『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、広域犯罪グループが生まれた社会背景について指摘する。

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フィリピンと日本にまたがる犯罪グループの逮捕劇がメディアを騒がせました。特殊詐欺、広域強盗、そして闇バイト。一連の報道からそこはかとなく感じられるのは、貧困のにおい、そして絶望的なまでの順法精神の薄さです。

主犯格メンバーのような"法の外の住人"はある意味、いつの時代にもいるタイプですが、問題は末端の実行役です。率直に言って、われわれと同じ社会で暮らす"隣人"のような若者が、安直な判断で凶悪犯罪に手を染めているように思えます。

海外から指南する主犯格メンバーとはなんの関係性もなければ忠誠心もなく、ただ金のために無抵抗の老人をも殺(あや)める......。今回のケースは日本では特殊な事例だと思われる方もいるかもしれませんが、果たしてそうでしょうか。

「貧しいから犯罪に手を染める」といっても、そこには切羽詰まった特定の事情があってやるパターンと、固着化した貧困が社会の一定層における規範意識を薄れさせ、それほど重大なことという認識すらないままやるパターンがあると思いますが、私の頭にあるのは後者です。20世紀的な分類でいえば、"発展途上国型の犯罪"といえるかもしれません。

今回の主犯格らの逮捕により、似たような詐欺グループの活動がしばらくおとなしくなる可能性はあります。しかし少子高齢化の影響もあり、蓄えがある独居老人と貧しい若者が隣り合って暮らす社会構造は、犯罪を企てる側にとって"ボーナスステージ"のようなものです。

もしこの先も同種の事件が何度も繰り返されるなら、それはかつての日本になかった(少なくとも表面化していなかった)"変異株犯罪"が定着したことを意味するのでしょう。

貧困・格差と順法精神・犯罪とが連動する問題は、世界各地の社会が抱える病巣のようなもので、まだ誰も根本的に解決できていません。

例えばイギリスの貧困地区は全般的に順法意識が低下し、"犯罪天国"のようになっていますが、その背景には「階級」に対する諦めがある。「下層」から見れば、自分たちを守ってくれない社会のルールを守るインセンティブがないのです(まさに映画『トレインスポッティング』の世界観です)。

黒人男性が警察官に射殺されたことをきっかけに、英各都市へ広がった2011年の大規模な暴動にも、長年にわたり高止まりする失業率と、「法律なんか守ってもいいことはない」という風潮が大きく影響したとみられています。

アメリカでも先日、カリフォルニア近郊のゴーシェンという街で、麻薬カルテルの"見せしめ案件"と思われるメキシコ移民一家殺害事件が発生しました(赤子まで殺されています)。当該地域は不法移民を含む貧困層が集まるエリアで、その残忍な手口から米社会には「ついにメキシコ・カルテル型犯罪が輸入された」というショックが広がりました。

言うまでもなく、それぞれの国にはそれぞれ固有の事情があり、簡単に同列視することはできません。しかし、少なくとも日本社会の「総中流・良治安モデル」が今、急速に壊れかけていることは事実でしょう。

今回のような事件をただ単に「一部の不届き者」のせいにして問題の本質を見ないようでは、現実逃避にしかならないと私は思います。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)ほかメディア出演多数。富山県氷見市「きときと魚大使」を務める

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