来年開館予定の和歌山市“ツタヤ図書館”の誘致を巡り、ある疑惑を指摘する告発文書が市民団体の関係者のもとに届いた(写真は海老名市ツタヤ図書館) 来年開館予定の和歌山市“ツタヤ図書館”の誘致を巡り、ある疑惑を指摘する告発文書が市民団体の関係者のもとに届いた(写真は海老名市ツタヤ図書館)

「これ、表に出ると、犯人捜しが始まるんと違いますか?」

「タレコミ」が世に出た時の組織の怒りを心配する関係者の話を聴きながら、筆者は1枚の「怪文書」に見入っていた。

和歌山市図書館 指定管理者疑惑について」と題したその文書には、差出人名はない。特定の人物を非難したり、貶(おとし)めたりする言葉もない。その代わりに、淡々と“ある事実”だけが書かれている。

それは、昨年末に和歌山市が行なった市民図書館の指定管理者(運営者)選定に不正があったことを示唆したもので、その経緯が簡潔に書かれていた。

来年完成予定の駅ビルに移転する、その新しい市民図書館の指定管理者にはレンタル大手TSUTAYAを運営するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が選ばれた。館内にはスターバックスや蔦屋書店を併設、いわゆる「ツタヤ図書館」誘致が決まったのだが、その選定プロセスがいかに不透明であったか、「CCCありき」ともいえる疑惑について、その経緯をこれまでもリポートしてきた。

その一連の記事では、様々な側面から和歌山市当局とCCCに、日本一の図書館受託会社TRC(図書館流通センター)をも巻き込んだ官製談合の疑惑が浮かび上がっている。

筆者が「怪文書」の存在を知ったのは、4月下旬のこと。その数日前、差出人不明の文書がある市民団体の関係者の元に送られてきたとのことで、ひょんなことから仲介者を通して、その怪文書全文のコピーを入手した。

 筆者に届いた怪文書(告発文書)の文面 筆者に届いた怪文書(告発文書)の文面

まずは、基本的な事実認識についてだが、告発文書の本文は「15年まで、市はTRCに業務を委託する予定であった」から始まる。そして、市民図書館が入居する予定の南海市駅ビルについて「17年(に)駅前開発を行う設計業者を市で業者選定を実施し株式会社アール・アイ・エーが選んだ」とした上で「駅前再開発の設計はアール・アイ・エーが設計した」としている。

株式会社アール・アイ・エーは、CCCのフラッグシップ・代官山蔦屋書店を手掛けたことで知られる設計会社である。2月7日に配信した記事(著名教授も「だまされた!」ーー和歌山市・ツタヤ図書館“談合疑惑”の裏で、競合“ガリバー企業”の不可解な影)でも報じた通り、新しい市民図書館の運営者の椅子は当初、傘下のシンクタンクが基本計画策定業務を受託したTRCがほぼ手中に収めたものと見られていた。

ところが、市当局はある時期から突然CCCに方針転換。この文書でも「17年5月の基本設計発表後、市、アール・アイ・エー、CCCが密かに設計打ち合わせをやり、CCCありきでことがすすんでいた」と続き、事態が急展開したことをほのめかしている。

さらに、注目すべきなのは、その後のくだりである。「やりとりを特定されないよう、電話でやりとりを進めていた」の部分は、筆者の取材でも知り得なかった隠蔽工作が具体的に書かれている。

内部者からの“不正”の告発か

第2のポイントは、CCC選定までの裏事情である。

「そのままCCCで業者を決定しようとしたが理由付けと議会説明が必要であることが判明したため急遽公募を行うこととなり、1ケ月の短期間で業者選定となった」と、市側のコンペ開催に至るまでが書かれており、これも関係者しか知り得ない情報といえる。中でも、コンペに参加したTRCについての記述に注目したい。

「TRCは16年以降市から連絡もなく、急遽応募してくれと要望されたため準備が整わずまた他物件もCCCに取られていたためやる気のない提案になった」のくだりは、なかなか興味深い。

2月6日の配信記事(「黒塗り」資料に隠された重大な疑惑…和歌山市“ツタヤ図書館”は官製談合の産物なのか?)では、図書館民営化までのレールを敷いて、誰もが運営者内定と思われていたTRCがある時期からなぜか「市に出入禁止になっていた」との関係者コメントを紹介している。その後、一転して、巨額の補助金を受給するスキームをCCCサイドが提案したことで大逆転。市当局は、CCC運営のツタヤ図書館誘致に大きく傾いたのではないかと読んでいる。

具体的に、TRCが市側から応募を要請されたことや、結果としてやる気のない提案になっていたとまでは踏み込んでいなかったが、告発文書にはそこが明確に記されている。

最後のポイントとなるのが、「議会での追求をさけるためにあえて公募決定期間を議会開催中に設定し、議員からの質疑をさけまた市長のきもいりである図書館移転をスケジュールとおりに進めるため、強引な手法がとられた」のところだ。

この部分は、CCC選定までの経緯を知っている者にとって、特に目新しいものはない。だが「あえて公募決定期間を議会開催中に設定」とか「議員からの質疑をさけ」など、より具体的で生々しい表現を使っているところに当事者感が滲(にじ)み出ているようにも思える。

当初、誰かが「創作」して、面白がっているデタラメ文書かもしれないと見ていたが、これらの材料を総合的に見ると、内部の者による不正の告発の可能性も決して否定できないと判断されるのだ。

では、この「告発文書」の内容がもし真実だとしたら、一体、誰がなんの目的で書いたのか。まず可能性として真っ先に思い浮かぶのは、市の関係者による内部告発である。

昨年12月29日配信の記事(内部文書を徹底検証ーー疑惑の“ツタヤ図書館“が新たに選定された和歌山でも裏で画策…)では、ツタヤ図書館の先行例である宮城県・多賀城市(2016年3月新装開館)において、市が隠蔽したCCCと市教委スタッフの詳細な打ち合わせ記録が匿名で関係者に送付され、当初からあからさまな出来レースだった実態が暴露されている。

多賀城市のケースでは、図書館のツタヤ化を快く思わない市の関係者によるリークではないかとも言われており、その流れからすれば、今回の和歌山市の件も同じく、市の関係者によるものと考えてもおかしくはない。

ところが、全国の図書館民営化事情に詳しいある図書館関係者A氏は、「和歌山市のケースは必ずしも市関係者とは限らない」とし、次のふたつの記述内容に着目した。

(1)17年駅前開発を行う設計業者を市で業者選定を実施し株式会社アール・アイ・エーが選んだ (2)「TRCは16年以降市から連絡もなく、急遽応募してくれと要望されたため準備が整わずまた他物件もCCCに取られていたためやる気のない提案になった

まず、他の記述では筆者がこれまで報じてきた内容とほぼ一致するのに対して、(1)だけは事実認識が根本的に異なっている点だ。取材では「アール・アイ・エー」を選んだのは、形式上は和歌山市ではなく、新図書館が入居する予定の駅ビルの施主である南海電鉄であることがわかっている。しかし完成後、市に所有権を移転される施設の設計事業者を民間企業が決定するのは、あまりに不自然だ。

告発者は図書館界のガリバー企業関係者?

その点、「市で業者選定を実施」していたとする「怪文書」の内容は、その内実を暴露したものである可能性も浮上してくる。

その上で、ここまでは市の関係者によるリークの可能性を示しているが、(2)のほうでは、少し様相が違ってくる。前出の図書館関係者がこう解説する。「この内容は、TRCサイドに立って書かれています。いずれもTRCの内部事情を知らないと書けません」

改めて見てみると、「16年以降市から連絡もなく」「急遽応募してくれと要望されたため準備が整わず」「他物件もCCCに取られていたためやる気のない提案に」と、いずれも主語はTRCになっている。確かに、市の内実に通じているばかりか、TRCの立場をも代弁しているようにみえるのだ。

「何年も前から各方面に働きかけて、指定管理者制度を導入するまでの道筋をつけたTRCの担当者にとって、今回のCCC選定ははらわたが煮えくり返るような結果だったでしょう。当然、自社が指定管理者に選定されると思っていたところに突然、CCCが自社の息のかかった設計事務所の力を借りた巨額の補助金付スキームで割り込んできたのですから…」(前出・図書館関係者A氏)

つまり、このような文面を書けるのはTRC側に立つ市の関係者、もしくはこの件で中心的に関わってきたTRCの社員、あるいはその社員がトップの許可または指示を受けて出してものではないかというわけだ。

一方で、別の図書館関係者B氏はこんな見方を披露する。

「(これまでの経緯を見れば)市がTRCを使って、議会対策や世間体を繕ったのは事実でしょう。もしそうならば、CCCに変える代わりに裏でTRCに代償を与えていたかも。ただ、その代償がなかったからこそ、こういう文書が出てきたとも考えられます」

しかし、それにしてもわからないのがコンペに急遽、TRCを参加させたことだが…。告発文書では「そのままCCCで業者を決定しようとしたが理由付けと議会説明が必要であることが判明したため急遽公募を行うこととなり、1ケ月の短期間で業者選定となった」--となっているが、CCCを図書館の指定管理者にした他の自治体はどこもコンペなどせず、CCCと特命随意契約を交わしている。和歌山だけがなぜ、「理由付けと議会説明が必要であることが判明」したのだろうか。

その点についても、前出の図書館関係者A氏はこう解説する。

「特命随意契約ができなかったのは、すでにTRCが受けることが役所も含めた関係各所に浸透していたからでは…。このような業者ではダメだという意見が出るかもしれず、そこで公開で競争させて、CCCが勝つというセレモニーか必要だったのではないかと」

この文書について、和歌山市の担当者に記載事項を、ひとつひとつ列挙して確認を求めたところ「1ケ月の短期間で業者選定となった」というくだりのみ「事実」と認めたが、その他は全て「事実ではありません」との回答が返ってきた。

また、TRC広報室に対しては、告発文書中のTRCが関係した部分のみを抜き出して確認を求めたところ、以下のようにコメントを全面拒否する旨の回答があった。

「質問の前提とされている文書の出所・信憑性が不明であること、及び そもそも、ご質問の中で前提とされている内容と弊社の認識は一致しないことから、そのような文書を前提にしたご質問にはコメントいたしかねます」

いずれにしろ、真相は依然として薮(やぶ)の中だが、和歌山市民図書館は来年、「ツタヤ図書館」として開業するまでに、これら数々の疑惑を払拭(ふっしょく)してクリーンなイメージを回復できるだろうか--。

(取材・文/日向咲嗣)