フェルナンデスは7月13日、「可及的速やかに自己破産手続開始の申立を行う予定」と発表。前身の斉藤楽器の創業(1969年)以来、日本を代表するギターメーカーとして布袋寅泰、hideなど有名ギタリストのモデルも手がけてきた(同社ホームページより) フェルナンデスは7月13日、「可及的速やかに自己破産手続開始の申立を行う予定」と発表。前身の斉藤楽器の創業(1969年)以来、日本を代表するギターメーカーとして布袋寅泰、hideなど有名ギタリストのモデルも手がけてきた(同社ホームページより)
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「フェルナンデス倒産」について。

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レコード『BOØWY』(BOØWY)をB面に裏返したとき、「何だこりゃ?」と思った。不思議な、かつ衝撃的なギターカッティングだった。

曲は『BAD FEELING』。場所は佐賀県佐賀市長瀬町の知人宅2階。私は小学6年生。ザ・ブルーハーツのポスターが貼ってあるその部屋で、知人の兄のレコードを聴かされたのだった。

当時、発売から数年が経っていた同アルバムを知人兄は愛し続けていた。作曲兼ギタリストは布袋寅泰(ほてい・ともやす)さんというらしい。もちろん当時は読み方もわからなかった。

40歳を超えると「人生初の経験」は少なくなる。とくに音楽や文学、演劇などはそうかもしれない。どうしても新たな作品が昔の作品の焼き直しに思えてしまう。

だから人びとは幼い頃に受けた衝撃から逃れられないのだろう。『BAD FEELING』のイントロには、危うさ、スリリングさ、洒脱(しゃだつ)、私が知らない何かがあるように感じた。

中学生になり、雑誌『BANDやろうぜ』や『GiGS』を読んで布袋さんを発見した。白黒のストライプが印象的なギターに目が留まった。その名がフェルナンデス。

当時は外国のギターメーカーと思っていた。TAB譜(ギター用楽譜)さえあれば曲の練習ができる。佐賀駅前の久米楽器でフェルナンデスを買った知人がいて、私も『CLOUDY HEART』のギターソロを練習した。片田舎でまわりは何もなかった。ギターの練習が何になるかもわからなかった。

その後、私はヘビーメタルに傾倒しフェルナンデスを「卒業」。ESP(ギターメーカー)に乗り換えた。ただ、きっと私のように、青春のある瞬間の記憶が、フェルナンデスや知人たちとの思い出と分かちがたく結びついている人は多いだろう。

フェルナンデス倒産のニュースが飛び込んできたのは7月の中旬だった。Xで知人がリポストしていて「まさか」と思った。倒産といっても事業再生を目指すのかと思ったら、破産手続きを開始するという。当稿執筆時点では、ブランドを継承する事業者がいるかも不明だ。

東京商工リサーチによると、全盛期に40億円あった売上高が、2022年1月期には1億6608万円に。負債総額は約7億円のようだ。

客単価がざっくり10万~15万円と仮定すると、年に1000本ほどの販売数量にとどまったということか。同社の従業員は11名程度と推測されている。数年前のデータだが、中小企業白書によると製造業の一人当たり売上高は平均3200万円。その約半分だ。

コロナ禍の巣ごもり需要で楽器需要が多少は盛り上がったといわれるものの、10~20年前と比べると国内の楽器店市場は縮小している。

パソコン一台あればDAW(音楽制作用のソフトウェア)で楽曲が完成する。AIも使える。楽器メーカーは世界の市場を目指すか、高価格帯でブランディングしなければならない。

ただ、生身で演奏をしたい原始欲求は存在する。アマチュアの中高年がまばらなお客(ほぼ身内)の前で演奏する楽しそうな顔。彼らに手に取らせる物語があるか。

お客としても、私のように昔話でセンチメンタルになるより重要なのは、お金を払って支えることだ。文化継承のためだ。ひさびさにESPでも買おうかな......。当稿を妻が読んで金銭的に私を支援することを期待したい。

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坂口孝則

坂口孝則Takanori SAKAGUCHI

調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

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