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モーリー・ロバートソンMorley Robertson
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。ニュース解説、コメンテーターなどでのメディア出演多数。最新刊は『日本、ヤバい。「いいね」と「コスパ」を捨てる新しい生き方のススメ』(文藝春秋)
『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、フジテレビ問題から見える世界の劇的な「変化」、そしてそれを恐れる人々の存在について考察する。
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フジテレビを巡る一連の騒動を【男性中心型の権力構造の崩壊】というストーリーラインで見ると、これほど象徴的な出来事はありません。
従来であれば、権力勾配で上に立つ人間の横暴は組織内で揉み消されたでしょう。事を荒立てたくない、自身の立場を不利にしたくないという気持ち(かつては「総合的かつ合理的な判断」という側面があったかもしれません)から、被害者が告発を思いとどまったり、あるいは周囲が告発の揉み消しに加担したり――といったことは、社会のあちこちで行なわれてきたはずです。
しかし近年では、「黙って耐える」ことと引き換えに得るリターンが薄まり(あるいは「実はもともとリターンなど薄っぺらいものだった」ことに多くの人が気づき)、どんどん被害者が声を上げている。
重要なのは、これが単なる社会運動ではなく、資本主義のルールに基づいた当然の帰結だということです。ジェンダー平等を重視しない企業は消費者の支持を失い、競争から脱落していく。つまり一時のムーブメントではなく、社会のルール自体が書き換えられているということです。
これは世界規模の"リバランス"であり、旧世代の強権的なリーダーたちが理解できない、もしくは受け入れ難い価値観の変化、社会変革です。男性中心の社会構造が崩れていく大きな流れは、(スピードや程度の差こそあれ)国や地域に限らず進んでいき、国家だけでなく企業などの組織、あるいは個人の関係においても、それを理解しない人たちは次第に孤立していくと思います。
旧来的な価値観を支持の源泉とするアメリカのトランプ大統領。リベラリズムの浸透がロシアの伝統的な家族観を崩壊させ、国力を弱めると訴えるロシアのプーチン大統領。韓流文化や"なよなよした男性"のメディア露出を制限し、女性やLGBTQの権利拡大を抑え込もうとする中国の習近平主席。彼らは間違いなく、今起きている「変化」を恐れているのです。
日本でも権力構造はすでに"ガラガラポン"の状態に入り始めています。保守的な価値観を持つ人たちは「社会が壊れていく」ように感じているかもしれませんが、実際は「偏在的な権力構造が時代に淘汰される」だけの話です。奴隷制が廃止され、女性参政権が認められ、人種差別が撤廃されてきたように、今がシフトのタイミングなのだととらえる必要があります。
これまで権力を持ち、経済的にも社会的にも強い立場にいた人であればあるほど、この波の大きさを正しく認識できなければ、どこかで不意打ちを食らい、ある種の"敗北"を味わうリスクが高まっていくでしょう。
覚悟しなければならないのは権力者だけではありません。あえて大きな主語で申せば、「われわれ男性」、あるいは「男性原理に寄り添って男性化することで生きてきたすべての人」は今、これまでとは異なる生き方を模索する必要性に直面しています。ひと言で言うなら「あらゆる他者を尊重し、多様なあり方をフラットに認める」ことが求められているのです。
この変化を受け入れ、新時代の一員として自分をアップデートするのか、それとも過去の価値観にしがみついて取り残されるのか。世界を俯瞰してみれば、これほどイージーな2択問題はなかなかないと思います。
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。ニュース解説、コメンテーターなどでのメディア出演多数。最新刊は『日本、ヤバい。「いいね」と「コスパ」を捨てる新しい生き方のススメ』(文藝春秋)