道路陥没事故につながる全国「老朽下水道管」危険度マップを公開! あなたの町は大丈夫? 

取材・文/村上隆保 写真/時事通信社

今年1月28日、埼玉県八潮市の交差点で下水道管の腐食による道路陥没事故が発生した。この下水道管は2022年の点検では「ただちに補修の必要はない」と判断されていた今年1月28日、埼玉県八潮市の交差点で下水道管の腐食による道路陥没事故が発生した。この下水道管は2022年の点検では「ただちに補修の必要はない」と判断されていた

1月に起きた埼玉県八潮市の道路陥没は記憶に新しいことだろう。あの事故の原因は下水道管の老朽化だった。そこで国は全国の下水道管を調査し、危険度の高い自治体を公表した。あなたの住んでいる地域は大丈夫なのか? ぜひ確認してほしい!

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■すべての調査が終わったわけではない

今年1月に起きた埼玉県八潮市の道路陥没事故。交差点に突然、直径約5m、深さ約10mの穴が開き、そこにトラック1台が転落。その後、トラックの運転手は遺体となって発見された。

この事故を受けて、国土交通省は地方公共団体に下水道管路の調査(全国特別重点調査)を要請。その結果の一部が9月17日に公表された。

公表されたのは腐食しやすい箇所と判断された「優先実施箇所」約813kmのうちの約730km。実際に潜行して目視したり、ドローンやテレビカメラなどで調査したり、外から叩いてその音で判断した結果、原則1年以内に速やかな対策が必要な「緊急度Ⅰ要対策延長」は約72kmもあった。

公表された約730kmの約10分の1だ。かなり深刻な状況と言えるだろう。

そこで公表結果を基に「どの自治体に緊急度Ⅰの箇所があるのか」「その長さはどれくらいなのか」の地図を作成。色のついている所が、緊急度Ⅰの下水管路がある自治体だ。

まずは、あなたの住んでいる地域はどうなのかを確認してほしい。

ただ、ここでちょっとわかりにくいのが「北海道流域」や「宮城県流域」などの〝流域〟という表現だ。

流域とは、複数の市町村から流れてくる下水をまとめて処理する下水道管のことで、都道府県が管理している。わかりやすく言うと県道と市道の違いのようなものだ。

下水道管の管轄は複雑なので、自分の住んでいる市町村が緊急度Ⅰではないからといって、すぐに安心しないでほしい。緊急度Ⅰの流域の都道府県も危険なのだ。

では、今回の調査結果を『あなたの街の上下水道が危ない!』(扶桑社新書)や『水の戦争』(文春新書)などの著書がある水ジャーナリストの橋本淳司氏は、どう見ているのか?

「これまで下水道管の点検は自治体ごとに行なわれていて、調査基準などが一定ではありませんでした。しかし、今回は国が条件を決めて全国一斉に実施し、その結果を公表しています。下水道管のリスクを一定の基準で〝見える化〟した意義は大きいと思います。

ただし、今回、調査結果が公表されたのは、優先実施箇所約813kmのうちの約730kmです。まだ調査が行なわれていない『未了延長』が約83kmあります。

その中で一番長いのは大阪府流域の23.15km。次が神奈川県横浜市の18.1km。3番目が兵庫県尼崎市の6.94km、4番目は千葉県流域の6.416km。そして、埼玉県流域の4.1kmと続きます。

このような場所は、下水道管内の水位が高かったり、河川を横断するための管の接続が複雑だったりして調査が難しく、作業に危険が伴う場所だと思います。

今年8月に埼玉県行田市で、下水道管の調査中に作業員4人が死亡した事故がありましたが、あのような惨事が起こらないよう十分に注意して調査しなければなりません」

ただ、水位が高かったり、管の接続が複雑な下水道管は、腐食などによって老朽化が早く進んでいる可能性が高い。

「ですから、調査未了延長の場所の結果が公表されてから、総合的に判断する必要があると思います」

■大きな都市ほど老朽化が進んでいる

調査結果に戻ってみると、愛知県流域(11.373km)や茨城県流域(10.519km)、埼玉県流域(3.5km)などが補修の必要な箇所が長い。これにはどんな理由があるのだろう?

「日本の下水道管の普及率は1980年頃が約30%で、そこから徐々に上昇していきます。なので、80年以降に敷設された下水道管は50年といわれる耐用年数には、まだ至っていません。

一方で、大きな都市ほど80年より前に下水道管が敷設されていますので、流域でも市町村でも古くから下水道が発達していたところは、老朽化が進んでいるため緊急度Ⅰの下水道管が長くなるということです」

大都市に古い下水道管が多いということだが、東京都は区部で200m、狛江市で1mとかなり短い。これはどんな理由なのか?

「東京都は下水道事業にかける予算が多く、作業する人も多い。下水道管を専門に点検する第三セクターや民間の会社もあります。メンテナンスをしっかりやっているということです」

逆に言うと下水道事業にかけるお金がないところは、なかなか補修などが進まないということか。

「そういうことになると思います。ただ、先ほど80年頃から下水道の普及率が上がってきたと言いましたが、2000年でも普及率は約60%、2020年でも約80%です。

ですから、下水道事業にかける予算が少ない市町村はそもそもまだ下水道管を引いたばかりで、まだ老朽化していないと言えます。老朽化の問題が出てくるのは10年後、20年後ではないでしょうか。

今回の調査では、下水道を早くから引いたところ、財政的に余裕のあったところの下水道管が老朽化して壊れているという状況だと思います」

ちなみに下水道管の補修費は1km当たり、いくらくらいかかるのか?

「下水道管の口径や埋設されている深さにもよるので、なかなか一概には言えません。埼玉県八潮市の場合は地下10mにありましたから。ただ、目安として1km当たり約3億円といわれています」

例えば、大阪府守口市の場合、緊急度Ⅰ要対策延長が4.697kmなので、約15億円かかるということだ。しかし、守口市の下水道事業の令和6年度予算を見ると約12億円だ。これでは足りない。となると、水道料金や税金を上げることになるのか?

「今ある下水道管を更新するならば、水道使用料を上げることになると思います。ただ、下水道を使わずに生活排水をまとめて浄化処理する『合併浄化槽』などに切り替える方法もあります。

下水道というのは都市向けの汚水処理の仕組みなので、特に人口減少が進む地域などは合併浄化槽の設置を国も勧めています。

そうなってくると、下水道の問題は都市部で大きな負担になっていきます。都市部は人口が集中しているため、生活排水の量が多く、24時間体制で処理をしていくことになります。

そんな状況で下水道管に穴が開いてしまったら、補修に大変な時間と費用がかかりますし、生活にも影響します。八潮市のような穴が、もし渋谷のスクランブル交差点で開いたとしたら非常に大きな事故になります。

都市部で生活している人は、今後、下水道管の老朽化が進み、補修などのために水道料金が上がることも覚悟しておかなくてはいけません。それが、今回の調査結果からわかってきたことだと思います」

普段、水洗トイレなどを気軽に使っているが、こうした生活用水を流す下水道管には多くの問題があることを忘れてはいけない。

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