『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、"集団切腹"発言問題について語る。
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米イェール大学助教・成田悠輔さんの過去の"集団自決発言"が米ニューヨーク・タイムズ(NYT)に大きく取り上げられ、日本国内でも物議を醸(かも)しています。
社会保障改革のひとつの手段は、高齢者が集団で"切腹"することである――何度も同様の発言をしてきた成田さんは、メタファー(比喩)だと説明されているようですが、批判する側もそれは理解した上で、「メタファーであれば許される発言なのか」という点を特に問うているように思います。
なお、NYTの記事では当該発言そのものだけでなく、2022年のネット番組で配信されたある場面も問題視されています。
小・中・高生20人を相手にしたトークセッションで"集団切腹"について問われた成田さんは、映画『ミッドサマー』(2019年)で描かれている、スウェーデンの架空のカルト集団における奇妙な風習を紹介しました。それは、一定の年齢を超えた老人は崖から飛び降りて自殺するというものです。
特に問題なのは、子供たちを"演出道具"として使ったことでしょう。社会保障に関わるさまざまな議論、『ミッドサマー』には白人至上主義や優生思想のメタファーが批判的に織り込まれていること、そもそもホラーというジャンルの隆盛には優生思想とのリンクがあったという歴史的・文化的見地など、知るべきことを知らず判断力も備わっていない未成年に対し、権威ある人物が優生主義を"選択肢"として示唆し、「映画を見て自己責任で判断して」と投げることの無責任さ。
カメラの前で無垢(むく)な子供が「ヒトラーユーゲント」(ナチスの青少年組織)へと染められていくリスクのある光景を、のぞき見的に面白がる大人たち。これは"児童ポルノまがい"の構図ではないか、成田さんも番組制作側もそれをわかりながら「面白さ」を優先したのではないかという視点は、もう少し強調されてもいいと感じます。
今回の件は高齢者や子供の人権にストレートに関わる問題なので、「一方的に欧米の基準を持ち込んで批判するな」といった反論や、内輪でしか通用しない"文脈"を理由に乗り切ろうとするのは筋が悪すぎます(一部Web番組からの引退を表明した成田さん自身も、そのことを理解されているのかもしれません)。
かつて自ら"危険なオカマ(デンジャラス・ファゴット)"と名乗り、トランプ前大統領の応援団として過激発言を尽くした米コラムニストのマイロ・ヤノプルスも、小児性愛に関するたったひとつの発言で表舞台から一気に転落しました。
さらに言えば、たとえその発言がメタファーであろうと、権威ある人の言葉が犬笛となり、社会に攻撃性が蔓延していくことは十分に起こりえます。2020年1月の米連邦議会議事堂襲撃事件も、トランプ前大統領の言葉が生んだものでした。
SNSという"着火・拡散装置"がこれほど威力を発揮している時代に、成田さんのようなインテリがなぜわざわざメディアで「火をつけるような発言」を繰り返していたのかはよくわかりません。
ただ個人的には、彼を重用してきたマスメディアがこの件をほとんど真剣に扱っていないことにも、味わい深いものを感じてしまいます。イェール大学という権威も、成田さんのキャラクターもわかった上で、ここまで泳がせてきたんじゃないですか――と。
●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)ほかメディア出演多数。富山県氷見市「きときと魚大使」を務める