
山本シンヤ
やまもと・しんや
山本シンヤの記事一覧
自動車研究家。自動車メーカーの商品企画、チューニングメーカーの開発、自動車専門誌の編集長などを経て2013年に独立。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営
2024年12月25日に発売された注目モデル。ついに試乗車が登場し、その実力を公道で体感できるように
BMWのハイパフォーマンスモデル「M5」に、ついに、"ツーリング(ワゴン)"仕様が初登場! しかもその正体は、PHEVなのに常識をぶち壊す超ド級スペックって......マジか!? というわけで、自動車研究家・山本シンヤ氏が公道でガチ試乗。日常使いできるのか、それとも刺激が強すぎるのか? その実力を徹底検証してみた!
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第3世代、第5世代にも存在したM5ツーリングだが、日本では正規販売されず。今回の新型が初の正規輸入車
ボディサイズは、全長5095mm×全幅1970mm×全高1510mm、車重は2490kg
――今回試乗したのは、BMWのM5ツーリング。ハイパフォーマンスなPHEVという、ちょっと不思議なモデルですが、率直な印象は?
山本 見た目は5シリーズですが、フロント285/リア295という極太タイヤを収めるために全幅が70mm拡大されていて、迫力が段違いです。M5としては7代目になりますが、ツーリング(ワゴン)の日本導入は今回が初。価格は2048万円ですが、試乗車はオプションがテンコ盛りで2225万円でした。
――エグいですね! パワートレーンのスペックは?
山本 4.4リットルV8ツインターボにモーターを組み合わせたPHEVで、駆動方式は4WD。システム総出力は727馬力、最大トルクは1000Nmと、スーパースポーツ並みのスペックです。22.1kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、EV走行は約70km可能です。
4.4リットルV型8気筒ツインターボ+モーターで727馬力を発揮。BMW流PHEVの到達点が、ここにある!!
――スゲー!
山本 ちなみに車重は約2.5tですが、時速100キロ到達はわずか3.6秒。最高速は305キロ(Mドライバーズ・パッケージ装着時)です。
――そもそもの話ですが、M5のルーツって?
山本 BMWのM部門は、もともとモータースポーツの研究開発を目的に設立された子会社です。代表的なのはM3で、グループAというレースカテゴリーで勝つために開発されたモデル。3シリーズに強力なエンジンとブリスターフェンダーを装備し、まさに〝勝つためのクルマ〟でした。
――M5はM3の兄貴分という位置づけ?
山本 M3が〝戦うクルマ〟なら、M5は〝高性能なロードカー〟。見た目は控えめで、エアロも最小限。エンブレムを外せばただのセダンに見える。
でも、1984年の初代M5にはBMWの異端児「M1(ミドシップのスーパーカー)」の直6・3.5リットル・260馬力エンジンが搭載されていて、当時は〝世界最速のセダン〟と呼ばれていました。まさに〝羊の皮を被った狼〟です。
内装の注目は、12.3インチのインフォメーションディスプレーと14.9インチのコントロールディスプレー
――最新のM5、実際に走らせてみてどうでしたか?
山本 サーキットでは圧倒的な速さを発揮するでしょうし、2t超えの重さも感じさせないと思います。ただ、今回試乗したのは一般道だったので、ちょっと落ち着かない印象でした。
街中ではEVモードで静かに走れますが、恐らくアウトバーンのような高速域で真価を発揮するセッティングですね。基本は4WDですが、電子制御をオフにすれば後輪駆動にもなり、ドリフトも可能です。
――ワインディングロードではどうでしたか?
山本 最近の車は技術の進化で、車体が重くても軽く感じることが多いですが、M5は重いクルマを力業で曲げている感覚が強い。もちろん、どの回転域からでも瞬時に加速できるパワートレーンや、路面に吸いつくようなコーナリング性能には驚きました。
でも、ワインディングでは「駆け抜ける喜び」よりも「踏み抜けられない悩み」のほうが強かったですね(汗)。
――BMWは〝スポーツ〟のイメージが強いブランドですが、実際は?
山本 BMWが〝スポーツカー〟と呼んだのは、M1(ランボルギーニが開発委託)と現行Z4(兄弟車はトヨタのGRスープラ)くらいです。でも、今回のM5はスポーツカーを超えて、スーパーカー並みの性能を持っています。
――居住性は普通の5シリーズと違う?
山本 PHEVなのでガソリン車と比べると荷室のフロアが少し高くなっていますが、スペースはほぼ同等。ホイールベースも3005mmあるので、リアシートも広くて快適。
見た目はガチで走る系。でも座ってみると、快適機能が鬼盛り状態
後部座席は、めっちゃ広い。しかもちゃんと3人座れるようになっている
荷室容量は最大1630リットル。高性能モデルでありながら、積載性も高水準
――ズバリ、M5は欲しくなりました?
山本 僕は試乗したクルマはすぐ欲しくなるタイプなんですが、M5は初めて「ちょっと考えてからにします」って思いました(笑)。確かにスゴいクルマですが、〝味濃いめ、油多め、野菜増し、ニンニクも何もかも全増し〟って感じで、毎日付き合うにはちょっと......。でも、そういうのが好きな人にはたまらないクルマです!
――確かに今、求められている要素が全部盛り込まれている感じのクルマではありますよね。
山本 昔の三菱ランサーエボリューションVが出たときの〝テンコ盛り感〟に近い。重さやサイズといった不利な要素を技術で克服したスポーツモデル。今は機械感が強めですが、ここに官能性が加われば、さらに怖い存在になる。
「何ひとつ我慢したくない」というワガママな人には、理想の一台。価格はスーパーですが、内容を考えれば〝お買い得〟かもしれません。