「コンテンツ応用論」2ndシーズン最終回はいつも以上に異色の講義となった。
ゲストは週刊プレイボーイ本誌でもコラムを連載中の“まなてぃー”こと紗倉まな。人気AV女優としてのみならず、エッセイに小説に文才を発揮する作家としても活躍している彼女の招来は、その才能に惹かれた落合陽一のたっての希望だった。
有名女優の来校とあって、会場は多くの立ち見が出る超満員。そして“男性密度”もいつもより高め。学園祭的な熱気がこもる中、第1回、第2回と配信したその続編、最後は…。
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落合 じゃあ、ここから学生さんの質問をとります。質問ある人は手を挙げて!
■質問1 学生A 僕は最近の千葉市のエロ本規制に代表される、表現の自由とエロの対立に興味がありまして、これはこれから起こる言論統制の発端だと思っています。“えろ屋”さんとして、クリエイターとして、2020年の東京オリンピックに向けて世間からエロを排除せよという流れとか、AVにおけるモザイクのような表現業界全体の自主規制についてご意見を聞かせてください。
紗倉 私、ほんとにコンビニからエロ本がなくなるのは悲しくて。ただ、2020年にオリンピックがあってエロが規制されても、またその後、規制されすぎた反動が爆発する瞬間がくると思っているので。そのとき私がいくつになってるかわからないですし、熟女女優かもしれないんですけど、また何かできることがあるかもしれないし、自分たち以下の若い女のコとかAV女優のコとかが何か変えていくようなきっかけを作り続けていくんじゃないかなって期待してます。なので、悲しいんですけど、そこは受け入れてるところがすごく多いです。
モザイクに関しては、極小モザイクをかけてもよく「極小じゃないじゃないか」っていうクレームが来ることがあるんですが…。
落合 あれって、そもそもなんでモザイクかけるんだっけ? あんなのどうだっていいと思うんですけどね。だって、皆さまがこれだけ生まれてるってことは、お父さんお母さんがセックスしてできたってことですよね。そうじゃないと子どもは生まれないからね。
昔、「おじいちゃんにもセックスを」っていう『宝島』のコピーがあったんですよ。いいコピーだなって思いました。そういうことも考えないとね。老人ホームって大変らしいですね。
紗倉 そういうヘルパーサービスの方がいらっしゃいますもんね。
落合 います、います。で、表現の自由について僕がどう思うかというと、そういうローカルルールの古いやつは見直して、場合によっては全部撤廃しちゃっていいと思うんだよね。規制しても意味ないじゃん、結局、グーグル検索するじゃん。子供の目に触れないようにって言ってもしょうがないし、それより避妊の仕方を教えてあげたほうがいいって気がしますけどね。
■質問2 学生B 私は女として、エロで表現することにとても興味を持っています。“えろ屋”を続けるモチベーションとして、自己表現としてビデオ作品が完成していくのが好きなのか、それとも自分の行為でファンや目の前の相手に喜んでもらうのがうれしいのか、もし選ぶとしたらどちらか教えていただきたいです。
紗倉 それは私、どちらもあって。この仕事を始めるまでは、作品を作りたいっていう気持ちがモチベーションとしてあったんですけど、いま言ってくださった、喜んでもらえるうれしさも、実際に見てもらって反響があると、自分のモチベーションの一部になってきたというところが大きいです。
そういうのに興味がおありなんですね。ありがとうございます。すいません、ちょっとニコニコしちゃった。
学生B これからも頑張ってください。応援してます。
紗倉 ありがとうございます。
そもそも保健体育っていう名称も微妙な…
■質問3 学生C AV女優をやって主張する以外に、日本人のエロコンテンツに対する偏見を払拭(ふっしょく)する方法って何かあると思いますか? 私はエロコンテンツに対しての偏見を払拭したいと思っているんですが、それには女優をやる以外ないのかな?と思っていて、意見が聞いてみたいです。
落合 いい質問ですよ。どっきりしちゃった、ちょっと。
紗倉 難しいですね。それが見つけられたらすぐにでも実行してると思うんですけど…。
落合 僕は、ひとつは文部科学省だと思っていて。なんか、保健体育の授業って男女別々にやることも多いじゃないですか。ああいうのはよくないなって思ったりとか。教育のカリキュラムとして、性に大っぴらな場を作るっていう発想は悪くないんじゃないかな。
紗倉 保健体育の授業はめちゃくちゃ影響あると思います。私、女優を始めて7年目になるんですけど、恥ずかしながらコンドームのつけ方すらいまだにうまくできなくて。「あっ」って思うこととか、すごくあるんですよ。避妊具をつけることってすごく大切なことなのに、知識という面でもちゃんと教わらず、「あとはご自分で」と言わんばかりにおざなりなところが多いし。そもそも保健体育っていう名称も微妙な気がします。
落合 説明書作ってくれなきゃ、コンドームつけられないですよね。
紗倉 うん、難しいですよね。何歳くらいからやったらいいのかはちょっとわからないですが、授業とか、みんなが共通して通うところでそういう知識を与えてくれる環境ができるっていうことが、一番性に対しての意識が改善されることかな、と。そこから偏見も薄れていくと思うので。
落合 大っぴらに言う習慣をつけるには、「まなちゃん、かわいいよね」みたいなことが普通にお茶の間で言われるようにしていったほうがいいんじゃないですか? そうするとキャリアのひとつとして、AVってありだっていう感じになるので。
かつては飯島愛さんがそういうキャラだったような気がするんですよ。それに対して、昭和のおばさんたちはしかめっ面をしながら「あのコ、元AVだから」ってずっと言い続けてたんですが、その感じじゃなくなればいいんですよ。
紗倉 そういえば以前、「さくらまやちゃんがCMに出てきて、間違えて親の前で『紗倉まな』って言っちゃって気まずい雰囲気になった」とかいう人のツイートを見たことがあって。私はほんとに申し訳ないことしてるなと思ってたんですけど、今のひと言に救われる思いでした。
落合 いえいえ、なんで気まずくなるのかよくわかんないですよね。ちなみに僕、週プレで連載を始めたときに、うちの業界のある大御所の先生から「女のコのおヘアが出てる雑誌に連載を持っているのはどうなのかね」って言われて。
「先生、じゃあ読んだんですね。仲間ですね」って言ったら、めっちゃ仲良くなりました。その人、「おヘア」って言ってる時点でイケてるじゃないですか(笑)。おヘアっていいな、品があるなと思って。
紗倉 イケてますね。
落合 イケてるから、あとは少し殻を破ることができれば仲良くなれるんですよ。だから要は、大っぴらにすればいいんですよ。
聞かれてイヤなことは人に訊かないように!
■質問4 学生D いつもお世話になってます(笑)。好きな企画とかはありますか?
落合 なんの企画?
学生D AVの企画です。
紗倉 何があるかなあ。
落合 みんな知ってるAVの企画コンテンツってなかなかないよね。「マジックミラー号」くらいじゃないのかな。あとなんかある?
紗倉 うーん…。
落合 (学生に)キミは何が好きなの?
学生D ちょっと、公衆の面前では…。
落合 だから! キミが聞かれてイヤなことは人に訊(き)かないように!って、さっき言ったでしょ?
学生D そうですね、すみません。普通にマジックミラー号とかも好きです。
紗倉 私は出る側なので、好きというか、仕事でやりやすいなって思ったのは『出会って4秒で合体』っていう作品があって。それはすごく早く撮影が終わったんです(笑)。ほんとにすぐ終わっちゃう。
落合 出会って4秒って、けっこう無理だよね。
紗倉 あ、でも実質、出会って4秒ではなかったです。32秒くらいかかった。(笑)
落合 あれ、キャッチコピー考えた人、天才だよね。
■質問5 学生E 自分は二次元の性コンテンツを見るんですけど、二次元のエロについてどう思われますか?
紗倉 私もよく見ますよ。あれはある意味、人間の理想を描いたものなので。AVもそれを求めてつくられてるんです。二次元のエロの世界観に人間も近づこうとして、それが台本になる、みたいな。だから一番ベーシックだと思います。
一方をなくすと、排除していくことになる
■質問6 学生F エロコンテンツの規制という話がありましたが、例えばレイプとかそういう犯罪が起こったときに、犯人の部屋にアニメのDVDが大量に置かれていたとか、AVが大量にあったとか、それをメディアがいちいち報道して、誘導して、面白がっているように見受けられるのですが、それをどう思うか伺いたいです。
紗倉 確かに、そういうニュースのときには「異常な考えを持つ人は性癖も極端だ」的なことがよく言われたりしますよね。でもそれを見て「そうなんだ! だから異常なんだ!」って思う人と、「いやいや、(報道に)悪意があるよね。人間だし、それくらいあるでしょ」って思う人と、分かれるじゃないですか。その一方をなくすっていうことになると、そういう考えを持っている人たちを排除していくことになると思うので…。それはそれでひとつの調和なのかな、という気がしますね。
落合 俺はね、人の興味は人それぞれだから、そういう報道とかに対して「だから?」って言う人もいるべきだと思うんだよね。関係ないでしょ、みたいな。「家からAV出てきたよ」「で?」って。批評力を持ちましょう。
■質問7 学生G 先ほど、原風景として女性の裸の美しさとか、あとは橋とかがお好きだとおっしゃっていましたが、個人的にはそれは曲線美とか、そういうものがお好きだというのが背景にあると思うんですけど、そう思われたことはありますか?
紗倉 ああ、確かに。私は何を美しいと思うかというと、建物や橋ってある種、なんか空間から切り取られてる感じがするんですよ。例えば工場があって、夜の背景があるとすると、夜の背景から建物が切り離されてるような。そういうものを感じられるものって、だいたい曲線が美しかったりするわけじゃないですか。女性の体もそうで、画面の中でひとつだけ浮いて見える。その切り抜きの線引きとしての曲線美はすごく美しいというか、綺麗だなと思うんですけど。
落合 なるほどね。じゃあ和服とかも好きなんですか?
紗倉 和服も好きですね
落合 なるほど、わかった。(学生に対して)気持ちわかる?
学生G なんとなくわかります。僕は数学専攻なんですけど。
落合 あなたが好きな曲線はどういうもの?
紗倉 聞きたい!
学生G 僕ですか? 僕個人は、点が好きです。
紗倉 点かあ。草間彌生的な点ではないですよね。
学生G じゃなくて、普通のただの点です
落合 彼はすごいですよ。2次元でもなくて、0次元or1次元萌え。
紗倉 なんかすごいな。新しい。言ってみたいです、点が好きって。
落合 というわけで、紗倉まなさんにお話いただきました。拍手!
■「#コンテンツ応用論2017」とは? 本連載は筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。“現代の魔法使い”こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トーク。学生は「#コンテンツ応用論2017」つきで感想を30回ツイートすれば出席点がもらえるシステムで、授業の日にはツイッター全体のトレンド入りするほどの盛り上がりです。
●落合陽一(おちあい・よういち) 1987年生まれ。筑波大学学長補佐、准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピューターが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。1月31日に新刊『日本再興戦略』(News Picks Book、幻冬舎刊)が発売予定。
●紗倉まな(さくら・まな) 1993年生まれ、千葉県出身。高専在学中の2012年に18歳でAVデビューして以来、トップ女優として君臨。一方でエッセイや小説の執筆、地上波含む各メディアへの出演など枠にとどまらず活動する。2016年にはトヨタ自動車の情報サイトでコラム連載がスタートし話題に。著書にエッセイ『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』(宝島社)、連作短編小説『最低。』(角川文庫)、長編小説『凹凸』(KADOKAWA)など。『最低。』は瀬々敬久監督により昨年映画化され、第30回東京国際映画祭コンペティション部門に選出された。
(構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博 協力/小峯隆生)