【サッカー日本代表 板倉 滉の「やるよ、俺は!」】第47回 強豪・アヤックスの信条

構成・文/高橋史門 写真/アフロ

強豪・アヤックスの信条とは?

創立125年、オランダリーグ優勝回数は断トツの28。欧州チャンピオンズリーグでも4度の優勝を誇るアヤックスにクラブ初の日本人選手として加入した板倉滉が語る名門クラブの練習方法、サポーターにまで根づく〝ある教え〟とは――。

■ボルシアMGとアヤックスとの違い

アヤックスでのトレーニング中に負傷したため、日本代表の10月シリーズには参加できなかったが、ブラジル戦の勝利は率直にうれしかった。2失点したとはいえ、3バックの奮闘を感じた。同時に来年のW杯本大会に向けたポジション争いは激化していくだろうとあらためて覚悟した。僕も負けてはいられない。

おかげさまで、ケガはそこまで深刻ではなかった。まずはアヤックスでしっかりと結果を残さねばならない。今回は、今年8月に移籍したこのクラブでの、ここまでの手応えについて語ってみたい。

昨季まで3年間を過ごしたドイツのボルシアMGは、正直居心地がすごく良かった。自分の定位置を確保し、監督やスタッフ、チームメイトからも信頼を得て、不安要素というものがほぼなかった。

ただ、そんな安定し切った環境にずっと身を置いていれば、自分自身のさらなる成長が見込めないとも思った。そこで新天地行きを選択した。

アヤックスは予想どおりボルシアMGとはまったく違っていた。クラブがやろうとしているサッカーも、求められる役割も。

ボルシアMGはどちらかというとフィジカル重視の練習メニューが多かった。例えば、GPSをつけて一定の距離を走ることでスタミナを強化するとか、守備に特化したトレーニングをするだとか。

一方、アヤックスの場合はボールを使った練習、頭を使った練習が主軸。単に対人というより、ボールを持ちながらどこにつけるのか、明確な意図をもって徹底的に行なう。それが僕らCBにも求められる。ポゼッション関連の練習メニューも多い。試合でうまく機能しなかった場合、すかさず翌週の練習で、ビルドアップなどの軌道修正のメニューが取り入れられる。

ちなみに9月の代表招集期間中には、ハイティンハ監督から、5分ほどにまとまった映像が毎日のように送られてきていた。「今日はこういった練習を行なったので、頭の中に入れておくように」と。アヤックスにはボルシアMGとはまた違ったこだわりがある。クラブのレジェンド、ヨハン・クライフが構築したサッカー哲学に基づいたシステマチックなサッカーを日々実践しているのだ。

■宿敵のエース・綺世には負けたくない!

こだわりが強いのはチームだけじゃない。サポーターもまた、僕らに対して求めるサッカーのレベルが非常に高い。

例えば、エールディヴィジ(リーグ戦)の試合で僕らがリードしている展開。自分たちがボールを持てなくてミスが重なってくると、雰囲気が徐々に悪くなり、ブーイングが飛んでくる。これが日本代表の場合だと、サポーターが「ニッポン! ニッポン!」と鼓舞してくれるのだが、その点、アヤックスのサポーターは非常にシビア。なぜなら、渋い試合なんて絶対に認めないからだ。

圧倒的なポゼッション、きれいにパスをつないで、鮮やかなゴールを決めることが求められる。ガチガチに守ってカウンターからゴールを決めて、その1点を守り切るような泥くさい勝利は求められていないようだ。「美しく勝て!」。それがアヤックスの伝統であり、サポーターの求める勝ち方なのだということを実感している。

こうした、ただ勝つだけでは満足しない〝Not Enough〟の精神。これはコーチ陣にも日頃から言われ続けている。

エールディヴィジ優勝は最多の28回、CL(欧州チャンピオンズリーグ)も3連覇を含めて計4回の優勝。絶対に負けが許されないチームだ。僕もフローニンゲンにいた頃は、アヤックス相手に引き分けなら上出来、勝てたら最高といわれて捨て身で挑んだ。それが今では常勝軍団の一員として追われる側になった。

ふと頭をよぎるのは、24年のアジア杯で優勝間違いなしといわれた日本代表での立場。プレッシャーは半端じゃない。優勝することの難しさは嫌というほど味わっている。しかも、アヤックスの場合は普通に勝つだけ、というのもまったく許されない。

それでも、僕は厳しい環境に身を置いて、もっともっと高みを目指したい。今現在、エールディヴィジの首位を走っているのは宿敵・フェイエノールト。エースストライカーの(上田)綺世は代表と並んで、チームでも絶好調だ。

ホームでも、アウェーでも絶対に抑え込まないといけない。しかも僕のポジションだって、まだ確立されているわけじゃない。CBのバースやシュタロら、才能あふれるいい選手がそろっている。だからこそ、しぶといまでの勝負強さだったり、したたかさを磨き上げたい。〝Not Enough〟は、僕自身に向けたい言葉でもある。

板倉 滉

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  • 板倉 滉

    板倉 滉

    いたくら・こう

    1997年1月27日生まれ、神奈川県出身。日本代表CB。川崎Fでプロ入り、2019年に1シーズン在籍したベガルタ仙台からイングランド1部マンチェスター・Cへ移籍。その後、オランダ1部フローニンゲン、ドイツ2部シャルケを経て、現在はドイツ1部のボルシアMGに在籍。

  • 高橋史門

    高橋史門

    たかはし・しもん

    エディター&ライター。1972年、福島県生まれ。日本大学在学中に、『思想の科学』にてコラムを書きはじめる。卒業後、『Boon』(祥伝社)や『relax』、『POPEYE』(マガジンハウス)などでエディター兼スタイリストとして活動。1990年代のヴィンテージブームを手掛ける。2003年より、『週刊プレイボーイ』や『週刊ヤングジャンプ』のグラビア編集、サッカー専門誌のライターに。現在は、編集記者のかたわら、タレントの育成や俳優の仕事も展開中。主な著作に『松井大輔 D-VISIONS』(集英社)、『井関かおりSTYLE BOOK~5年先まで役立つ着まわし~』(エムオンエンタテインメント※企画・プロデュース)などがある。

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