モーリー・ロバートソン「挑発的ニッポン革命計画」『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、まさかの食あたり体験を告白。「映え」に依存する飲食店の増加は何を意味するのか? そんな日本社会の潮流と、あのサブプライムローン問題の共通点とは?

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ゴールデンウイーク中のある日、仕事が入っていた私はいつも食べに行く飲食街が人、人、人でいっぱいだったため、日頃は行かないある専門店にアシスタントを同伴して行きました。

その店は国産の高級食材をアピールし、メニューは数種類のみ。グループ客は「映える」品をスマホで撮り、やたらと大声で盛り上がっていました。私たちは上から2番目の品を注文しましたが、その直後にふたりとも強い食あたりを起こし、翌日の夜にようやく回復しました。

食べている最中から「おや?」と思うこともあったため、後になって調べてみたところ、その店はSNS映えを優先して行列を呼ぶ戦略を取っています。あちこちのグルメ系ブログに礼賛記事が躍り、テレビも文字媒体も見事に引っかかっている。最近よくあるパターンです。

実際、店内は全体にちぐはぐな印象でした。高級食材の割には値段が安すぎるし、従業員の接客も高級店とは程遠く、流れる音楽はiPadの小さなスピーカーの穴から流れる『スターバックスBGM』というYou Tubeのチャンネル音声......。

当然のことながら、高級食材を仕入れるコストは高く、原価の圧縮には限界があります。それでもリーズナブルさをプッシュする場合、どこかにリスクが隠されている。

「映える」「ネットで話題」「マスコミにも評判」の三拍子がそろっていても、経営や衛生管理がずさんなケースはあるのです(「焼肉酒屋えびす」の食中毒事件はまだ記憶に新しいですし、直近では「レアとんかつ」の安全性の問題がメディアでも議論になっています)。

比較対象としては遠大ですが、2000年代末にアメリカで起きたサブプライムローン問題にも似た構図がありました。金融機関同士でリスクをたらい回しにし、それを"Hype"(誇大広告)でユーザー側に押しつけて逃げ切ろうとしたのです。

しかも日本という国は、エネルギーも食材も海外に依存し、最近はウクライナ戦争の影響もあって調達価格が高騰している。普通に考えれば値上げをしない限りサービスや商品の質を維持できないはずなのに、消費者は安さを求め、メディアも「おいしい話には乗らなきゃダメっしょ!」とあおる(サブプライムローンの頃の米社会もそんな"躁状態"にあったのかもしれません)。

今後は高価格帯で確実に高い品質の品を提供する飲食店と、Hypeが熱い「なぜか低コストだが、リスクが隠されている」飲食店へと分岐していくのではないでしょうか。

本来であれば経済が回復し、多くの飲食店がHypeに頼らず健全に営業できる状態が望ましいのは言うまでもありません。しかし残念ながら現状では、消費者は「安全格差」の存在を認識し、自衛するしかない。

今回私が行った店の近くには、SNSでのあおりなどゼロで最高な品質の食材を粛々と提供する別ジャンルの専門店もあり、完全に不意打ちを食らった格好でした。保健所に通報するなどの強硬策も思いつきましたが、食中毒の因果関係を立証する煩わしさや、仮にこちらの主張が通った場合の「カルマ」や「返り血」を考慮し、今回は痛みを伴う勉強をしたと思うことにします。

同じ飲食街には引き続き通い、誠実な経営姿勢の店は積極的に買い支えていく所存です。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。ニュース解説、コメンテーターなどでのメディア出演多数

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