筑波大学で講義をする落合陽一(右)と紗倉まな(左)

「コンテンツ応用論」2ndシーズン最終回はいつも以上に異色の講義となった。

ゲストは週刊プレイボーイ本誌でもコラムを連載中の“まなてぃー”こと紗倉まな。人気AV女優としてのみならず、エッセイに小説に文才を発揮する作家としても活躍している彼女の招来は、その才能に惹かれた落合陽一のたっての希望だった。

有名女優の来校とあって、会場は多くの立ち見が出る超満員。そして“男性密度”もいつもより高め。学園祭的な熱気がこもる中、前編記事に続き紗倉は語り始めた。

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落合 最初からそういう意識があってAVという選択肢をとったんですか? 女優になるってことは、見られる側になるってことじゃないですか。

紗倉 やっぱり自分を鏡で見て、顔でもない、スタイルでもない、じゃあなんだろうって思って。心を見せるのに近い、そういう表現ができるのは裸しかないかなって純粋に思っちゃったんですよね。

あとは、女性裸の美しさというのが潜在的にずっとあって。AV見てるときも、ミケランジェロの彫刻みたいな、そういう芸術性をずっとどこかで感じてて。だから裸も衣装だなって感覚だったんですよ。

落合 面白いな。日本って、ある意味では必要以上にアダルトコンテンツが多いのに、アダルトコンテンツに対する民度が低いですよね。なんか説教おじさんとか説教おばさんとか、説教フェミニストとかが出てきて、勝手にしろよってよく思うんですけど。よく説教されません? 実際、よく僕はされるんですけど。

紗倉 私もよくされます。

落合 ああいう人たちって当事者じゃないし、かつ彼らが何かけしかけることで良い方向にいくというより、むしろ社会がヘイトスピーチでぎくしゃくすることが多いのに。例えば、もし規制や法律がなければ、もしくは変われば、日本でAVが普通に民放で放送されてもいいじゃないですか。世の中に絶対はないし、ルールは時代によって変わるものだし、常に考えることが重要だと思うんです。

紗倉 私はそういう人たちを見ると「昭和だね」って思っちゃうんですよ。固定観念が強すぎて。

落合 “普通”は天地神明の理である!みたいな。

紗倉 そうそう(笑)、「これだけ」っていう軸がぶれない。

落合 あの人たちって、“普通”っていう道から外れるものを全部排除しようとしますよね。しかも、見方がすごく偏っているのにその人の“普通”を押し付けてくる。そういう人たちがけっこう社会の中心にいるじゃないですか。

紗倉 いますね。それが結構生きづらい原因になってるんだろうなって。

上の世代が堅いだけで、多様化した思考を使えば…

 

落合 そういうなかで、アダルト産業にしろ、ほかのコンテンツ産業にしろ、まなちゃんが属している業界で自分が果たしていかなければならない役割ってなんだと思いますか? 「このへん変えたらもっと楽になるのに」とか、「こいつら消えてほしい」とか、逆に「こういう人たちはもっと増えてほしい」とか、あれば教えてください。

紗倉 一番思うのは、単純なことですけど、性に関する文化があまりにもずっと変わってないなって。全部「わいせつ」という言葉でくくって取り締まる的なことがほんとに多くて。

落合 その言葉によってマウンティングしてくる。おまえらは俺より下の立場だから言うこと聞け、みたいな。

紗倉 そうです。やっぱりAVは本職として長く続けたいと思っているんですけど、規制は多いし、常に圧迫されてる感じはあって、それを排除できればすごく楽だろうなと思ってまして。いろんな表現でそれを打開できればいいなっていうのはあるんですけど。

落合 日本はセクシーとかアダルトとか、こんなに産業化してるのに、それでいて隠してるっていうことが変だなとすごく思ってるんですよ。なんかね、社会全体が童貞臭い。

紗倉 童貞臭い(笑)。

落合 性について語ることは普通じゃないですか。なのに、それをわざといやらしく遠ざけるというか、おどおどしてるというか…。

紗倉 やっぱり今の上の世代が堅いだけで、私たち世代の多様化した思考を使えば、いつか更新されるだろうと期待はしてます。“普通”っていうものを押し付けてくる人たちってかなり上の世代じゃないですか。今はその人たちが権力を握ってますけど、いつかは交代するときが来るので。

落合 革命はこれからだってことですね。僕も完全に同意です。

それでいうと、われわれの世代って、アダルトコンテンツに対してネガティブな印象持ってる人は少ないじゃないですか。で、これは僕自身の分野についても言えることなんだけど、自分たちと同世代の人が、古くさい考え方とか、普通一辺倒の考え方を持っているのを見つけると僕は結構ムカつくんですよ。だけど、そうやっていずれは社会が更新されるっていう風にとらえるのはポジティブかもしれないですね。ありがとうございました。

●第3回⇒落合陽一×紗倉まな――学生たちとの質疑応答「規制されすぎた反動が爆発する瞬間がくる」

■「#コンテンツ応用論2017」とは?本連載は筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。“現代の魔法使い”こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トーク。学生は「#コンテンツ応用論2017」つきで感想を30回ツイートすれば出席点がもらえるシステムで、授業の日にはツイッター全体のトレンド入りするほどの盛り上がりです。

落合陽一(おちあい・よういち)1987年生まれ。筑波大学学長補佐、准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピューターが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。1月31日に新刊『日本再興戦略』(News Picks Book、幻冬舎刊)が発売予定。

紗倉まな(さくら・まな)1993年生まれ、千葉県出身。高専在学中の2012年に18歳でAVデビューして以来、トップ女優として君臨。一方でエッセイや小説の執筆、地上波含む各メディアへの出演など枠にとどまらず活動する。2016年にはトヨタ自動車の情報サイトでコラム連載がスタートし話題に。著書にエッセイ『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』(宝島社)、連作短編小説『最低。』(角川文庫)、長編小説『凹凸』(KADOKAWA)など。『最低。』は瀬々敬久監督により昨年映画化され、第30回東京国際映画祭コンペティション部門に選出された。

(構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博 協力/小峯隆生)