あの国民的バラエティ番組のスピリットを引き継ぎ“友達の輪”を!とスタートした『語っていいとも!』。
第53回のゲストで俳優の林遣都からご紹介いただいたのは俳優の駿河太郎さん。
バンド活動を経て、30歳で俳優転向。11年のNHK朝ドラ『カーネーション』でヒロイン・糸子の夫役に抜擢、注目されると、ドラマ・映画に出演作多数の個性派バイプレイヤーとして活躍。
国民的タレント・笑福亭鶴瓶の息子であることも知る人ぞ知るだが、この対談当日、なんと大雪で交通網は大混乱…取材場所に遅刻する大失態をしてしまったこちらを、父親似の人懐っこい笑顔で迎えてくれたーー。(聞き手/週プレNEWS編集長・貝山弘一)
―すいません、本当にお待たせてしてしまって申し訳ないです。
駿河 全然大丈夫です。お気になさらず(笑)。
ーこの対談連載自体がライブ感覚というか、茶飲み話か居酒屋トークみたいな感じでテーマもなしにやらせていただいてるんですが。
駿河 そうみたいですね。読んでたら、結構いろんな面白い方が出てるんで。読み応えもあるし。僕は今回、お話がくる前から読んでて、えっと、誰だったかな…?
―ありがとうございます。それは嬉しいですね。
駿河 一番最近でいうと、太賀のは読んでたんですけど。「あぁ、いい仕事してるなぁ」と思って。あと、結構、最初の頃に出てた…そう! ピーターさん!
―ピーターさんのを読まれてたんですか(笑)。阿川佐和子さんからのご紹介でね。自分の家の屋上にある露天風呂に一緒に入った話までしてくれて。
駿河 読んでました(笑)。「面白いこと始まったなぁ」とは思ってて。記事自体も面白かったんですよ。まさか自分が出ることになるとは思ってなかった(笑)。
―これは本当にガチで友達を繋がせていただいてるんで。「まさかこの方と今、このタイミングで…」みたいなことがすごくあるんですよ。巡り合わせに驚くというか。今回、駿河さんのブログを読ませてもらってたら、片山萌美ちゃんとのツーショットがアップされてて。彼女もちょっと前にゲストで登場してもらってたんですけど…。
駿河 あぁ、出てましたね、出てました。
―うちのグラビアで僕も以前から面識があって。彼女とも「まさか、これに出てもらうとはね」っていう話になったんですけど。駿河さんは、僕も本当に気になっていた役者さんですし。
駿河 本当ですか?(笑) ありがとうございます。
―朝ドラの『カーネーション』(2011年)が大好きで。2000年代に入って、視聴率とか関係なしに僕の中では『ゲゲゲの女房』か『カーネーション』か…くらいな。それで、主人公・糸子の旦那役で認知させていただいたのが最初ですか。
駿河 たぶん、世間的にもそうじゃないですかね。『カーネーション』出させてもらったことで「世間的な認知が広がったかな」って気は僕としてもしますけどね。
「綾野剛に全部持っていかれましたね(笑)」
―また、いい役でしたもんね。いつもにこやかで、糸子に寛容な。
駿河 そうですね。当時、僕は本当にまだ役者はじめたばかりで、右も左もわからんままやってましたけど。今、考えると本当に周りの役者さんに助けられたなぁという。主役の尾野真千子ちゃんを筆頭に、小林薫さんとかお芝居させていただいて、ご飯連れっててもらったりとか。
皆さん、多くは語らないんですけど“役者道”みたいな…「こんな自由にお芝居できるんだ」っていうものを薫さんのイイ背中からだったり、あの時期に見させてもらったのはやっぱデカイですね。
―役者さんも素敵でしたし、僕はそんな簡単に感情移入しないというか、こんなものではまだまだ…というタイプなんですが(笑)、だいぶグッと目頭が熱くなるシーンも多くて。
駿河 はいはい、その気持ちはわかりますよ(笑)。泣かせるのでも、やっぱ前フリがあって。渡辺あやさんのいい脚本がね、読んでて面白かったんですよ。1日15分にしても、毎日続いて何冊もくるわけじゃないですか? 僕は実質、出てたの1ヵ月ちょっとでしたけど、1話からずっと読ませてもらって、もうどんどん読んじゃうんですよね。
やっぱ、糸子のあの役が脚本上でもすごく魅力的やし、それを尾野真千子ちゃんがやるっていうことで、より魅力的になってるから。「すげーなー…」って思いながら。
―ほんと、賛否両論ありましたが、個人的には彼女に晩年の最後まで演じ切ってほしかったですけどね(笑)。
駿河 ははは(笑)。でも、朝ドラがここ最近すごい注目されてますけど、きっかけを作ったひとつは『カーネーション』じゃないかなって、僕は勝手に思ってますから。その後だと『あまちゃん』とかも面白かったですけど、結構、でかかったんじゃないかって。
―話題にもなったし、また朝に観る習慣を戻したというか、定着させた感はありますよね。いや、『カーネーション』だけで、もうずっと1時間は語れるくらい(笑)。
駿河 あはは。でも、そう言ってくださる方が結構いるんで嬉しいなって。だから、それに参加させてもらえたのは、本当に役者として幸せやったなって思うんですけど。
―旦那役としては出征後に戦死して。その後、綾野剛さん演じるテーラー職人役に糸子もドラマも取られちゃったところはありますが(笑)。
駿河 いや、もう綾野剛に全部持っていかれましたね、あはは。でも、まぁそれでいいんですよ(笑)。
―あの時の立ち位置からすると、俳優のキャリアを始めたばかりでイイ役と巡りあったというきっかけにはなって。
駿河 そうですね、すごくいい…それもまた実は伏線があって。朝ドラの前に大河の『龍馬伝』も出させていただいてて。本当にギリギリ名前があるくらいの役だったんですよ。武市半平太の門下生みたいな、その他大勢のひとりなんですけど、エキストラではないくらいの。
その土佐藩のメンツは飲みに出歩く連中ばっかりだったんで、男ばっかりの現場だし、まぁ仲良くなるじゃないですか。飲んでヤイヤイやってる中で、その飲み会がすげー楽しいらしいって噂が広がっちゃって。そこに助監督されてた方がいらっしゃって、仲良くなって。で、『龍馬伝』が終わった後に、その方は大阪に異動になったんですけど。
僕がちょうど大阪でJCOMの情報番組にレギュラーを週1でやらせていただいてたんで、その人とたまにご飯を食べたりしてる時に「今、『カーネーション』の仕込みをしてる」と。それを聞いて、俺は大河もやってみて、あの男臭い中でキャラクターを出していくのがなかなか難しくてって話をして…。
それよりも昔から友達のお母ちゃんとかおばあちゃんにすごい気に入られて仲良くなるタイプやから「キャラクター的に朝ドラのほうが合うかも」って言って(笑)。
「全部がやっぱ親父のことがありきで…」
―売り込んで自分で押し出していったんですね(笑)。
駿河 そう。それで「オーディションあったら受けさせてほしい」っていう話から実際に始まったので。まぁ、やっぱり巡り合わせなんですけど。そこでご飯食ってなかったら、そんな話にもなってないし。その前に『龍馬伝』出てなかったらっていうのもあるから「本当に一期一会やな」って痛感しますし。
―でも、そもそもの流れで言ったら、ミュージシャンで音楽やられてて、30歳で役者をやろうという、その決断からね。
駿河 まぁ…ちょっとやっぱ頭おかしいんでしょうね(笑)。
―あはは(笑)。経歴を見ても、大阪芸大からイギリスに音楽留学して、相当、自由にきてるのでは?と思いましたが。
駿河 そうですね…自由にいきたいとは思ってますけど、お金も稼がないかんっていうジレンマもあるから(笑)。でも、自由に生きる以上、バイトしたり、なんとか日々の生活するくらいはできるっていう感覚も20代のバンド時代に培っちゃったんで。どうにかなるって思っちゃったんですよね。
―ありますよね。「なんとかやれるだろ」っていう若さゆえの…。
駿河 で、バンドマンやりながら、バイトして金貯めたのでレコーディングしてCD作って、全国回ってというのをずっとやってたから。なんか、30を目前にして、その役者に転身するってことに関しても、別にそんなに恐怖心はなくて。
―それは「音楽はここまででええわ」と興味の対象が変わったのか、それこそ「これから何を生業(なりわい)にして稼ぐか」という選択だったのか…。
駿河 いや、全く役者になる気はなかったです。ただ、バンドやってる時に、今ここにいるマネージャーが「役者やりませんか?」ってずっと声かけてくれてて。
―見初(そ)められたんですか?
駿河 うーん…見初められてなのか。今、後悔してるかもしれないですけど(笑)。20代半ばくらいで会って、そこから2年間くらい、事あるごとに役者になりませんか?って。何か誘ってもらうって、まぁ余程じゃないですか。
―まぁ一蓮托生というか、その人に運命を懸けるわけですからね。
駿河 でも僕はずっと断ってたんですよ。「いや、俺は音楽へいきたいから」っていうのもあったし、もっと前の話をすれば、うちの親父がやっぱいるんで。いくつかの事務所から「役者にいきませんか?」っていう話もきたんですけど、全部がやっぱ親父のことがありきで話してきてるっていうのが、どうも腑(ふ)に落ちんくて。
「現場でどんだけ怒られてきたか(笑)」
―まぁ、どうしてもそういう売りになるところでね、話を持ってこられるのは…。
駿河 そうなるんですけど。結局それって、商品としてしか見てないというか。金になりそうっていうだけじゃないですか。「売りになるのはそこだけなんかな?」っていうのが俺の中でどうしても腑に落ちなくて。
で、一番デカかったのがその話の中で「音楽やめて役者一本で」って言われたことで。それはもう、自分が今までやってきたことを全否定されてる気になるわけですよ。「あぁ、この人ではない」って思って。
―音楽のほうで、まだやりきれてない中途半端な思いも?
駿河 限界も感じつつ、でもやめられない自分もいて。で、その話を今のマネージャーに全部して、前にこういうことがあって、役者をやらせてもらいますけど「やっぱ音楽やめられへん」って…。そこで彼が「別に続ければ?」ってスタンスで話をしてくれて「あっ、じゃあ自分の好きなこともやりながら、人から求められていることにも挑戦してみよう」と思えたのが一番のきっかけかもしれないですね。
―ずっと誘ってもらって、2年間とか自分を見続けてもらった上で言ってくれてるという、この人になら委ねてもいいかな?と。
駿河 やっぱそんだけ信頼もできてるから。で、僕も初めてだし、一番ヤバかったのは、彼も元々、お笑いのほうの仕事がすごい長いんで。お笑い芸人しか育てたことがないっていう(笑)。両方イチからいくっていうのもデカかったですね。
―役者としてのスタートを一緒にやりたいくらいな。それは意気に感じるものもね。
駿河 まぁ、それで自分としても気が楽じゃないですか。どっちが力関係で上とかいうものじゃないけど、お互いフィフティ・フィフティでいたいというか。誰と接する時でも、やっぱ対等に話したいって気持ちが強いんで。そういう関係もハマったというか。
もちろん、ぶつかる時もありますけど、話せば大体のことは収まるし…。まぁ、お互いそれで現場で知らんことだらけやったから、どんだけふたりで怒られてきたか(笑)。
―ははは。それも含めて戦友のような(笑)。でも、仰ってたように、親の七光りというか、それに依存したくないという意識は強かったんですか?
駿河 それはもう、音楽選んだ時点からそうだったんで。親父にできひんことをやろうっていう考えでそこいってるし。結果、役者っていうフィールドにいますけど、仕事の選び方としては違うところを…それはまぁ、男としてっていうのもあるんですよね。
―生き様として、後を追いたくはない、みたいな。
駿河 もちろん尊敬はしてるし「すごい人やな」って。「この業界でずっと一線でやるのはさすがやな」と思うんですけど。どっかでやっぱ、たぶん小っちゃい頃から「駿河太郎っていう人間を認めてほしい」っていう思いのほうがずっと強かったんやろなって。やっと最近、そこが取れたんかなとは思ってますけど。
それでもやっぱ、取材受けたりとかってなった時にそこの名前が出るっていうのは、自分ではまだまだやなって。まぁ、今は越えようとかいうのでもない、遠回りでもいいから駿河太郎っていう役者道を極めたいっていう気持ちのほうが強いですかね。
「半分、血は入ってるなとやっぱ思います」
―まぁ、そこまで存在がデカいと国民的レベルですから(笑)。その一方で、傍から見たら自由な生き方をされてるなと思うわけですが。それも反骨心みたいな?
駿河 もちろん自由にはやらせてもらってたっていうか。まぁ親父が元々そういう人っていうのは半分、血は入ってるなとやっぱ思いますよね。
それでいうと、この間、倉本美津留さんっていう構成作家の方で、ダウンタウンさんのブレインとして一時代を作ってきた人ですけど、一緒に飲む機会があった時に言われたのが「やっぱ半分、鶴瓶やな」って。
―共通点というか、受け継いでるものを見切られた(笑)?
駿河 (島田)紳助さんとか(明石家)さんまさんとも昔から仕事をされてて、やっぱ親父のこともめっちゃ知ってるから。僕も1回、WOWOWの『秘密のアクトちゃん』って作品の企画でお仕事させてもらってるんですけど、そこからすごい仲良くさせてもらって。
僕は正直に思ったことを言っちゃう人なんですけど、この間も新年会みたいなので飲んでた時にそう思ったらしいんですよ。“黒鶴瓶”を完全に受け継いでるらしくて(笑)。
―ダークサイドを(笑)。黒には見えませんけど、歯に衣着せず本音を出すとか…?
駿河 親父は“白鶴瓶”もあるからバランス取れてるけど、俺は全員に言いたいこと言うてまうタイプやからと。確かにそのバランス取れてへんわって。「まぁ、太郎はそれでええんちゃう?」って言われたんですけど。やっぱ、俺にはムリやなって。
―それで思い出しましたが、西川美和監督と『ディア・ドクター』のインタビューでお話した時、主演に起用した鶴瓶さんについて「なんか怖いですよね」って(笑)。裏が見えないというか、得体のしれなさがあの役に繋がってると。
駿河 僕の場合、『カーネーション』でやった役でも“黒太郎”はまず出てないわけですよ。でも基本的なスタンスは役者始めた時から変わってないんで、確かに合わない人もいるから(笑)。
―でも今の時代は空気読んだり、特に若い世代は周りに合わせてとか、人の顔色を伺って優等生的な立ち位置になりがちなので。逆にはっきり主張できる個性も魅力なのではと。
駿河 そうですかね。時代に逆行してるのかなとは思いますけど(笑)。
●続編⇒語っていいとも! 第53回ゲスト・駿河太郎「器用に親父の名前ももっと使えば…とか思ってないんで」
(撮影/塔下智士)
●駿河太郎(するが・たろう) 1978年6月5日、兵庫県生まれ。バンド「sleepydog」の活動を経て、30歳になった08年に俳優に転向。11年のNHK連続テレビ小説『カーネーション』でヒロインの夫、川本勝役に抜擢、注目される。2月17日公開の映画『サニー/32』、2月24日公開『たまゆら』、5月12日公開『孤狼の血』、9月28日公開『散り椿』他に出演