11月1日、道路交通法が改正され、自転車に対する罰則が非常に厳しくなった。違反をすると懲役や罰金が科せられるのだ。
では、具体的には何がどう変わったの!? 新設された罰則を含め、今回の改正ポイントを専門家に徹底解説してもらった。
■酒気帯び運転も刑罰の対象に!
チャリ(自転車)の事故がヤバいことになっている!
警察庁によると、今年上半期(1~6月)、ながらスマホによるチャリの事故は全国で18件。そのうち死亡事故が1件、重傷事故が17件である。この数字は前年同期比の2倍超で、統計が残る2007年以降で最多というから穏やかではない。
そんな背景もあってか、11月1日からチャリに関する法律が変わった。モーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏がこう解説する。
「簡単に言ってしまえば、自転車もバイクやクルマ同様にながらスマホや酒気帯び運転が罰則の対象になりました。詳しくは表にまとめたので見ていただきたいのですが、違反者には懲役刑、あるいは罰金刑が科せられます」
言うまでもなく、罰則強化の目的は増加傾向にあるチャリの事故防止だ。さらに青木氏はながらスマホの危険性についてこう語る。
「例えば時速30キロで走る原チャリ(原動機付き自転車)の運転者が、2秒間だけスマホの画面を見たとします。すると、その間に約17mも進んでしまう。
運転している本人はほんの一瞬かもしれませんが、極端に言えば目隠しをして17m走行したのと同じ。ちなみに自転車でもロードバイクなら時速30キロ程度、ママチャリでも平均時速は15キロといわれています」
ところで、今回の改正道交法では酒気帯び運転も罰則の対象になった。しかし、これまでも酒を飲んでチャリを運転することは法律で禁止されていたはず。いったい何がどう変わったのか。
「これまで罰則の対象となっていたのは、いわゆる正常な運転ができない酒酔い運転で、酒気帯び運転(呼気1L中のアルコール濃度が0.15㎎以上)は罰則の対象外でした。
しかし、酒気帯び運転による死亡や重傷事故率は、飲酒していない場合と比べて、約1.9倍に高まります。そういう背景もあり、酒気帯び運転にも罰則が新設されました」
実は罰則を受けるのはチャリの運転者だけではない。
「今回のポイントは、酒の提供者や自転車の提供者も罰則の対象になったことです」
普通に考えて、チャリの酒気帯び運転も、ながらスマホも危険極まりない行為だ。では、なぜ人は危険な行動を選択してしまうのか。そこにはどんな心理が働いているのか。犯罪心理学者で東京未来大学副学長の出口保行(やすゆき)教授はこう解説する。
「危ないとわかっていても危険な行為をしてしまうことを"リスクテイキング"といいます。その背景にあるのは、"センセーション・シーキング"。つまり、刺激を求めること。人というのは何か刺激を得ると、さらに強い刺激を求めるようになるのです」
危険運転がエスカレートするのもそのため。さらに出口教授はこう続ける。
「自分は事故を起こさないという慢心のような妙な自信も背景にあります。また、現代社会では"スマホ中毒"といわれるように、スマホを見ることをやめることができない現象が起きています。
スマホで何かを見ていないと安心できない、メールやLINEが来ていないか常に確認しないと安心できないなど、見ていないことで情緒が不安定になったり不安が強まったりします。そうすると運転中もつい見てしまうという現象につながります」
■改正道交法により事故や違反は減るのか
実は今回の改正道交法の施行により、モペット(ペダル付きの原動機付き自転車)のルールも明確化されたという。前出の青木氏が説明する。
「モペットは電動モーターやエンジンで走行できる二輪車で、法律上、一般原付バイクなどに該当します。当然、運転免許が必要ですが、ペダル付きのため自転車と勘違いされやすく、無免許運転などの違反が相次いでいました」
実際、東京都内ではモペットによる人身事故の件数が、今年9月の時点で、すでに昨年を上回っているというから、かなりヤバい状況だ。
「今回の改正道路交通法ではペダルをこいで運転するモードに切り替えても、自転車と同じ扱いにはならず、バイクの交通ルールを守る必要があります。具体的にはナンバープレートの取り付け・表示やヘルメットの着用、そして言うまでもありませんが、無免許運転はアウト!
もちろん、歩道を走ることもできません。事故や違反を防ぐには利用者だけでなく、モペットに興味を持つ人たちにも、モペットはバイクと同じ交通ルールなのだと認識してもらうことが大切では」(青木氏)
ちなみに11月上旬、東京都内の繁華街(新宿、渋谷、上野など)ではナンバープレート未装着のモペットが信号無視、逆走、歩道走行などやりたい放題! 加えて、ながらスマホのチャリもワンサカ......。今回の罰則強化によりチャリやモペットの悪質運転は減るのだろうか。自動車評論家の国沢光宏氏は言う。
「改正道交法が施行された11月1日に警察が取り締まりを行なう姿を御用メディアが大々的に取り上げていました。しかし、重要なのは警察が粘り強く新ルールを周知すること。そして、自転車やモペットの違法運転の取り締まり強化を続けられるかどうか」
まだまだチャリやモペットを軽く考える人は多い。しかし、命を落としたり、奪ったりする事故もありえる。襟を正して乗るべし!