佐々木麟太郎はソフトバンクに入る? 異例のドラフト指名の背景を解説!!

取材・文/菊地高弘 写真/アフロ

スタンフォード大2年の佐々木。ドラフト1位指名したソフトバンクに入団するかどうかの決断は、来年のMLBドラフト終了後になりそうだスタンフォード大2年の佐々木。ドラフト1位指名したソフトバンクに入団するかどうかの決断は、来年のMLBドラフト終了後になりそうだ

"怪童"は来夏までにどんな決断を下すのか――。2025年10月23日に開催されたプロ野球ドラフト会議。最大のサプライズは、ソフトバンクとDeNAによる佐々木麟太郎(スタンフォード大)の1位指名だった。

抽選の結果、ソフトバンクに佐々木の交渉権が渡ったことは、メディアによって広く報じられている。だが、佐々木が実際にNPBでプレーするのかどうか、不透明な部分は大きい。そもそも、このトピックの本質を理解していない読者も多いに違いない。

今回は「佐々木麟太郎はソフトバンクに入団するのか?」というテーマで、怪童の行く末を考察してみよう。

佐々木は岩手・花巻東高の出身で、高校通算140本塁打を放った超高校級スラッガーである。身長184cm、体重113kgという日本人離れしたビッグサイズで、当然ながらプロのスカウトも注目するドラフト戦線のトップランナーだった。

なお、父・洋は花巻東の監督であり、菊池雄星(ロサンゼルス・エンゼルス)や大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)の恩師である。

しかし、佐々木は高校3年時にNPBへプロ志望届を提出せず、アメリカのスタンフォード大への留学を表明する。スタンフォード大は世に名高い難関大学であり、フルスカラシップ(授業料などが全額免除)での佐々木の入学は衝撃的なニュースだった。

それから2年がたち、佐々木はスタンフォード大の2年生になった。このタイミングでのドラフト指名に「佐々木はハイレベルな学業に音を上げて、尻尾を巻いて日本に帰ってくるのか?」と邪推した人もいたかもしれない。

だが、実態は異なる。アメリカの大学生は3年生以上、もしくは21歳以上の選手がドラフト会議の対象になる。26年4月で21歳になる佐々木も、来夏のMLBドラフト会議での対象になる。

アメリカでは大学卒業前にMLBに進み、現役引退後に大学へ復学して卒業するケースも珍しくない。佐々木が大学に進学する際、スタンフォード大のデビッド・エスカー監督は自信満々に語っていた。

「私がこれまで携わった野球部員は、100%大学を卒業しています」

佐々木自身も、渡米前からMLBドラフトの対象年齢となる大学2年時をひとつの区切りと考えていた。大学進学前に筆者がインタビューした際、佐々木はこう語っている。

「NPBを含めて、2~3年後にドラフトで指名していただけることが理想です」

大学2年の段階でドラフト指名を待つことは既定路線でもあったのだ。

それでは、なぜ希望どおりにNPB球団からドラフト指名を受けたにもかかわらず、佐々木はソフトバンクへの入団を即決しないのか。ここには、アメリカ野球の仕組みが大きく関わっている。

アメリカの大学は9月に入学、5月に卒業というケースが主流。佐々木の大学2年目は始まったばかりだ。大学野球は2月から5月にかけて実施される。つまり、来年5月を待たない限り、佐々木の大学2年目は終わらないのだ。

そして、毎年7月のオールスターゲーム期間にはMLBのドラフト会議が実施される。来年からドラフト対象になる佐々木が、MLB球団から指名される可能性は十分にある。

指名された場合、佐々木はMLB球団とソフトバンクの両球団と契約交渉することになる(ソフトバンクの契約交渉期限は26年7月末まで)。つまり、来年のMLBのドラフト結果が出ない限り、佐々木の進路が決まらない可能性は高いということだ。

佐々木はアメリカ学生野球最高峰のNCAA(全米大学体育協会)ディビジョン1(アトランティック・コースト・カンファレンス)でプレーしている。昨季は52試合の出場で打率.269、7本塁打、41打点という成績だった。

日本国内の一部メディアからは「苦戦した」と評されもしたが、慣れない環境でハードな学業面をこなしながら戦ったことを思えば大健闘と言えるだろう。環境に慣れた2年目に成績を上げ、MLBスカウトから高い評価を勝ち取る可能性は十分にある。

佐々木は高校時代から、強いMLB志向を明かしていた。ただし、強調しておきたいのは、スタンフォード大に進学した理由は「MLBへの近道だから」ではない。

渡米前に筆者が本人や花巻東関係者を取材する中で見えてきた、スタンフォード大進学の決め手になった3つの要素を示しておきたい。

【1】高校3年時に背中を痛めて打球が上がりにくくなり、NPBスカウトからの評価が上がり切らなかったこと。

【2】打撃特化型の佐々木のプレースタイルは、OPS(出塁率+長打率)を重視するアメリカ球界のほうが評価される可能性が高いこと。

【3】故障が多い身体特性であり、現役引退後を見据えて、さまざまな学びを得られる環境に身を投じたいこと。

つまり、MLBありきのアメリカ留学ではなかったのだ。大学2年目のシーズン結果次第では、ソフトバンクへの入団も現実味を帯びてくる。

最後に、佐々木の選手としてのポテンシャルにも言及しておきたい。破壊力抜群の佐々木の打球には、過去の日本人打者にはないロマンがある。花巻東からは偉大なOBの輩出が続いたこともあり、佐々木への期待感も必然的に上がってしまうが、父の佐々木洋監督はわが子に対して冷静な見方を示していた。

「伸びしろや才能という意味では、雄星、大谷ほどのものは感じていません。ここまで、才能より努力でやってきた選手だと思います」

才能ではなく、努力でのし上がってきた怪童。来年の夏、佐々木がどんな決断を下すのかは誰にもわからない。それでも、21歳が信念を持って突き進む地平の先には、誰も見たことのない世界が広がっているはずだ。

  • 菊地高弘

    菊地高弘

    きくち・たかひろ

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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