続き」について指摘する。
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私の父はスコットランド系アメリカ人、母は日本人です。父が亡くなった後もひとりアメリカで暮らし、2年前に他界した母からの相続、および相続税の支払いをめぐる日本の官民機関とのやりとりが、先日ようやく終わりました。
私が相続税の納付を渋っていたわけではなく、むしろその逆です。さっさと納めたいのに納めさせてくれず、やむなく"闘争"が2年も続いてしまいました。
母の遺産(不動産や証券類)は日米両国にまたがっていたので、相続分野を専門とする弁護士と会計士のチームを日米それぞれでつくり、対応してもらいました。
それでも2年の時間とすさまじい労力を要したのは、日本側の硬直した制度と、融通の利かなさによるところが大きかったと言わざるをえません。当時、日本ではまだ珍しかった国際結婚を経て生まれた私の存在が"想定外"だということなのでしょうが......。
例えばこんなことがありました。私と母の親子関係を証明しろと言われたのですが、日本の除籍謄本には「親族」とだけ記されており、受理してもらえません。そこで、代わりにアメリカで発行される母のDeath Certificate(死亡証明書)を提出したら、納得してもらえました。
ちなみにDeath Certificateは州ごとに形式も取得方法もバラバラで、母が暮らしていたメリーランド州の場合は州のHPからダウンロードしたフォーマットに各自が必要事項を入力し、プリントアウトするだけでした。
つまり、私自身が打ち込んだPDFがそのまま証明書類となったわけです。いったいなんのために提出したのか......。正直、いくらでも嘘を書けるのに、その真偽については誰も確認できないのですから(もちろん私は事実を書きましたが)。
その後も法務局や証券会社などとのやりとりで、書類の要求→日米当局からの発行待ち→書類郵送・申請→却下→再申請......というループが無限にも思えるほど続きました。
一事が万事おかしかったというわけではありませんし、個々の担当の方に落ち度があるわけでもないことは重々承知しています。しかし私が直面したのは、不正を防ぐための厳しい審査とはもはや別次元の"手続き自体が目的化した手続き"の数々でした。
なお、やっとの思いで相続税を納めたところ、今度は「死亡から10ヵ月以内の納付期限を過ぎており、延滞税が課される可能性がある」と指摘され、膝から崩れ落ちそうになりました(現在提出中の期限延長申請書が受理されれば、延滞は発生しないようですが)。
1990年代以降の"失われた30年"からいまだ抜け出せない日本にとって、「意味のないことにリソースを割くのをやめる」ことは存外重要であると私は感じます。
仮に既存の制度が人々の前向きな思考や行動を制限しており、多くの人が「変えたほうがいいよね」と思っていても、謎の理由で変更が却下されたり先送りにされたりすることが続くと、やがて改革の意欲は失われる。そして、みんなが謎の我慢強さで不便さや不自由さに耐え、いずれ慣れてしまう――。
そんなことが日本中で繰り返されてきたのではないでしょうか。どうしたら日本は変われる?と聞かれたら、私は本気で「無意味な日々の手続きを少しずつ手放すことから始めましょう」と答えようと思います。
●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)ほかメディア出演多数。富山県氷見市「きときと魚大使」を務める