【ラーメン】切り立てのチャーシューが丼を覆う! 初めての"ちゃん系"ラーメン:パリッコ『今週のハマりめし』第207回

取材・文・撮影/パリッコ

ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

最近なんだか無性にチャーシュー麺が食べたい。しかも大量のチャーシューがどんぶりを覆いつくし、下の麺が見えないくらいとびっきりの。

そんな気持ちは、日々生活しているとさまざまなメディアを通して目に飛びこんでくるグルメ情報からの刷り込みのような気がする。わかりやすくメディアに踊らされている男。しかもそんな体験を、またこのようにして、立派なメディアに掲載させてもらっている。自分って一体なんなんだろうか......と思わなくはないが、やっぱり今日も腹は減る。ならば食べるしかない。

ところで、自分はあまりラーメン通ではないので、じゃあどの店へ行けば僕の理想とするようなラーメンが食べられるのかがわからない。が、先日仕事で訪れた池袋で、ビビビとくる出会いがあった。その店は「ひろちゃんラーメン」。

「ひろちゃんラーメン」「ひろちゃんラーメン」
外観は新しそうだが、真っ赤な看板に由緒正しき町中華的デザインで「中華そば もり中華」と書いてある。それから立て看板。なんとそこには「切り立てのチャーシューが抜群!」の文字とともに、まさに僕が今求めているタイプのラーメンの写真がどーんと載っていた。これだ!

求めてたタイプ!求めてたタイプ!
さっそく入店。店内はカウンターのみのザ・ラーメン屋といった趣で、しかし若い店員さんが、意外なほど多くカウンター内で働かれている。厨房の一角には大量のチャーシューが置かれ、それをひとりが次々とカットしている。まさに切り立て。いい予感しかしない。

「中華そば」が税込950円で「チャーシュー麺」が1,250円。他に「もり中華」があって「並盛り(2玉)」と「小盛り(1玉)」が1,050円、「大盛り(3玉)」でも1,150円とお得だ。それらの辛さありのバリエーションやトッピングもいくつかあるが、今日はチャーシュー麺だろう。「赤星ビール」(600円)とともに、券売機で食券を買って店員さんに渡す。

では始めますでは始めます
すぐにサッポロラガーの瓶が到着。メニュー表記が、主に大衆酒場での通称である「赤星」なだけで嬉しくなってしまう。サービスの、ねぎメンマをひと口かじってぐびり。細めのメンマがコリコリと、ねぎはしゃきしゃきと小気味いい食感で、さらにラーメンへの期待が高まる。

いよいよラーメンが到着。店員さんが「スープがたっぷりなので、気をつけてお持ちください」と言いながらカウンター上に置いてくれたそれは、確かにスープがたっぷたぷ。どんぶりの下に受け皿があるからいいものの、持ち上げて手元に置くまで気が抜けない。

「チャーシュー麺」「チャーシュー麺」
そして目の前に現れたチャーシュー麺の迫力よ。麺どころかその他の具材もほとんど隠れてしまっており、見渡す限り一面の、肉!

まずはスープをすすろうと、さらによく眺めてみて驚く。ぱっと見はいわゆる昔ながらの東京風醤油ラーメンだが、その表面にたっぷりと透明な油の層があるのだ。のれんで上からすくっただけでは、もはや油を飲むような形になってしまうのではないか? と思いつつもそうするしかないから、おそるおそるひと口。すると......うおー、がっつんときた! 鶏ガラはもちろんだろうけど、もっとしっかりと動物系(豚?)の旨味も効いた、かなりぶ厚い醤油スープだ。見た目はこんなに透明感があるのに、ちょっと衝撃的。適度に口に入ってくるねぎのしゃりしゃりもいい。スープの量が潤沢なこともあり、思わず3口、4口とすすり続けてしまい、いったんビールを飲んで落ち着く。

チャーシューの迫力チャーシューの迫力
続いて待望のチャーシュー。これもよく見ると、脂身が多いばら肉っぽい部分と、しっかりした肉質のロースっぽい部分が混在しているようだ。これまでの人生で食べてきたチャーシュー麺のなかっでもいちばんってくらいに量があるから、思うぞんぶんほおばる。もぐもぐもぐ......あぁ、これはもう、罪な味......。脂身はとろりと甘くとろけ、たのもしい噛みごたえの肉部分はしっかりと豚の旨味にあふれ、そんなお宝がこれでもかと味わえる。豚肉好きの僕にとっての最上級のごちそうのひとつだ。出会えて良かった。

特徴的な麺特徴的な麺
やがてやっと顔を出しはじめたたっぷりの麺が、これまたおもしろい。ラーメンではあまり見ないタイプの平打ちストレート麺で、箸で持ち上げてみると柔らかく感じる。

勢いよくズズズとすする。するとやっぱり、やわめのふわふわ食感で、口当たりはつるつると心地よく、さっきチャーシューを食べていた時の野生的な気持ちはどこへやら、突然に癒しのモードが訪れるのだ。もちろん、あのうまいスープがよく絡み、絶品。

そしてまた、例の細切りコリコリメンマがいい仕事をする。このやわふわ麺に、ただ優しいだけではないアクセントを加えてくれる。なんてハイレベルな一杯なんだろう。

昨今珍しくなくなったとはいえ、ラーメンが1杯1,000円を超えると聞くと、やっぱり安くはないと感じてしまう。が、このチャーシュー麺はもはや、重量級の豚肉料理と極上ラーメンの、ふたつの料理であるとも言える。食べ終わった僕の感想としては、あまりにもお得であったとしか思えない。ごちそうさまでした。

ところで店内の壁に「ちゃんのれん組合加盟店」と書かれた張り紙があった。この店は、昨今人気を増している"ちゃん系"と呼ばれる店のひとつなんだそうだ。

気になって調べた情報によると、ちゃん系の原点は、神田駅ガード下で創業した「神田ちえちゃんラーメン」。後年、その創業メンバーが、新宿に「えっちゃんラーメン」、池袋に「ひろちゃんラーメン」を開業。この3店で行われていた毎月の勉強会が、ちゃんのれん組合の基となったのだとか。

全店が同じではないが、大まかに以下のような特徴があるらしい。

・メインメニューは「中華そば」と「もりそば」
・「達磨製麺」製の平打ち麺を使用
・水色の大きなどんぶりと受け皿に、たっぷりのスープ
・切り立てチャーシューが豪快にのる

なんと、僕が初体験したちゃん系は、由緒正しき3店のなかのひとつだったというわけだ。ありがたや。

ちゃん系ラーメンの店は現在すごい勢いで増えているようで、がぜん大好きになってしまった僕は今、あちこちの店に行ってみたくてたまらない。

【『パリッコ連載 今週のハマりメシ』は毎週金曜日更新!】

  • パリッコ

    パリッコ

    ぱりっこ

    1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
    著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
    公式X【@paricco】

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