モーリー・ロバートソン「挑発的ニッポン革命計画」『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、「マスコミはなぜ大事なことを議論しないのか」という疑問への答えを探る。

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先日、ある国連関連団体のイベントに登壇した際に、「最近のマスコミは大谷翔平選手の話題ばかりで、大事なことを報じない。マスコミの中にいる人間としてどう思うか」というご批判を受けました。

そのときの私の回答を要約すると「テレビでは私はあくまで〝演者〟で、番組のあり方、方針を左右できる立場ではありません。しかし発言を許された時間の中で、伝えるべきメッセージを残そうとはしています」というものでした。

ただ、時間も限られる中での回答でしたので、あらためて考えを整理しておきます。

マスコミの機能不全は加速し、今や報じるか否(いな)かの最大の判断基準が「差し障りのなさ」になっていると私も感じます。

ただ、実はマスコミのみならず、講演などでも差し障りのないコメントが求められている。私でいえば「日本語も英語もネイティブなハーフ」「ハーバードと東京大学に合格」「ヒロシマ育ち、父は米原爆傷害調査委員会(ABCC)」といった、ハッシュタグ的な属性しか見ていない発注が増えた印象です。

これが何を意味するかを突き詰めてみると、「みんなが真剣に考えることを放棄している」という、なかなか深刻な結論にたどり着きます。性差別、経済格差、エネルギー逼迫、途上国依存、米軍基地と国際情勢......どれも重要かつ複雑なテーマなのに、伝票に判を押すように「話題に触れる」だけで、議論を深めようとはしないことがほとんどです。

ジャニー喜多川氏の性加害問題にしても、英BBCという黒船が〝開かずの港〟に突撃し、文春砲がそれに続いたことで仕方なく報じたメディアがほとんどでしょう。

それも返り血が届かない距離から小石を投げるのみで、メディアやファンが暴力装置に間接的に寄与してきたという構造には触れない。むしろ、暗に〝軟着陸〟を望む雰囲気さえあります。

この件に限らず、現在は多くの分野において「従来のやり方や世界観では解決が遠のく」ような問題があり、本来であれば皆が心理的な負担を感じながら議論を重ねて〝落としどころ〟を探る必要がある。ハードな現実に向き合うことは、自分の生き方や価値観すら変える可能性を含むものです。

しかし、弱体化したメディアは〝お客さま〟の気分を害したくない。テレビならスポンサーや視聴者に文句を言われるのは避けたい。より具体的に言えば、特にスポンサーが「いやがる可能性がある」以上、小さなイチャモンもつけられたくない。

ただ今の時代、どこで誰が〝不愉快なお気持ち〟をSNSで表明するかわからない。すると、安心できる逃げ込み先はひたすら薄いネタ、もしくは当事者が反論不能なネタ――代表例は芸能人の不倫スキャンダルや、政治の本筋とは関係ない政治家の不手際。後追い報道ならなお安全です。

深刻なのは、そんな体たらくを批判する人の多くも、マスコミと決別して自分の生活習慣を変えようとはしないことです。

ですから少なくとも若い世代の方々には、なれ合う大人たちとデカップリング(分離)してほしい。

多くの大人が現状維持を望むのは、いろいろとくたびれているから。しかしまだ疲弊していない人には、自分から変われるという特権があります。

既存のものを批判するより、意志のある行動で新しいものを作るほうが、社会を変える可能性は高いでしょう。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。ニュース解説、コメンテーターなどでのメディア出演多数

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