「まさかエロ本に掲載されたルポが最高とは」坂口孝則の「極私的ベストヒット10作【2025年ver.】」

写真/時事通信社

ゴールデン・グローブ賞の最多9部門にノミネートされた映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』に主演したレオナルド・ディカプリオゴールデン・グローブ賞の最多9部門にノミネートされた映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』に主演したレオナルド・ディカプリオ
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「2025年版 私的ヒット番付」について。

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2025年、各ジャンルの私的ベストを公開したい。

【IT・ガジェット編】

①Gemini 3(Google) 
生成AI。プログラミング、プレゼンテーション作成、文章作成補助、業務分析まで。完全に仕事のやり方を変えた。2026年も各社の進化が楽しみだ。

②Plaud(Plaud Inc.) 
薄型録音デバイス。ワンプッシュで録音、クラウドに保存し、文字起こしできる。精度が高く、さらに要約も完璧だ。メモや議事録などの概念が変わる。これらのツールで生産的になり、空いた時間を私たちは何に使うのか。もちろん非生産的な時間に使おう。

【映画・ドラマ編】

①『ANORA アノーラ』(ショーン・ベイカー監督) 
米国のストリッパーとロシア新興財閥の御曹司の身分違いの恋愛、婚約、そして破談。米の底辺と露の上流、もし逆だったら成立しない構図に落涙する。ラストシーンまですべてが可憐(かれん)で美しい。

②『ワン・バトル・アフター・アナザー』(ポール・トーマス・アンダーソン監督) 
主演レオナルド・ディカプリオの最高傑作。革命家カップルから生まれた娘、なぜか彼女を狙う軍人。カーチェイスに銃撃戦、アクション。スカッとするエンディング。最高の3時間。

③『爆弾』(永井聡監督) 
暴行事件を起こした中年男性のスズキタゴサク。取調室で都内に爆弾を仕掛けたと供述し、実際に爆発が起こる。警察とのスリリングなやりとり、男の宿痾と背景。緊張のまま全編が終わる。佐藤二朗さんの異常な怪演。代表作となるだろう。

【書籍編】

①『HACK』(橘玲) 
書籍編の圧倒的1位。東南アジアを舞台に暗号資産にかかわる金融詐欺を描く。国家間インテリジェンスの思惑に籠絡される主人公たち。宗教と家族観、人生と恋愛まで、すべてを包括したすさまじきエンタメ小説。徹夜読み確実。私はいつになったら橘さんから卒業証書をもらえるのだろうか。

②『調査ルポ この日本の片隅で』(鉄人社編集部) 
職業柄、ルポルタージュを数多く読むが、まさかエロ本(『裏モノJAPAN』)に掲載されたルポが最高とは。ホームレスになった理由、東京駅から品川駅まで新幹線で行く理由、深夜に女性が一人でいる理由。市井の人びとを剥き出しにしていく。まるで開高健さんのルポの令和版ではないか。

③『作曲という名の戦場』(小野貴光) 
音楽はすべてにおいて時代を先取りする領域だ。AIが見事な音楽を作成できる時代に音楽家はどう生き残るか。1ページ目から動悸(どうき)が止まらなかった。過酷な少年時代から音楽への目覚め。職業音楽家としての地獄のコンペの日々。しかし文面からは音楽愛しか伝わってこない。全職業人が読むべき現代の覚悟の書。

【音楽アルバム編】

①『APOCALYPSE』(DOOM) 
アヴァンギャルド・ロック・バンドの約9年ぶりのアルバム。過剰なリズム、予測不能なメロディ、楽器同士の重なりのスリリングさ。人間とはこれほどまでに進化が可能なのか。

②『BE:ST』(BE:FIRST) 
楽曲、ダンス、ルックス。日本代表ってことでいいんじゃなかろうか。しなやかで強く美しい、新たな男性像を世界にはじめて(FIRST)提示した。

そして、ここまで読んでいただけた皆さんが私の2025年のベストです。

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  • 坂口孝則

    坂口孝則

    Takanori SAKAGUCHI

    調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

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