モーリー・ロバートソン「挑発的ニッポン革命計画」
『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、
若い世代の窮状を改善するために大人がやるべきことについて語る。

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居場所を求めて新宿・歌舞伎町の"トー横"に集まる無軌道な"キッズ"たちの話題や、疑似恋愛系動画を配信する男性YouTuberにもてあそばれたとして女子高校生が"飛び降り生配信"をしたニュースなどが世間を騒がせました。

昔から社会の片隅には、アルコールや薬物で身を滅ぼす少年や、ヤクザの毒牙にかかり体を売ることになった少女が存在していましたが、若者を取り巻く環境が変化したことで、そういったものがアメーバ状に社会に広がっているような印象を受けています。

大人たちはこの惨状をワイドショー的に眺めることしかしていません。その背後には、自分たちが上の世代に言われてきた「歯を食いしばって努力すれば報われる」≒「そうでない場合は努力が足りない」という"昭和の常識"が見え隠れしますが、果たして今の若者には本当に努力が足りないのか。むしろ「努力に値する目的さえ見えずに苦しんでいる」とは考えられないでしょうか。

社会的弱者となった若者を救済するためには、経済格差の是正が必要だという点には多くの人が同意するでしょう。ただ、ひと口に格差是正といってもさまざまな方向性があります。

格差の「山」と「谷」があるとすると、ひとつ重要なのは谷を埋める、つまり公金でセーフティネットを拡充する施策。ただ、それに加えて日本では、山を削ることでフラット化を図る平等主義にも陥りがちです。もちろん富裕層に対する課税は必要ですが、そうして山を削るばかりで、多くの若者を正しく山に向かわせるための議論がおそらく足りていない。

言い換えれば、大人や社会が多様な"成功のモデル"を見せられていないのです。だからこそ、多くの若者は谷から山を眺めるか、あるいはSNSなどで実態以上に大きく喧伝される一獲千金的な成功者の後を追ってしまう。

仮想通貨などハイリスクな投機で大儲けし、高級車を乗り回し、都心のタワマンで暮らし、会員制サウナで整い、セレブ御用達の高級レストランに通い、整形手術と加工アプリで何重にも補正した顔でインスタライブをし、ゴージャスな生活を誇らしげに語る――それはほとんどの場合まったくオーガニックではない、他者や社会を幸せにしない、循環のない刹那的な成功なのですが。

「どんな手段であれ稼いだ者が正義」という現実を変えるには、持続可能な経済成長を実現する必要があります。そしてその前段階として、自分の"アクション"が社会と密接にリンクしていることを実感してもらわなければならない。

今、「あなた」が取り組んでいる仕事や表現や消費行動は、社会の循環に作用している。自分にその価値はないと思い込んでいる人も多いかもしれませんが、今も昔も、若者のアクションと意思は社会をつくっていくのです。

大人がやるべきことは、自分の生き方が見えず、その窮状を言語化することもできない若者の声なき声に耳を傾け、苦しみを理解し、「山」に向かうための道筋を見せることだと私は思います。

あいつらには山を登り切る筋力が足りない、などと上から目線で断じる前に、ここまで社会状況を悪化させた自分たちの責任を直視しない限り、社会が再び上昇気流に乗ることはないでしょう。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。ニュース解説、コメンテーターなどでのメディア出演多数

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