モーリー・ロバートソン「挑発的ニッポン革命計画」 『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、日米の社会の違いと「右派ビジネス」が拡大していくメカニズムについて考察する。

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ジャニーズ事務所の問題に長年、見て見ぬふりをしてきたマスメディアへの批判が強まっています。

きちんとけじめをつけようとする検証番組も発信されている一方で、今もって大手メディアの主流は「逃げ」の姿勢で、必要最低限の禊(みそぎ)を試みているように見受けられます。

その結果、情報空間に"力の空白"が生まれるのではないか、という仮説を立てています。

マスメディアへの信頼が弱まる一方で、それに本格的に代わる体力も覚悟もない「テレビが報じない〇〇」「マスコミが言えない△△」といった有象無象の発信が一部の人々の関心を引くカオスな流れが、しばらく続くのではないかということです。

これは右翼、左翼を問わず起きる傾向ですが、現時点では右派の言説が日に日に勢いを増しています。

その典型例が、日本社会が少しずつ受け入れている多様性に危機感や嫌悪感を覚える層に対する、「このままでは日本が壊れていく」といった煽動でしょう。

インバウンドの規模がコロナ前の水準に戻りつつある中、外国人観光客の「マナー」や「常識」のなさに対して、発生件数や文化の違いを検証せず、「観光被害」というキャッチフレーズに便乗して嫌悪感を強める傾向もそれに含まれると思います。

無法な観光客の存在を否定しているのではありません。程度や頻度を冷静に調べてから主張すべきだという話です(こんな当たり前なことを言わなくてはならないこと自体に危機感を覚えています)。

グローバル化による格差拡大が厳しさを増す社会に憤りを感じる人々の心理に便乗して、経済弱者に寄り添うふりをした右派ポピュリストが"悪者"をさらし上げ、疑似世論を形成して一斉に叩く――。アメリカのメディア王ルパート・マードックが「FOXニュース」で完成させたビジネスモデルは、世界中で流用されています。

日本でいえば、中国人やクルド人、LGBT、マスコミ......そのとき最も"揮発性"の高い攻撃目標を見つけ、人々を祭りの輪に飛び込ませる。

その祭りの会場は新興の動画メディアからYouTubeチャンネルまでさまざまですが、視聴数やクリック数の獲得競争が苛烈になるにつれ、ますますインモラルな傾向が強まっているように思います。

ただ、もちろんこれは憂慮すべきことですが、同時に、日本では社会を分断するほどの深刻さにはならないのではないかとも私は考えています。

日米両国の社会の決定的な違いは、信仰や(それに基づく)イデオロギーの有無。アメリカでは奴隷制にしろ、公民権運動にしろ、女性解放にしろ、LGBTの権利にしろ、「キリスト教道徳」が最後の砦(とりで)となってきました。

よく言えば伝統的価値観を大切にする人たち、悪く言うなら「変わりたくない人たち」が、時代の変化に"無敵の論理"で対抗してきた歴史があるのです(近年は教会の性虐待問題が明らかになり、その地位も沈下しつつありますが)。

また、さらに逆説的ですが、マイノリティ、女性、LGBTに思いやりを持ち、人権を尊重するためにひとりひとりが声を上げるべきだとする考え方も、キリスト教の「隣人を助けよ」という道徳観に深く根ざしている側面があります。

一方、そのような宗教観に根ざしたイデオロギーが尊ばれなくなった現代の日本社会においては、特定のグループに対する憧れ、好意、同情、嫌悪感......つまり「情緒的なグラデーション」のすべてが熱しやすく冷めやすいという特性があるように感じます。

SNS上で外国人排斥に賛同し、女性やマイノリティを平気で差別する反リベラル層も、多くは職場や学校では"普通の人"でしょう。

あくまでも匿名の娯楽止まりで、実名or顔出しではやらない。つまりイデオロギーとして「筋金入り」ではありません。

仮にトランプ前大統領が裁判の結果、有罪となり拘束されたなら、多くの「信者」が武装してでも奪還に動こうとすることが想像されるアメリカとはまったく状況が違います。

これは好意的に見るなら、「まだ戻って来られる人が多い」ということかもしれません。しかし、さらに踏み込むなら「偏差値は高いが、情報を咀嚼(そしゃく)するプロセスが怠慢」な横顔が見え隠れします。

右派、左派を問わず大量に流されているプロパガンダに共感しがちな人に考えてほしいことがあります。

「日本が壊され、乗っ取られている」というような危機感や憤りは、どこか「簡単すぎる」と思いませんか?

こういった煽りは、歴史の中で何百年も繰り返されてきたテンプレートの焼き直しがほとんどです。「自分と違う人間たち」をまとめて"敵認定"する時間は、「純粋に無駄な時間」になる可能性が高い。

そもそも共感してしまった時点で、煽動する人間に「一杯食わされている」ということです。

その膨大なエネルギーを自分自身に向けたほうが、きっと人生をよりよくするチャンスを引き寄せられるんじゃないかと私は思っています。

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