GW明け以降に定番商品が消えていく!? 流通の現場がマジで恐れる「包むもの不足」のⅩデー

取材・文/興山英雄 写真/共同通信社 PIXTA

菓子やパンなど包装材の原料にナフサが絡む商品を数多く置いている小売店は、今後浅からぬダメージを受けるかもしれない(画像はコンビニ店内のイメージ)菓子やパンなど包装材の原料にナフサが絡む商品を数多く置いている小売店は、今後浅からぬダメージを受けるかもしれない(画像はコンビニ店内のイメージ)
ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続く中、いよいよ石油危機が日本にも侵食し始めた。石油資源の供給能力が先細ることで何が起きるのか? 日常生活への影響、という視点で流通の現場を取材。

そこで見えてきたのは、惣菜のトレー、菓子やパンの包装材といった「包むもの」不足が起こることへのシャレにならないほどの危機感だった!

*  *  *

【「わさビーフ」の事例は序章に過ぎない】

3月12日、山芳製菓が主力商品「わさビーフ」の生産停止を発表した。理由は原料不足でも人手不足でもない。工場を動かすための燃料だった。

兵庫県朝来(あさご)市。山あいにある同社の工場では、ポテトチップスを揚げるためのボイラーの熱源に重油を使っている。その供給が途絶えたのだ。

「当時、石油元売り会社による出荷制限の影響で、卸業者から調達困難と申し入れがあり、操業を止めざるをえませんでした」(山芳製菓・広報)

その後、3月下旬に政府が国家備蓄の放出を決定したことで、供給は一時的に回復。「わさビーフ」の生産は再開され、店頭にも商品は戻りつつある。

だが、これは今後始まる危機の序章に過ぎなかったのかもしれない。

2月28日、アメリカ・イスラエル連合軍によるイランへの攻撃が始まり、イランが報復する形でホルムズ海峡は事実上封鎖された。日本は原油の9割超を、この海峡を経由する中東産に依存する。封鎖から3週間後の3月22日、最後のタンカーが日本に到着して以降、中東産原油の輸入は滞ったままだ。

3月26日から放出された石油の国家備蓄は、当初254日分だったが、235日(3月29日時点)まで減り、在庫を食い潰す状況が続く。

「原油が滞れば、食品は製造、輸送、包装のすべての局面で、大きな影響を受けます」

こう指摘するのはスーパーマーケット評論家の三浦慶太氏。では、それぞれの現場では今、何が起きているのか。まずは製造部門から見ていこう。

日本スナック・シリアルフーズ協会の専務理事、岩片弘信氏によると、菓子業界では大手を中心に、工場の熱源を重油から天然ガスへ切り替える動きが以前から進んでいた。天然ガスは中東依存度が1割程度と低く、「『わさビーフ』のような影響は今のところ限定的」だという。

ホルムズ海峡封鎖で燃料調達が困難になり、一時生産停止した「わさビーフ」(3月23日から工場を再開。画像は山芳製菓公式ホームページより)ホルムズ海峡封鎖で燃料調達が困難になり、一時生産停止した「わさビーフ」(3月23日から工場を再開。画像は山芳製菓公式ホームページより)
だが、設備を更新する余力のない地方の中小メーカーでは、今も重油に頼る現場が多く、「重油が止まれば、操業自体が成り立たなくなる」(長野県内のかりんとうメーカー)と、戦々恐々とした日々を送る。

重油不足の影響が、より色濃く表れているのが漁業だ。

千葉・勝浦漁港。生鮮カツオで全国有数の水揚げ量を誇るこの港でも、異変が起きていた。勝浦漁協の管理課長、渡辺和明氏がこう語る。

「燃油価格が2月から急騰しています。本来ならこの時期、全国各地の漁船が往復10日かけて小笠原沖まで出漁し、勝浦港に水揚げしますが、今の燃油代では採算が取れません。漁船は一斉に、近海で操業できる鹿児島沖へと拠点を移しています」

その余波は、すでに食卓へと及び始めている。

「小笠原沖で取れるカツオは1尾8㎏前後の大型が中心ですが、鹿児島近海は2㎏程度と小ぶりになる。

水揚げ量が減る上、鮮度も落ちます。勝浦に揚がれば翌日に関東一円の店頭に並びますが、鹿児島産では輸送日数もコストもかさむからです」

漁業用の燃油調達を担う全漁連(全国漁業協同組合連合会)の担当者がこう続ける。

「海洋環境の変化で不漁が続く中でのこの事態は、非常に不安です。燃油調達に奔走し、現場には省エネ航行を呼びかけていますが、原油の国家備蓄は減り続けている。先行きへの懸念は強いです」
漁業の現場にも影響は甚大。船舶の燃料高騰はもちろんのこと、魚を一時的に保管する発泡スチロールなどの不足も懸念されている漁業の現場にも影響は甚大。船舶の燃料高騰はもちろんのこと、魚を一時的に保管する発泡スチロールなどの不足も懸念されている

【「燃料サーチャージ」の支払いも発生】

では、「運ぶ」現場では何が起きているのか。

首都圏でスーパー向け配送を担う運送会社の関係者が、こう明かす。

「ガソリンが昨年末から約50円、軽油も30円前後上昇しているため、荷主が輸送コストを抑えようと、出荷量を絞る動きが出ているのです。10t車で運んでいたものを4t車に切り替えるケースもあり、一度に運べる物量が日に日に細っています」

こうした中、新潟のある米菓メーカーでは、運送会社からの強い要請を受け、これまで導入してこなかった「燃料サーチャージ」の支払いに踏み切った。

「これまでは個別の運賃交渉でしのいできましたが、今回はあまりにも変動が大きすぎる。さすがに、このままでは運送会社さんが持たないということで、燃料分は運賃とは別立てでお支払いすることにしました。商品への価格転嫁も避けられない状況です」(米菓メーカー・社員)

同社にとって初めての対応だという。だが、こうした措置が業界全体に広がっているわけではない。前出の運送会社の関係者は、現場の厳しい実情を明かす。

「サーチャージの交渉はずっと続けていますが、大手の流通や小売りは簡単には首を縦に振ってくれません。上昇した燃料費はこちらで抱え込むしかない。結局、賞与や昇給のための積立金を取り崩している状況です」

では、小売りの現場はどうか。前出の三浦氏はこう指摘する。

「今回の石油危機以前から、食品の店頭価格は高騰していました。例えば、ブラジル産の鶏肉は、以前は安価で売りやすい商品でしたが、同国での鳥インフルエンザの流行や運賃の上昇などを受けて高騰し、取り扱いをやめる店が出てきています。

包装資材(包材)についても、イトーヨーカドーがフタ付き包材の使用量を減らす検討を始めるなど、影響が出始めました。商品、包材の両面で調達が難しい状況を迎え、品ぞろえを維持できなくなる懸念が大きいです」

都内でディスカウントスーパーを経営する社長は、こんな不安を吐露する。

「日配品の配送業者から、1回の配送につき燃油高騰分として『500円』を上乗せしてほしいと泣きつかれました。こんな要求は初めてです。

また、仕入れ先の飲料メーカーはペットボトルの調達を諦め、設備投資をしてまで自社で内製化する方針に切り替えた。さらに先日、長年取引のあった惣菜容器のメーカーが廃業したという報告を受けました」

ひとつひとつは小さな変化に見えるが、「今まで感じたことのない、嫌な異変が起きている。そんな感覚がある」という。

【作っても包めない】

「フィルムが足りません」

東海地方にある包装資材卸の営業担当者は、疲れ切った様子でそう漏らす。

スーパーやコンビニに並ぶスナック菓子や加工食品。そのパッケージは、ただのビニール袋ではない。外側は印刷に最適なポリプロピレン、内側は光や酸素を遮断するアルミ蒸着フィルム、と高性能フィルムが幾重にも貼り合わされ、品質の劣化を防いでいる。

そして、そのほぼすべての原材料が、原油を精製して得られる「ナフサ」だ。前出の営業担当者がこう続ける。

「ナフサ不足で、大手化学メーカーが一部フィルムに出荷制限をかけ始めています。現場では争奪戦が激しくなり、既存ルートだけでは回らない状況です。新規の調達先探しに奔走し、あらゆる手を尽くしているのですが......過去に経験のない事態で、正直、先が見えません」

実は、包装材には代用品がない。素人目には、原料が不足しているならフィルムを薄くしたり、石油を使わない紙へ切り替えたりすればよさそうに思えるが、現実はそう甘くない。包装資材の技術コンサルタントが解説する。

惣菜を入れるトレーにも影響は必至だ(画像は惣菜売り場のイメージ)惣菜を入れるトレーにも影響は必至だ(画像は惣菜売り場のイメージ)
「食品ごとに必要な"バリア性"はまったく異なるんです。酸素バリアが欠ければ中身はすぐに酸化して腐敗が進み、水蒸気バリアが崩れれば、食感が台無しになる。これらを保つフィルムは食品の生命線ですから、そう簡単に仕様を変えるわけにはいきません」

厳格な法規制と流通のルールも現場を縛る要因になる。

「包装資材で使える材質については、食品衛生法でガチガチに固められています。出どころのわからない代替品を即興で使うことなど、法律が許しません。

また、コンビニや大手スーパーとの契約も、パッケージの細部に至るまで厳密。たとえ中身が同じでも、シール1枚、ふたの形状ひとつ、契約と異なれば納品すら受けつけられないのが実情です。衛生管理に直結するデリケートな商材だからこそ融通が利かないのです」

どれだけ中身を作ることができても、それを「包めない」時点で商品にはならない。包装できなければ出荷は止まり、店頭にも届かないのだ。

【包装資材の供給能力が半減したとき、小売りの現場で何が起きる?】

「ガソリンや軽油といった輸送系の燃料よりも先に、ナフサの供給が限界を迎えるシナリオが現実味を帯びている」

そう警告するのは、防災アドバイザーの高荷智也(たかに・ともや)氏だ。

「ナフサは原油をもとに作られますが、国内の製油所で生産されるのは全体の約4割に過ぎません。残りは輸入に依存しており、その7割超がホルムズ海峡を経由した中東産です。その供給が、完全に断たれているのが現状です」

さらに事態を深刻にしているのが、ナフサ特有の備蓄の薄さだ。

「ナフサはガソリンや軽油などと違い、法律に基づく国家備蓄の対象ではありません。頼みの綱は、石油元売り各社や、化学メーカーが持つ民間在庫ですが、資源エネルギー庁が把握している量は約113万kl、国内消費量の10日分程度に過ぎません。

それに加えて、メーカーが工場のタンクなどに抱える非公表の流通在庫を合わせても、せいぜい20日分程度とみられています。ナフサは揮発や酸化が進みやすく、長期保存に向かない"生モノ"だからです」

では、この「20日分」という在庫の量は、どれくらい「薄氷」なのか。高荷氏は冷徹な数字を突きつける。

「平時、日本で必要とされるナフサの量は、1日当たり約10・3万klです。これに対し、現在確保できる見込みがあるのは、中東以外からの輸入分約1万klと、国内の備蓄原油から精製できる約4万klを合わせ、1日5万kl程度にとどまります。

不足する5万klを毎日、在庫から切り崩していけば、単純計算で40日後には底を突く。在庫が尽きた時点で、ナフサの供給量は平時の半分に落ち込むでしょう」

つまり、こういうことだ。

「このままの戦況が続き、原油やナフサの代替調達が実現しないなら、早くてゴールデンウイーク明けにも、日本の包装資材の供給能力は半減する可能性があります。ゼロにはなりませんが、それ以降は、これまでどおりの物量を流通させることは物理的に不可能になる。

限られた包装資材の原料を『医療用に優先する』『次は食品用に回す』といった公的なルールは、現行の法制度には存在しません。メーカーは、どの商品を優先し、どの商品を"捨てる"かという残酷な選択を迫られることになります」

代替調達は可能なのか?

「日本はナフサ輸入の約1割を韓国に頼っていましたが、同国はすでにナフサの輸出停止を明言しました。他国も原油不足で自国の生産維持に手いっぱい。商社が水面下で奔走していますが、世界的な買いつけ競争に勝てる保証はどこにもありません」

そして、原料を確保できたメーカーは生産を維持できるが、買い負けたメーカーは供給が止まる。

菓子卸の関係者は、こんな不安を口にした。

「食品の中でも菓子は単価も利幅も低く、嗜好品(しこうひん)でもあります。おそらく真っ先に削られるでしょう」

だが、問題はそれほど単純ではない。高荷氏がこう語る。

「このままの状態が続けば、何が、いつ、どこから消えるか予測不能であることが最大のリスクとなります。コンビニでペットボトルの供給が止まり飲料が先に姿を消すのか、容器が作れず弁当の販売が止まるのか、あるいはスナック菓子が犠牲になるのか。

ただ、ひとつ言えるのは、定番の商品がひとつ、またひとつと出荷が止まり、じわじわと売り場から姿を消していくということです」

そして、どこかのタイミングで消費者がパニック的に買い占めに殺到する――かつてのオイルショックを彷彿(ほうふつ)とさせる光景の再現が、現実味を帯びつつある。

そうなる前に、戦況が収束することを願うばかりだが、5月の連休明けまで、残された時間は多くない。

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