
村上隆保
むらかみ・たかほ
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編集者/ライター
『週刊プレイボーイ』では、特集記事のほかに爆笑問題、リリー・フランキー、ひろゆきの連載を担当。
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 日本維新の会が副首都にこだわるわけは?
日本維新の会が副首都にこだわるわけは?
日本維新の会が自民党との連立の絶対条件のひとつとした「副首都構想」。
なぜ、そこまで副首都にこだわるのか。維新が発表した骨子案を見ると、その理由が読めてくる。公共政策の専門家が副首都構想の真の目的を解説する!
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日本維新の会が、自民党に求めた連立政権入りの絶対条件のひとつに「副首都構想」がある。
これは首都の危機管理機能のバックアップ体制を構築するものだというが、具体的にはどんな政策なのか。「大阪都構想」との違いはなんなのか。法政大学大学院政策科学研究所所長の白鳥 浩(しらとり・ひろし)教授に聞いた。
――まず、副首都構想ってどんな政策なのでしょうか?
白鳥 ひとつは東京一極集中をなんとかしようということです。例えば、東京は人口が多いため道路の渋滞でノロノロしている時間は仕事ができず効率が悪くなります。
また、家賃も高く住んでいる人の負担も大きい。東京以外にもうひとつ大きな経済圏をつくり出せば、東京一極集中が少しは解消されます。
そしてもうひとつが、東京でテロや大地震などの大規模な災害が起こったとき、国の機能が停止しないようにバックアップできる都市をつくっておこうということ。
2011年の東日本大震災のときは、東京などで停電が続き都市機能がマヒしました。その頃から真剣に議論されるようになったんです。
――では、副首都構想はかなり前からあったんですね。
白鳥 そうですね。首都機能を分散させるということで20年に徳島市に消費者庁の一部を移転、また、16年には文化庁の京都市への全面移転が決定し、23年に移転しました。
しかし、ほかの省庁との連携が大変だったり、政治家へのレク(説明)のために、わざわざ東京に行かなければいけないなどの問題があるそうです。
――ちなみに副首都構想のメリット、デメリットってなんですか?
白鳥 メリットは先ほど言った東京一極集中の緩和と災害時のバックアップ機能です。デメリットは首都機能と同じものをもうひとつつくるとなると、普段はあまり使わないわけですからムダになります。コストがかかるわけです。
――でも、災害時のバックアップを考えるとあってもいいのかなと思います。
白鳥 そうですね。ただ大阪府にこだわる必要はないんです。例えば地方の中核都市でいえば北海道の札幌市、九州なら福岡市、中部地方なら名古屋市、中国地方だと広島市も考えられます。
しかし、札幌はロシアに近い。福岡は朝鮮半島有事があったときに不安。名古屋は南海トラフ地震の心配がある。広島は平地が少ないため土地問題などの課題がある。
そうなると「関西国際空港と伊丹空港があり、東京から新幹線なら2時間30分、高速道路も整備されていて、港も使えるなどインフラが整っている」「京都、神戸などの都市が近く補完的に連携ができる」などの理由から大阪が副首都候補の一番手に挙がるんです。
――だから、大阪に地盤のある日本維新の会が副首都構想を訴えているわけですか?
白鳥 実は、それほど単純な話ではありません。日本維新の会は、「大阪都構想」を実現するために15年と20年に住民投票を行ないましたが2回とも否決されました。
大阪都構想の目的は何かというと、大阪府と大阪市による二重行政の解消です。例えば、大阪府立大学と大阪市立大学など同じようなものがふたつあるとムダではないかということです(両大は22年に統合し大阪公立大学に)。
しかし、この大阪都構想が失敗に終わったために、今度は副首都構想を持ち出してきたんです。大阪都構想は地方自治の話で副首都構想は国家戦略の話です。目的も違えば、求められる機能も違います。
そこで、日本維新の会が発表した副首都構想の骨子案をよく見ると、大阪都構想に近づくように非常にうまい作り方をしています。それは、副首都には「特別区を設置する」としている点です。
特別区というのは東京でいう23区のことです。東京23区の財源は東京都に大きく依存しています。それはなぜかというと、太平洋戦争時に市民の暴動などを抑えるために、都知事に強大な権力を与えるという政策の一環でした。
 東京は国の権力だけでなく、知事にも大きな権力が集まっている
東京は国の権力だけでなく、知事にも大きな権力が集まっている
一方で、大阪府には大阪市や堺市などの政令指定都市があることもあり、東京都ほど知事に権力が集中していません。そこで、大阪市や堺市を解体して特別区をつくり、大阪都構想の目的を果たすという狙いがあるんです。
しかし今の地方自治は、市区町村などの基礎自治体に権限を譲るというのが大きな流れです。ですから、この副首都構想は、その流れに逆行しています。
また、災害時のバックアップ機能だけが目的なら特別区の設置は必要ありません。
そして、もうひとつ。骨子案によると、副首都の指定は国が行ないます。住民投票をしなくても、自動的に副首都になるんです。
ですから、日本維新の会が求めている副首都構想は、大阪都構想を強引に成立させるための法案のように思えます。
 大阪が副首都になると、大阪府庁に首相官邸や国会などのバックアップ機能が置かれるだろう。そのためには府庁舎の建て直しが必要かもしれない
大阪が副首都になると、大阪府庁に首相官邸や国会などのバックアップ機能が置かれるだろう。そのためには府庁舎の建て直しが必要かもしれない
――なんかだまし討ちみたいな感じですね。
白鳥 そうですね。さらに加えれば、大阪都構想の場合は、大阪府が経済振興費などのお金を出さなければいけませんが、副首都構想は国家戦略なので、副首都の指定を受ければ、企業誘致などに国からの補助金が出る可能性が高いんです。
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副首都構想は大阪府に大きな権限を与え、国からの補助金などで大阪を潤わせる大阪のための政策のように思える。しかし、自民党は政権安定のために日本維新の会の要求した政策を丸のみするつもりだ。
災害時のバックアップ機能としての副首都構想ならば、大阪でなくてもいいし、特別区の設置は必要ない。
高市政権がこの部分をどう判断するのか、注視していく必要がある。